74.アリーシア目覚める
王城の特別室から公爵家の自室へと移ったアリーシアの元には、沢山の花が飾られ…見舞いの品も溢れていた。
あれから…半年が過ぎ、シリウスでさえ当初は数日で目を覚ますと思っていたのだから…誰もがアリーシアの長い眠りに不安と焦りを感じていた。
そんな中エドワードが見舞いに訪れており…アリーシアの枕元の椅子に座り、手を握りながら語りかけている。
「アリーシア…綺麗に片付いたぞ、以前ジェイと話してたんだ…君の周りを綺麗にして、憂いをなくそうとな…これからは好きな事が出来るんだぞ?早く目を覚ませ…
あぁ、しかしもう少し後でもいいかな……実はな、ヴァナルガンドとはあの件で条約を見直し…同盟国となったまでは良かったんだが…もうすぐ向こうの王太子と王女が式典に参加する為こちらにやって来るんだ…彼らは式典参加を名目にしてるが…澱みが浄化された原因を探りに来るんだ…君の事は緘口令を敷いているから大丈夫だとは思うが、公爵家の令嬢として公式の場に出てしまっては…間違いなく王太子の目に止まってしまう!そのまま国に連れ帰るなんて事になったら…
ダメだっ!アリーシア…君が眠りから覚める事を心から願っているが…あぁ…どうしたらいいんだ…」
部屋の隅で、そんな己との葛藤を繰り返しているエドワードを冷めた目で見つめながらエミリーが声をかける。
「第二王子殿下、もうすぐジェイソン様が戻られますがこのままお嬢様のお側におられますか?」
「いやっ!ジェイにバレたらまたドヤされるからサロンに行こう!シリウス様に会いにきたと言ってな。エミリーも告げ口するなよ!」
エドワードがそう言って腰を上げ手を離そうとした時…"キュッ"と握り返された気がしてアリーシアを見るとアリーシアの綺麗な紫の瞳が見えた…
「アリーシアッ!」
叫ぶかの如く声を上げてアリーシアに顔を寄せようとしたエドワードを…エミリーが体当たりで押し除けた!
お"じょう"ざま"ぁぁーとアリーシアに抱き付き滂沱の涙を流している。騒ぎに気付いた屋敷の使用人達はすぐさま各所に報せを飛ばした。
報せを受けた者達は全て放り出し公爵家へと集まり…サロンにてその時を待っていると…湯浴みと支度を終えたアリーシアがエミリーに車椅子を押されながら部屋に入ってきた。
部屋で待機していた国王を始め歓声が上がり、アリーシアに駆け寄り無事を確認している。部屋の外の使用人達も同様に歓びの声を上げ涙を流しているのだが…当の本人アリーシアはキョトンと首を傾げている…
湯浴み後の血色の良い頬とは対照的に、少し痩せ、陰りのあるアンニュイなアリーシアのキョトン顔…
アリーシアに飢えていた者達は膝をつき胸を押さえた…さすがに国王は膝をつくまではなかったが…眉間を押さえアドルフと肩を叩き合い、キャサリンとローズ王妃は抱き合い涙している。
ジェイソンとアルフレッド兄弟はアリーシアに抱き付き頬擦りをし、三人の王子達も固く握手を交わしている。
オリビア、クレア、ミラ、セオドア達も肩を組んで一様に涙を流しアリーシアの帰還を歓びあった。
シリウスも妖精達も安心しアリーシアに寄り添った。
シリウスを抱き締め妖精達と会話をするアリーシアは思い切って聞いてみた…私…どれくらい眠っていたのかしら…と。アリーシアはまさか自分が半年間も目を覚まさずにいたとは思ってはいなかったのだが…思い通りに動かない身体、皆の歓ぶ様を見てもしやと思ったのだ…。
そして部屋の隅で跪いて涙を流しているメイドに気付き声を掛けた…
「ヘレン…元気になったのね…良かった…。」
「お嬢様っ!お目覚めになられてっ…本当に…本当に良かった…。私なんかの命を救っていただき…私っずっとお礼が言いたかった…あっありがとうございます!」
「ヘレン…いいのよ、心配かけてごめんなさいね。でもこれからは…私なんかって言うのはやめてね、自分で自分の価値を下げる必要は…もうどこにもないの。ね?」
「両陛下にまで足を運んでいただき本当にありがとうございます。わたくし…そんなに長く眠っていた感覚がなくて…身体も声もそのうち元に戻りますのでご心配には及びません…それよりも力が漲っておりますの!そうだわっ、えいっ!」
アリーシアが国王と王妃に挨拶をして無事を伝えた後、掛け声とともにおもむろに手をかざした…すると…
部屋中のあちこちに羽根を持った小さな妖精達の姿が現れた。その姿はとても色とりどりで可愛らしく…キラキラと輝いてる。
「フフフ、可愛らしいこの子達の姿が皆様に見えますでしょう?この子達も喜んでますわ!」
国王達は驚き、ジェイソンは興味津々、そしてオリビア達はきゃあきゃあとはしゃいでいる。
大きくなったシリウスが、アリーシアに問いかける
〈アリーシアよこれは…一体…〉
「シリウス!私ね、力を使える様になったのよ!聖力を暴走させない為に…。眠っている時に精霊王様にお会いして色々教えていただいたの!夢かと思ったけど大丈夫みたい!」
〈待て待て、精霊王だと?あやつめ…アリーシアの精神に勝手に入り込みおったな…通りで眠りが長かった訳だ……。力の使い方は我が教えたかったのに…〉
「まぁ!シリウスッ、私はまだまだ未熟だから貴方のお世話になるわよ?それに私聞いたの…シリウスの事も、"始まりの聖域"の事も…ペイフェリークの精霊の泉も…シリウスも知っているのでしょう?
私…それを聞いて……」
〈皆よ…こうしてアリーシアも無事目を覚まし、異常もない様だ。後は弱った筋力が戻れば通常通りになるだろう…であるからして、皆己のあるべき場所へ戻るがよい。大体其方達が揃って長く城を空ける訳にはいかんだろ?よいよい、話ならほっといても兄達が話すから気にするでない。〉
シリウスにより、半ば強引に帰らされた国王達は、
"目を覚まされた聖女様にお話が〜"とか"アリーちゃんとお話ししたいのに〜"とか…"もっとアリーシアを補充〜"と各々心の声を口に出しながら馬車に乗せられ城に帰された。
オリビア達もまた、日を改めて見舞いに来ると約束をし…再度お互いを抱き締め歓びを分かち合い、公爵家を後にした…。
こうして…アリーシアの家族だけと妖精達だけが残り、シリウスが改めてアリーシアに問いかけたのであった…




