75.人それぞれの宿命…そして運命
今回"運命"の言葉が出てきます。
運命と書いて"さだめ"と読むか迷いましたが、
読みやすい方でお読みください。
私的にシリウスは"さだめ"と言って
アリーシアは"うんめい"と言いそうなイメージです
( ˙꒳˙ )ノ
〈さて、アリーシアよ…詳しく話すがよい…。精霊の王に何を聞き、何を知った?そして……何を考えておるのだ?〉
車椅子から降りて大きなシリウスに抱かれ…フサフサの尻尾を撫でながらアリーシアは少し考えながら話し始めた…。アリーシアの両親と兄達も何事かと…固唾を飲んで耳を傾け、エミリーはお茶と軽食をアリーシアに用意して側に控えている。
アリーシアの話は母キャサリンの故郷ペイフェリークの話から始まった。森は守られているが…護り人であったルース元王妃の力が弱まり、長い年月の中…精霊の泉の湧き出る量も減ってきていると…その為もとより少ない妖精達も減ってしまう環境となっている事…。
そしてこの世界の聖域と呼ばれる場所の減少…反比例して澱みと魔物の発生率の増加が危ぶまれている事。
その全ての原因となるのが"始まりの聖域"…シリウスの生まれた聖なる場所である。
この世の循環が上手く廻っていない事を危惧した創造神が業の深さではなく…救済の為に聖女を輪廻人とした事や、異世界からの転生人・転移人を送り込んだりと様々な策を試みた事…。そしてそれらの策が上手く噛み合う事もあれば…新たな厄災を招く事もあった事など…気が遠くなる様な内容であった……。
アリーシアは自分の前世ではなく、過去世の話を聞き…知らない世界の知らない知識はその為だったのだと霧が晴れた様な気持ちであったので、その事も家族に告白をした。アリーシアの家族も皆それについては素直に納得がいっている様だった。
そしてこれらの事を踏まえ…アリーシアは更に自分の考えを口にした。
自分が聖女の力を手にした事で生まれた役割、やるべき事が与えられたのならば…すべからく自分の使命として受け入れると…
精霊王の話では…今すぐと言う事ではないが、この世の歪みは間違いなく今後進んでいき…あらゆる影響が精霊界だけではなく人間界にも出るかもしれない…とのことで、
精霊王は自分達の力が弱まりとても不安定な状況を打開すべくアリーシアにコンタクトを取ったのだ…。
〈そうか…己の力だけでは難しい、と奴は判断したのだな…しかしなアリーシア、精霊や妖精達は何も消滅する訳ではないのだぞ…力が弱まり姿形を維持出来なくはなるが、自然に溶け込みまた力を溜め込むのだ。その間その地の恩恵は減るであろうが…それを其方が気負わずともよいのだ…。それもまた自然の摂理であり、流れに任せ受け入れる…それの繰り返しなのだ…〉
「シリウス…ありがとう…。私の事を考えてくれているのね?でもね…私は知ってしまったの。そしてそれを救える可能性が私にあるという事も…。
私の力なんて神様やシリウス達と比べる事も出来ないほどの微々たるものだとは思うわ…でもね…私は直接、私の意思で、干渉する事が出来るでしょう?
えっと…なんて言うのかしら……私が、私の力だけで、全てを救う!なんてそんな大それた事を思っている訳ではないのだけど…そうではなくて…
例えば…私が植えた木が育って葉が生い茂って、人が休める木陰を作り…実を沢山つけて誰かの喉を潤す事が出来れば…と、そんな風に繋いでいける様…今の私が出来る事に、精一杯向き合いたいと…そう思ったの…。
正直…何をすべきかは…まだよく分からないのだけど…
沢山薬草を育てたり、薬も作るわ!精霊王様に言われた通り、私の聖力が澱みを浄化して妖精達が戻るならそれも頑張りたいの…でもね、そうなると魔物も減少して…安全にはなるけど魔石が取れなくなるでしょう?
私もそうだったけれど、魔法が使えない人達にとって、魔道具は不可欠な物だし、その魔道具に魔石は不可欠だから…どうしたらいいのかの課題も沢山あると思うの…だから…シリウスや妖精達にもだけど、お父様お母様…そしてお兄様達にも…理解してもらった上で、協力してもらいたいの…。
そういう訳で…私…ペイフェリークに行こうと思っているの!期間は決めていないけど…実は精霊王様に呼ばれてて…泉やその土地の妖精達も気になるし…ルース様の事も知りたいし…お母様の国をこの目で見たいの!」
シリウスを始め、皆から"待て待て待てっ!"との声が上がった…。それもその筈…アリーシアは先程目覚めたばかりであるし、今すぐと言う訳ではないのだろうが…アリーシアの行動力が侮れない事を皆が知っている…。その上頑固なのだ……きっと実現させるべく行動する筈だから、どうやって言いくるめようかとアリーシアの家族が計算していると、シリウスが大きなため息をついた。
〈アリーシアよ…其方の謙虚さも前向きさも、全てが好ましく…其方の存在自体が、我らにとっては有り難い事なのだ…。
以前にも話したが、其方の聖力は美しく強大であり、今となってはその比ではないほど更に強力なものとなっておる…。
そもそも我が知っている聖女は怪我や病気を治す事は出来ても、死人を生き返らせる事は出来ない。それはアリーシアも同じなのだが、今回其方は肉体より離れた魂と同調したな?そして説得をした。本来ならそれはもう神の領域なのだ…では何故そんな事が出来たかだが…それは其方の精神力の強さと聖力の質と量が関係しておると考えて間違いないだろう。
そんな神の存在に近い大聖女である其方が…フフ…フ…薬草を育て薬を作るか…それも良いな…。
さて、アリーシアよ…一つ良い事を教えてやろう、其方が世話をしていた学園の花壇は聖域に近い場所となり妖精達の憩いの場となりつつあるぞ!
先程言っていた様に其方の想いが形となった訳だ。
規模は小さくとも、聖力で満たされた場所を生み出せるアリーシアと、黒い毛並みで生み出された我が出逢えた事が運命ならば…我の存在にも、その意味を持っても良いのかもしれんなぁ……。〉
「あら、シリウスったら意外とロマンチストなのね?
でも…そうね、私もそう思うわ!偶然も重なればそれはもう必然だもの。私は確かにあなたに呼ばれて、それに応える事が出来た…出逢うべくして出逢ったのよ!
だからね、次生まれる時…私がもし人でなくても、必ずあなたを見つけるわ!次からはきっと気付けるはずだから!ね、そうでしょう?」
〈……そうだな、共に旅をしようアリーシア…〉
シリウスがアリーシアを止めてくれるとばかり思っていたアリーシアの家族は慌てて娘と神獣を止めたが、アリーシアとシリウスは寄り添いながら、とても幸せそうにそれを見て笑っていたのだった…。
最後の『旅』の解釈は読まれた時の直感で!
読み終えた小説でも、面白い作品は読み返し…
新たな発見や読後ゆえの新たな解釈があります。
私は推理小説でさえ、トリックや犯人がわかった上でも読み返して、新たな楽しみを見つけるのが好きです。
バグにもマケズ エラーにもマケズ
そんな作品を私は書きたい ( ˙꒳˙ )ノ 雪原の白猫




