68.露見する悪事
今回まで
ジェイソンとアルフレッドの活躍の場となります。
「そっ、その様に脅されても出来ぬ事を、出来ぬと言ったまでで…証明する事など…そもそもそんな話聞いた事がない!事例や事象、報告もない筈だ!そんな前例もない様な事など…いや、証拠と言っていたが、こんな短時間では何も出来ていまい。それとも私が口を滑らすのを狙っているのか?」
「スタンピードが発生していた事は私達が、それこそ…身をもって対処して来た。
その時はアデルバート殿下も俺も、いつもと違う魔物の様子に若干の違和感を持ちつつ対処したが…今考えると腑に落ちない点がいくつもあったのだ。それらは優秀な我が弟ジェイソンが解明してくれた。」
「ちょっ、アル兄さん!そんな本当の事をこんな所で言われても…流石の僕でも恐縮してしまうよ?
あーオホン、まず殿下とアル兄さんが感じた違和感…と言うか答え合わせだね!様子が違った魔物とは、
その1、魔物が単純に強化されていた。
その2、魔物の痛覚、方向感覚等が麻痺していた。
その3、魔物寄せのアイテムの影響を受けていた。
今回の魔物について簡単にまとめると、こんなとこかな
次は澱みについてだけど、これは僕と先見隊が見つけてその場で魔物の発生を確認した。そして尊きお師匠様にも確認していただいたから間違いない。
そして重要なのは…その澱みが自然発生のものではないかもしれないという事だった。
この事を確認する為に、僕とお師匠様はデビュタントには参加せずに現場に向かったんだ。すると最初に発見した時よりも随分と小さくなった澱みが、その痕跡をしっかりと残していたよ。
お師匠様曰く、浄化の力で消滅している筈のものが残っているという事は、人為的に作られた澱みなのだと…そう言う事らしい。
僕も初耳だったから驚いたよ…そんなの人の手によって作られてたまるか!ってね、でも実際辺りの瘴気は消えていたし…澱みも小さくなっていたから、その場が浄化された事は間違いなかった。
僕はその残された澱みから、万に一つの可能性に賭けて手掛かりを探し、研究するつもりでいたんだ…しかし、小さくなってはいるが、澱みである事に間違いは無く…更に人為的なものとなると魔物にどう作用するかわからない危険なものだから一刻も早く消滅させなければならないと言われ、それに納得した僕はいつものように消滅させる為の準備をしていたら……………………
ほんっっとーーーにすごい!と言う事しか出来ない程、素晴らしい魔法で一瞬の出来事だったんだ…それはもう神の御業と言う他…喩えようのない光景だったよ…。
気付いたらそれは、跡形も無くきれいに消えていた…。
火力は勿論の事、一体どういう原理で、どんな構築をしたら…あんなに強力で美しい魔法になるんだって…この僕が言葉を失ってしまったよ。
そもそもの話…僕達が使っている属性ありきの四大元素に基づいた魔法とは次元が違っていたから魔力で補う事は不可能なのか?…いや構築部分でもっと細かく元素と属性の結び付きを分解した後で構築し直せば…ってなると魔力を流し込むタイミングが…待てよ、魔法陣で補える可能性もあるか?……」
「おいっ!ジェイ!ジェイソン!あぁダメだ…聞こえていない…。申し訳ないがこうなった弟はしばらく戻って来れないから…続きは弟に報告を受け、その対応をした私が説明しよう。
先程の弟の話に一つ付け加える事がある、それは…人為的な澱みとは…様々な"毒"を用いて作られるらしく、
猛毒持ちの植物に昆虫、動物や魔物の死骸そして…人の悪意、怨念、怨嗟…これらを水や空気の流れもない様な吹き溜まり…いわゆる澱みの温床となり得る場所に集め、そこに人の生き血を加える事で…穢れや瘴気を放つ澱みとなりて魔物が発生する条件が揃うのだそうだ。
…では、一体誰がそんな悍ましいものを故意に作ったか…
それは会場に戻って来たジェイソンがその人物を特定してくれた。正しくは…ジェイソンの言うところのお師匠様がだが…。その方は人一倍、いや百万倍嗅覚が鋭くていらっしゃるから"臭い"ですぐにお分かりになられたらしい。
私は陛下の許しを得て、その人物の屋敷に証拠を集めに行った。すると出るわ出るわ…
澱みを作る為の手順と必要な材料、人々を惑わす薬の調合レシピ、これに関しては…開始時期は定かではないが、効力や効き時間などを調べるのに、双子が指示を出し学園や街中など様々な場所で実験を行い、印象・情報操作を繰り返していたようだ。
今回デビュタントの会場でもこちらの薬物が使用されていたが、使用時と痕跡を隠す為…リリー カーターの水魔法に溶かし、霧状に噴霧し吸収効率と即効性を上げたものを会場の人間や陛下に使ったのだろう。
それと今回の騒動の計画書もあり、全て証拠として陛下に提出済みだ。そしてそれらと共に侯爵家の秘密とされる古い文献も見つかった…貴様らが古の悪しき魔女呼ばわりしていた方の詳細も書かれていた…。
こちらも押収済みである
で、あるからして…ウェスカー侯爵はじめ、この場にいる全ての者達の悪事の証拠がこちらの手にあるという訳だ。
あぁ…それと、これも伝えておかねばならないな、ヴァナルガンドからの軍勢を待っても無駄だぞ?既にあちらの王家とはジェイソンの魔法で密書を交わしている。
お前と繋がっていたのは第一王子なのだろう?残念だったな、その方はご自分の保身に精一杯でこちらには来れない様だぞ?来るとしたらお前達の捕縛隊だ、あちらは妖精信仰が残っているからな…自国に澱みなど許し難い罪である筈だ。
しかし安心してくれ、王家と公爵家がしっかりとお前達を守ったからな、嬉しいだろう?
公爵家といえど…さすがに隣国の王家となると難しい所もあったが…国王や王子達はまともだった様だ、お前達の事は諦めてくれたよ。お陰で目の前の獲物を掻っ攫われずにすんだからな、今後は良い付き合いが出来そうだ!
お前達の命も最後に少しは役にたったと言う事だ、
俺は義理堅いからな…アリーが受けた心の傷も、死にかけた俺の傷も…絶望もキッチリ返すとしよう。
大切なアリーや家族と死に別れる覚悟をした俺の絶望に…お前達は耐えられるかな?最期の言葉が"頼むから殺してくれ"との懇願になるかもしれんな。
普段口数の少ないアルフレッドが頑張って話をしました
少しだけ伏線や布石を敷いたので、もし今後があれば…と願うばかりです。




