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86.ラシュカールの切なる想い


「アリーシア様っ!!」


そう慌てた様子で医務室に駆けつけたラシュカールは、ベッドで眠っているアリーシアを確認して、オリビアに詳細を聞き、静かに息を吐いた。


「朝から心配はしておりましたが、他の方達とお話をされている時は体調も戻られていた様子でしたのに…」


「報告では、ある女生徒達が貴女達に絡んできたと聞きましたが…詳しく聞いても?」


ラシュカールに状況を問われたオリビアは、仲良くなった女生徒達から聞いた話も含めて…全てをラシュカールに伝えた。そして、それまで体調が回復したように思われたアリーシアが、その女生徒達が会話に割って入って来た途端に青ざめ、体調が急変した事を強調した。


「何を感じられたのかは分かりませんが…あの方達を見た途端でしたもの…とてもお辛そうに…それなのに、わたくしの事を庇ってくださって…。わたくしの事なんてどのように思われても、言われても構いませんのに…」


「アリーシア様だよ?私はその場にいなかったが、その時の状況は容易に想像できるよ…私も同じ様な経験をしたからね…アリーシア様とはそういう方なんだ…。


しかしアリーシア様は大丈夫なのだろうか…心労だけではないのではないだろうか…」



二人が心配しながら小声で話をしていると、アリーシアが顔を歪めうなされ、額には汗をかいて苦しみだした!

驚き慌てた二人はアリーシアに声をかける。

アリーシアには二人の声が届いていない様で、ベッドから出した手を宙に彷徨わせながらうわ言を言っている。


ラシュカールは思わずそのアリーシアの手を握り、再度声を掛ける。握られたその手を握り返すがアリーシアの意識はないようだ。

オリビアは動揺しながらも、席を外している医務室の医師を呼びに行こうとしたところでラシュカールが

"アリーシアッ!!"と一際大きな声でアリーシアの名を呼んだ。するとその声に反応したかのごとくアリーシアは目を開け、薄紫色の瞳いっぱいに涙をためたかと思うと止めどなく涙を流して声を上げて泣き出した。


ラシュカールは堪らず繋がれたままの手を引き、アリーシアの身体を起こし抱きしめた。

背をさすりながら、意識を取り戻すように再度アリーシアの名を呼ぶ…今度は小さな子をあやす様に優しく呼び掛ける。ラシュカールのその優しい声にアリーシアが反応を見せ、抱きしめられた腕の中からゆっくりと顔を上げるが…その瞳からはいまだ涙がこぼれ落ちている。

ラシュカールはアリーシアのその大粒の涙を、頬を包み親指で優しく拭う…

ここでようやくアリーシアの意識がハッキリと戻るが自分の置かれている状況が理解出来ずにいると…オリビアも心配そうにアリーシアに寄り添い声を掛ける。


アリーシアは自分がうなされていた事を聞かされ、昨夜も同様に鮮明でとても恐ろしく…そして悲しい夢を見たのだと二人に打ち明けた。

傷付き消えていってしまった妖精を、花壇で見たせいか…夢の中で沢山の妖精が傷付き、苦しんで助けを求めており、先程も同じ様な夢を見たのだと…

そう言って苦しそうに胸を押さえようとしたが、そこで自分の手がラシュカールと繋がれている事に気付いて、"あっ"と思わず手を放すが、ラシュカールの手の甲には爪痕が血がうっすらにじむほど赤く残っている…うなされている時に強く掴んでいたのだ…アリーシアがそれに気付き謝ると、


「大丈夫ですよ、それよりもアリーシア様…今日はもう寮に帰りましょう。エミリーを呼んでいますのでゆっくり休んで下さい。夕方談話室にて落ち合いましょう。」


そう言われ、アリーシアも自分が思っている以上に疲れている事に気付いた…精神的にも疲弊しているのだ…。


そうしてエミリーに連れられ寮に戻ったアリーシアを見送ったラシュカールとオリビアは、お互い情報を集め後ほど談話室にて話し合おうと言い別れた。


ラシュカールは数歩歩いた所で立ち止まり先程のアリーシアを思い出す…泣き顔を見た時の胸の痛みがよみがえる…"あの方の憂いを涙と同じ様に拭って差し上げる事が出来ればいいのだが…"そう呟き、アリーシアがつけた爪痕が残る自分の手の甲にそっとキスをした……。



「気持ち悪いですわよラシュカール様…」


「んなっ!オッオリビア嬢!君教室に戻ったのでは?」


「ええ、お伝えしたい事がありきびすを返したのですがラシュカール様も立ち止まられていたので…何事かと思ったのですが……心配無用でございましたね。」


「ああ、ああそうともっ私の事は何も心配はいらない、ただアリーシア様の事を心配していただけなのだから」


「そうでございますね、アリーシア様につけられた小さなキズでさえも愛おしく、感傷にひたって心配なさってたのですよね?わたくしも同じく心配ですもの!そのお気持ちはよぉーく分かりますわ!しかしっ!感傷的になっている場合ではありません…あの聖女様と呼ばれる女性…アリーシア様の反応も気になりますが、きっとこのまま引き下がりはしないでしょう。わたくしでは爵位ともに限界がありますので、いち早く普段のラシュカール様に戻って、どんな手を使ってでも返り討ち…いえ…たっ対応して下さいませっ!」


「君…普段の私を何だと思ってるのさ…いや、私の能力を高く評価してくれているのだと、そういう事にしておこう…。わかったよ、私はこの国の新たな聖女や周辺を優先的に調べてみよう。

オリビア嬢、今は大丈夫だけど…学園内は王子達の目や耳があるから…君も気をつけて行動するように。」


「大丈夫ですわ、余計な事は言わないように、大事な話は教室や個室、寮で話すようにいたしますから。」


「いや…君の慎重さだけではなく、危険に飛び込まないようにって事。アリーシア様の事で我を忘れるのは、なにも私だけではないはずだ…君に何かあれば、それこそアリーシア様が悲しむのだから無理だけはしない様に!わかったね?」


ラシュカールはそう言ってオリビアの頭にポンッと手を乗せ目を見て釘を刺し、"アリーシア様の事も心配だけど、同じく君の事も心配なんだよ?"と真剣な表情でそう伝えた。


オリビアは大人しく…頷き、今度こそラシュカールが角を曲がりその姿が見えなくなるまで…後ろ姿を見送ったのであった…。







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