88.報告会
「お待たせしてすみませんっ!」
談話室のアリーシア達のもとに慌ててやってきたラシュカールに、アリーシアは昼間の事を改めて礼と謝罪をしてラシュカールの手を心配すると、何故だかオリビアが大丈夫ですよと返事をして話し合いが始まった。
シリウスから学んだ音や声を遮断する魔法を軽くかけてから話をする。個室ではなく、あえて誰もが使えるスペースの人の出入りがある場所で…全てを遮断するのではなく近付かないと聞こえないほどの弱い魔法…こうやってオープンにする事で疑惑や疑いの目を背けつつ報告会を行った三人は、お互いが持ち寄った情報を擦り合わせていく。
まずはオリビアがあの後の事を教えてくれる。
「あの方達もアリーシア様の事を心配なさってました…そしてわたくしの事も。しかし聖女様達はアリーシア様とわたくしの事でとても憤慨されていたそうです…。
聖女様とされている彼女の名はアルヴィナ・セラーズ、セラーズ公爵家の次女でわたくし達と同学年であり、取り巻き…いえ、ご友人も多いようですが…聞いた話ですと弱味を握られていたり、ご実家のご事情などがあり逆らえない方々が多いのだそうです…。
その上学園に入られてから聖女様と認定されたとあって、公爵家である彼女の傲岸不遜さに拍車をかけている状態なのだそうです…。
「なるほど…聖女様とは尊く稀有な存在であり、どの国も喉から手が出る程欲する存在ですからね…。(チラ)しかし伝説の精霊達や聖獣様に祝福され愛されている真の大聖女様はこちらにいらっしゃるというのに…その上知らぬ事とはいえ、我々にちょっかいをかけてくるなど全く困った事になりましたねぇ…」
そう言ってラシュカールは笑顔でありながら何やら不穏な空気を纏いつつ、聖女に関しての事を話し始めた。
まずはアルヴィナが聖女と認定された経緯だが、それは王都にある一番大きな教会の司教にお告げがあり、大司教と共に神殿で聖力の鑑定をしたところ…それが認められ、今では治癒や浄化の聖女として認識されているそうです。
今は国内だけにとどまっておりますが、今後国外へのアピールも始まるでしょう…。ただキャルム王子も仰っていたように、今現在この国の王家と教会は水面下で対立しております。
聖女を盾に利権や主導権を握りたい教会や神殿サイド、そして聖女を取り込みたい王家…国王は王子と王女に対して、聖女を引き入れた方に王位を渡すと宣言されたそうです…。なので一昨年第一王子の失脚の後キャルム様が王太子となられてましたが、今は王太子ではなく正妃様のお子であるアンリエッテ王女と競い合っている状況なのだそうです。」
オリビアとラシュカールの話を聞いたアリーシアは、しばらく考えて自分の考えを口にした。
「お二人の話を聞いて考えたのですが…まず、神殿での聖力の確認…真偽は明らかですが、どこがどの様に繋がっているのかを明確にしたいですわね…言い方は悪いですが、公爵家が担がれているだけなのか…それとも先導しているのか、それと王家のお二人ですが…対立しているのであれば、何故お二人揃って私達に話がきたのでしょう?出し抜きたいのであれば個別に探られるはず…」
そうアリーシアは自分が抱いた疑問と、自分が自室で妖精達に聞いた話を二人に打ち明けた。
「妖精達を犠牲にし、聖女の力とやらを使う事で聖女様の名を騙っているのであれば…途轍もなく悪質で許し難い事です!アリーシア様の妖精達も危険なのでは?」
「あの方アリーシア様にはご自分の力は特別だからと勿体ぶったのに!男子生徒にはお使いになるなんて!
今日だってアリーシア様を牽制なさって……あの方キャルム王子の妃の座を狙っているはずなのに…
アリーシア様、本日お友達になった方達も心配されてましたわ、あの偽聖女様ご自分以外の女性が目立つ事に、とかく敏感なんですって!アリーシア様も妖精達もより一層注意と警戒が必要ですわ!」
「新生活が始まったばかりだと言うのに、お二人には心配ばかりかけてしまって…申し訳ございません…」
シュンとするアリーシアに、二人は慌てて声を掛ける。
自分達が大切なアリーシアを心配するのは当然であり、危険な目に遭わない様、今後も報連相を密に取り合い…更にこれ以上この国の王位継承や聖女の事で大事になる様なら自国の介入も覚悟しつつ、妖精達の事を優先して対処をしようと言う事で落ち着いた。
オリビアとラシュカールはエミリーが自ら動いた、という事を聞き…安心と期待をしつつ自室へ戻って行った。
アリーシアも自室へ戻り、エミリーを待つ間シリウスに報告する為意識を集中させ、シリウスを呼んだ。
それに応えたシリウスに事のあらましを話している途中で、疲れからかアリーシアの意識が途切れてしまったのであった……
〈アリーシア?ねぇっアリーシア!返事をして!〉
会話の途中でアリーシアからの反応が無くなってしまったシリウスは、たった今聞いていた話の内容からも心配になり…誰にも告げる事なくアリーシアの元へと転移してしまうのであった…




