82.ヴァナルガンドの王子
百合の…花の…香りが好きな方もいれば、花粉が付くのが嫌だと苦手な方もいたりと…
好みはそれぞれ様々だと思います。
友情と見るか、愛情と見るかは…
読者様のお好みにお任せ致します…。
登校初日、学園へ向かう馬車の中…
エミリーを含めたアリーシア達四人は、学園での事を確認し合っていた。
ヴァナルガンドの学園は、平民も居ない訳ではないが…貴族が多く、ハッキリとクラスが別れている事。
侍女やメイド、侍従なども帯同させない事。
この国の王子と王女が、最高学年にいらっしゃる事。
ラシュカール曰く、この三つの事が注意すべき点であるらしく…学園内で貴族と平民が関わるのはトラブルの元であり、アリーシアがエミリーを同伴させる事は、他国の公爵令嬢…かつ短期留学生という事が考慮されての措置なのだが…これを面白くないと思う貴族もいるらしい。
(これについてアリーシアは転入前に、学園のルールに従うと…一度は拒否をしたのだが、エミリーや家族が認めなかったのだ)
そして最後…王子達は以前から"浄化に関する情報"を求めていたが、アリーシアが"それ"を実行した張本人であり…"大聖女様"である事は公にしていない為、接触を控えて気を付けよう…という事であった。
「アリーシア様……大丈夫ですわ!わたくし達が付いておりますし、この国についての色んな調べ物をしていましたら…三ヶ月なんて、何事もなくあっという間に過ぎてしまいますわよ!前向きに考えましょう!」
「オリビア様…そうです…ね…、ええ、その通りだわ!まだ始まってもいないのですものね。
起きてもいない事を恐れ、行動しないのは勿体無いわ!
時間は有限だもの…
オリビア様っ!いつもその事に気付かせてくれ…わたくしを前向きに戻してくださり、ありがとうございます」
「いいえ…アリーシア様、お礼を申し上げるのは…わたくしの方ですの。わたくしがこの様に前向きに…未来を己の意思で選択出来る様になったのは、紛れも無くアリーシア様のお陰なのですから…。
アリーシア様の存在こそが…わたくしにとっての…
"Silver lining〜希望の光" なのですよ…。」
そう言ってオリビアは…横に座るアリーシアの手を握り、そして、アリーシアの美しい銀髪を愛おしそうに撫でた…。
「オリビア様……」(ウルッ…)
「んんっ!ん、ん!オリビア嬢?君は私の味方だと思っていんだけど? 全く…油断も隙もない…
エミリー?……君も真剣にメモをとっていないで…アリーシア様が新たな扉をノックする前に止めなさい…。」
学園に着いてもいないのに…疲れ顔のラシュカールと、ツヤツヤペカペカのオリビア、ウルウル+キョトン顔のアリーシア、そしてホクホク顔のエミリー…
四者四様の一同…その四人が学園に着いたのは、それから間もなくであった。
「やぁっ!君達、待っていたよ!」
学園に着き、まずラシュカールが馬車から降り立つと同時に…その溌剌とした元気な声が掛かった。
エスコートの為に伸ばしたラシュカールの手が止まる…先程話にあがった王子その人であったからだ…。
「ヴァナルガンドの若き王子にご挨拶申し上げます。」
四人が馬車から降り、エミリーは後ろに下がった所から揃って正式な挨拶をしようとしたが…その若き王子本人に止められた。
「よしてくれっ!ここは学園だ、だから君達もそんなに畏まらないでくれ。
ここではなんだから…談話室へ行こう。今日の案内役は私に任されているからね!」
と王子に促され、案内された部屋へと入ろうとしたが…そこでエミリーが止められた…。
「君は遠慮してくれるかい?」
エミリーはアリーシアに確認し、"寮で荷物整理を致します"と寮へと向かった…。勿論…影は潜ませている。
部屋には王子と王女がおり、改めて挨拶と自己紹介を交わし、気楽に…という事で名前で呼び合う事を了承させられた…。
"さて、これで気楽に話が出来るな!"と笑顔の王子…
その人に対して、アリーシアサイドは…"そう思われているのは貴方様だけです…"と総ツッコミをしたが、当の本人は何も気にしていない様なので、元より親しみやすい方なのかもしれないと自分達を納得させた…。
「早速だが…学園内を案内する前に話をしておきたい事があるんだ…少し時間をもらってもいいだろうか?」
それまでの笑顔から、神妙な面持ちになった王子は…
一昨年前ウェスカーが企てた事件よりも前から魔物の発生や、澱みの増加が問題視されていたが…あの事件以来それらの問題が劇的に減った事で、この国で"聖女誕生説"が有力視されおり…その事で王家と教会側が少し揉めていると言うのだ…
「何故…自分達にそんな話を?って顔だね?
私達は第一王子の断罪後、色んな事を調べたんだ…
アリーシア嬢、君はペイフェリーク国王家の血を受け継いでいるのだろう?
あの国も我が国と同じで、妖精達の姿が減少している…いや、消え去ったと言っても過言ではないのだろう…。
我が国はその名の通り、神獣フェンリル様や妖精達への信仰心が根強く残っている…にも関わらず恩恵は減る一方なのだが…教会や神殿は、王家と対立してでも盲目的に聖女を擁立させようと躍起になっている…。
しかし…王家は民達の為にも不確かなものよりも魔物や澱みの解決策があるならとそれを模索しており、かたや教会側は民達の信仰心を強めようとしている…これがこの国の現状なのだ…私はね…、聖女の存在を否定する訳では無いのだが…教会や民達の暴走を恐れている…
他国の君に、いや君達を頼るのはお門違いだとは分かっているのだが…しかし、ペイフェリークの妖精達の血を引く人間が…今、この国に訪れているのは何か意味があるのではないかと…僅かな期待をしてしまっているのだよ…
アリーシア嬢…ラシュカール、オリビア嬢、…この国に滞在している期間だけでもいい…協力をしてはくれないだろうかっ?頼むっ…この通りだっ!」
そう言って、
この国の若き王子…キャルム ルーク ヴァナルガンドが頭を下げた…八方塞がりなんだと…そう言って…
文中のsilver liningですが
直訳は〜銀色の裏地〜
灰色の雲の裏(上)には光り輝く裏地(青空)がある。
比喩〜絶望の中の希望の兆し
悪い事ばかりは続かない、反面、良い事も必ず訪れる。
every cloud has a silver lining
どんな曇り空でも雲の隙間から銀色の光がさす…
雲の裏は銀色に光り輝いている〜的なニュアンスです…
このとても綺麗なフレーズが好きなので使ってみました
解釈が違ったりしたらすみません…




