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90.水面下の波紋


「貴女っ!聖女であるわたくしに口答えするだなんてっ信じられませんわっ!なんっって非常識なのかしらっ!


今やこの国の王位継承権も聖女であるわたくしが握っているし、妖精達でさえわたくしの言う事を聞いているというのに、それでも貴女はわたくしに頭を下げないと言うのね?」



「 ……… 」

アリーシアは何も言わずアルヴィナを見つめる。



「フンッさすがに驚いたかしら?でも今更後悔しても遅いわよ?フフ…まぁそうね…この場で膝をつき頭を下げて謝罪するならば、考え直してあげてもいいわ!寛大でしょう?」


アルヴィナの先程の発言で黙ってしまったアリーシアに気を良くしたアルヴィナは腕を組みあごを上げ、これでもかと威圧的な態度をとっていると、お約束の様にアルヴィナの友人(取り巻き)達が


"さすが聖女アルヴィナ様ですわ"だとか、"お心が広くていらっしゃるわ"などと異様に褒め称えている…。


聖女の威を借る取り巻き達は、アリーシアに


「「さぁっ聖女アルヴィナ様がこう仰ってくれているのです。早くひざまずき謝罪をなさい。」」と責め立てた…。


それらの暴言に対してアリーシアは…


「他国の人間であるわたくしが口を挿し挟むべきではないのでしょうが…王家の…ましてや継承権に関わる話など、たとえ学園であっても…いえ、将来を担う若者が集う場だからこそ簡単に口に出してはいけません。


それと、妖精達は言う事を聞いて力を貸すのではありません。互いを信用し、互いを思い合い、互いに助け合うのです。そして妖精達は常に自由で…とても尊き存在なのです。


わたくしに対しては考え直してくださらなくて結構ですが、妖精達については…心にお留めおきください。さすればわたくしはどの様にも謝罪いたします。」


そうやってアリーシアは毅然と言い放ち、一度辺りを見回し、周囲の生徒達に"お騒がせして申し訳ございません"と頭を下げ…アルヴィナ達に向き直り膝をつこうとした……

しかしアルヴィナ達はアリーシアの発言も態度も気に入らず、更に"生意気だ"だ"早く跪け"と怒りを増し、周囲の人だかりに気付きもせず気を配る事もしない…。

そして近くの友人やオリビア達がアリーシアのそれを止めようと手を差し伸ばした時…


「そこまでだっ!何をしているっ!」


普段であれば生徒達の活力溢れる憩いの場で、殺伐とし…物々しい怒号を浴びせていたアルヴィナ達にもその声は届いた…。


人だかりは自然とふたつに分かれ道を作り、キャルム王子と数名がアリーシア達の騒ぎを聞きつけやって来た。


その後方からはラシュカールが王子をも押し退ける勢いでアリーシアのもとに駆け寄り、膝をつく寸前のアリーシアを優しく立たせ無事を確かめた。


制服のスカートの裾を軽く払ったアリーシアは大丈夫だと微笑み、ラシュカールを安心させた。


そして王子に向き直り完璧な挨拶をし、騒ぎを起こして多忙な王子に足を運ばせた事を謝罪した。


自分が至らぬせいで聖女達と行き違いが生じ、その事で話し合っていただけであり…誤解も解けた為、王子が心煩わせる事は何も無いと…。


アリーシアがこの場を収めようとそう発言したのだが…



聖女アルヴィナはそれをも許さなかった…。

自分に向けない笑顔も、完璧で礼節ある挨拶も…聖女である自分を差し置き王子の心配をしている事も…。


アルヴィナ達はキャルム王子達の登場に動揺していた為アリーシアがこの状況を穏便にと説明したのだが…


(なによっ!どうしてキャルム様達はあの女の事だけを心配してるの?何故聖女であるわたくしにまず声を掛けないの?何故あの女はわたくしに従わないのよっ!…)


悔しさと黒い感情からギリッと音がしそうなほど歯噛みをしてアリーシアを睨むアルヴィナの身体から黒いモヤが揺らぎ出てきた。


アルヴィナ自身でさえも気付かぬその異変に、アリーシアだけが気付き、慌ててアルヴィナに声を掛けようとするが…


アルヴィナは王子に対しての挨拶も…弁解もせず、アリーシアを憎悪のこもった瞳で睨んで何も言わずに立ち去った…。


アリーシアはリリー・カーターの怒りのこもった燃える様な瞳を思い出し…嫌な予感と黒いモヤが気になりつつもアルヴィナ達が立ち去る後ろ姿を心配げに見つめていると、キャルム王子が心配気に詳細を求めてきた。


アリーシアは平気を装っていたが、前回同様…アルヴィナと対峙するとどうしても気分が悪くなってしまい…立っているのも辛かった…しかし王子の質問を前にこの場を辞す事も出来ず…


「キャルム様…本当にご心配いただく事は何も…」


「アリーシア!何を言っている、その様に青褪めた顔をして…しかも君は聖女に対して膝をつこうとしていた様に見えたが?彼女達の怒声も聞こえていたんだぞ?


…君()聖女を庇い口をつぐむつもりなのか?」


キャルムの責めるようで、そしてどこか悲し気にも聞こえる言葉にアリーシア達が戸惑っていると…


「キャルム!アリーシアの顔色が悪いと言うなら早く医務室で休ませなさい。あなたまでそんな状態のアリーシアを責めてどうするの!

ほらっ、ラシュカール!キャルムの事はわたくしに任せて早くアリーシアを休ませてあげなさい。」


「アンリエッテ王女感謝いたします。」


許しを得たラシュカールはアンリエッテに礼を言うと、アリーシアが王女に頭を下げて礼を言おうとする所を横抱きにしてオリビアと急いで医務室へと向かった…。



倒れてしまうほどの重圧に耐え、聖女に対して常識を諭し…公爵令嬢であるのにこの場で謝罪をし頭を下げた、『謙虚にして驕らずの姿勢であったアリーシア様…』と先日から本人不在にして株が上がるアリーシアとは対極に聖女の傲慢さが浮き彫りとなった今回の出来事…。


その場に居合わせた生徒達が多かった為…学園に噂が広まるのも仕方がなかった。聖女の手前…水面下ではあったが、静かに波紋のように広がっていったのであった…









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