73.罪人達の末路と噂話
シリウス曰く…力の発現から立て続けに聖力を大量に使ったり、他人との精神を同調させ神経を擦り減らしたりと負担が一気にかかったしまった事が原因だろうとの事で眠る事で回復しているのだそうだ…。
しかもあの時シリウスが結界を張っていなければ、アリーシアの感情と共に聖力が国境をも越え…隣国まで影響し、その力の影響は計り知れないものになっていたそうだ…。ジェイソンの"ちなみに影響とは?"と言う質問に対し、国内の浄化は勿論の事…海や田畑の恵みに加え、枯れ井戸に荒地の復活、そして病人達の治癒…果ては墓石が動き出すぞ!と最後は冗談を言ったが…これらの力が、隣国まで影響を及ぼしていたかもしれない可能性を考えると誰一人笑えなかった。
そしてシリウスは国王にだけ伝えた事もあった。
教会の関係者で聖力を感じ取った者がいるかもしれないので警戒を怠らない事、そして…アリーシアの力により王宮の庭園と、学園の花壇に小さな聖域が出来た事を伝えた。その場所はアリーシアが幼い頃初めてのお茶会で訪れた場所と、アリーシアが世話をしていた花壇であった。慌てて確認するとどちらにも小さな苗木が小さな葉をつけていた。
妖精達の数少ない居場所であるから大切に管理してくれと頼まれた国王はすぐさま管理者をおき、シリウスの助言通りに薬草や花を植え、水場も作った。
そして元凶である侯爵家とリリー達のその後は…というと、アリーシアの聖力を浴びて…毒気を抜かれたのか、大人しく投獄された。
侯爵夫妻は国家転覆を謀り謀反を企て、隣国と通謀しており反逆罪、外患誘致罪などの重罪の他にも…内乱罪、違法薬物の製造使用した罪や脅迫、傷害罪など数多くの罪により…侯爵家所有の領地や土地を含む全財産の没収及び、爵位剥奪の上斬首刑…またその首は王城入り口に梟首台が設置され…見せしめの為晒される事となり、侯爵家へ加担した家門の者や、関係貴族達もこれに並ぶ罪として処刑された。
裏の顔や隠されていた歴史がどうであれ…表向きは由緒ある侯爵家であり、先代が人格者だった事でヘタに嘆願書などが出ない様…王国のあらゆる場所が戦場と化す可能性が高かったと危険性を強く国民に広め、不安を煽った。その為最期は自分達があれほど下に見て蔑んできた平民達に石やゴミを投げつけられ罵られながら、王都の広場で首を落とされた。
こうして栄華を誇っていたウェスカー侯爵家の名は重罪人として処罰され歴史にその名を残す事となり…いつからか裏切者や卑怯者を"ビトレイウェスカー"と呼ぶ様になったという。
そして、王城で働く文官や兵達の間ではこんな噂話が囁かれていた…。
「ウェスカー元侯爵夫妻は処刑までかなり時間かかったけどなんでだろうな?普通なら反逆罪なんて"疑わしきも罰する"で首なんてすぐ飛ばされるのに…」
「あぁ…聞いた話だと、わざとらしいぞ…高官の方が一度宰相様に進言したらしい…罪人達をいつまで生かしておくのですか?と。罪人とはいえその分金も人手もかかるからな、そしたら"あの者達の意識が戻るのを待っているのだ"と返事をされ…その質問をした高官の方も不思議に思ったそうだ。何故ならそれぞれの牢にいる罪人達は覚悟の為か、投獄される時からずっと大人しく…むしろ穏やかに刑に服してて、通常の死刑囚達の様に発狂したり気絶したりする事はなかったのだから、大人しいうちに執行した方がいいのではないか?とな。それに対して宰相様の答えは…"絶望や懺悔…理由は何であれ、己の死を願い覚悟をした者にとっての処刑は、ある種の救いとなるだろう…また、生に執着しない者にとっての死も何の意味もなさない。死にたくない、まだ生きていたいと切に願いもがく者にこそ処刑という罰の重みが出るのだから、今の状態で楽に逝かせはせんよ…何年かかろうと公爵家が面倒みるのだから心配はいらん"と、これだよ!これを認める陛下も陛下だが…これを押し通す公爵様には絶対に逆らうなって事だよ…。」
「なるほど…なぁ…死が救いか……。じゃあ刑が執行されたって事は…元侯爵夫妻は暴れたりと普通(?)になったから……」(手で首を切る動作)
「いや、それがなぁ…それについては眉唾の話があるんだ…知りたいか?…そうかよし、こっちは知り合いの衛兵達が言ってたんだが…ある日の夜、大人しかった罪人達が急に虫だとか魔物が襲って来ると騒ぎ出して…牢番がいくらなだめても納得せず、ついに気が触れ幻覚を見る様になったと…その牢番も相手にしなかったんだ…。しかし毎夜叫び声が上がり、その囚人達の身体に痣が浮き出る様になったらしい。それはまるで穢れ持ちの魔物に襲われた様な痣で、しかも日に日に広がり痛みもあったんだろうな…部屋を変えろ、医者を呼べと大人しかったのが別人みたいに横柄になり凶暴性を増したらしいんだ…牢番達も呪われてるんじゃないかと夜の当番を嫌がった程だ。しかし最後の方は、許してくれ〜、殺さないでくれ〜と繰り返す声が聞こえてくる様になり…ようやく刑が執行されたって訳なんだが…この話には続きがあってな…誰もいなくなった牢屋から夜な夜な声が聞こえてきたり、人影が見えたりと…怨霊となって出るようになったしまったんだ…本当だって!何人もの人間が見たり聞いたりしてるんだ…そのせいか、お陰か…どんな凶悪犯もその牢に入ると大人しくなるらしいぞ…」
「それは…また…本当だとしたら恐ろしい話だなぁ…
そういや子供はどうなったんだ?確か成人前のがいたんだろ?」
「元侯爵の子供二人と共犯者の女が一人…普通だったら連座して首を斬られてる筈なんだが…こいつらについては俺も知らないんだ…しかし奴隷として他国に売られたとか、スラム街で暮らしてるとか……」
「俺は城にいるって噂を聞いたぞ!何でも監視付きで下男下女の仕事をさせられてるって…」
「いやいや俺は国外追放で野犬や魔物に喰われたって聞いたぞ…?」
男達はそれぞれの顔を見合わせ溜息をついた…
何にせよ元貴族の子息やお嬢様だ…プライドだけは一人前で、生きる術なんて持っちゃいないだろうから、どの噂も当たらずも遠からずという事だろう…と結論を出してその日の飲み会は、幽霊話に対する恐怖と…多少の後味悪さを残し散開となった。
最後の噂の中一つだけ真相が紛れているとも知らず…
ビトレイウェスカーは
betrayer(裏切者)からの造語です。




