65.侯爵夫人の"罪"
アデルバート第一王子が頑張って罪状を突き付けます。
「"不愉快"か…そこまで否定するのであれば、こちらから説明します。反論は最後に聞きますので、こちらが求めた時以外口を挟まないように。先程も伝えた通り進行を止めたり、喚くような事があれば口を塞ぐのでそのつもりで。
貴女はこの者を知らないか?という問いに、知らないと答え…こちらが念を押すと公爵家の下級メイドなど知っている訳がないと憤った。しかし、何故…この者が公爵家の下級メイドだと貴女は知っているのです?おかしいですよね?一切関係ないと豪語しておきながら、この者の現在の状況をご存知だなんて…大いに矛盾している。
この者に公爵家の弱味を探るべく、侵入する様に依頼…いいや、強要…命令したのは貴女ですね?夫人。
貴族達には下級のメイドや下級使用人の中に、平民を雇い入れるという雇用支援の制度があります。勿論これは強要ではないので、雇い入れない貴族もいますが…高位貴族はほとんどの家門が実施していると報告されており、夫人の屋敷でもこの者の母が雇われていた記録があります。その時ウェスカー侯爵のいわゆる"お手付き"となってしまったのでしょう?
本来こちらの制度は、厳しい条件のもと雇用関係が結ばれます。被雇用者は平民であれ…読み書きや計算能力の有無。また雇用者である貴族側には暴言暴力の禁止や不当解雇の禁止など、国の専門部署によって作成された雇用条件証明書に双方サインをします。これらは平民であっても不当な扱いを受けぬ様、彼らを守る為のものですが、にも関わらず…
夫人は彼女が妊娠した経緯を知り…激しく折檻した後、不当に解雇しました。これは明らかな罰則対象となりますが、頼る者もいない彼女は…脅され、訴える事も出来ずに泣き寝入りをするしかなかったのでしょう…
数年後…ウェスカー侯爵に、彼女が産んだ子を認知すると言われた時…貴女はさぞ驚かれましたよね?
狡賢い侯爵がどんな理由でそんな事を言い出したのか…私には想像に難くはありませんがね…。
ウェスカー侯爵は、自分が手を付けた母親が解雇された時でさえ、何もしなかったのですから…支援など勿論する訳がありません。彼は何もせず待って待っていたのです…三歳の属性判定までを…。
幸か不幸か、その子には属性が備わっていた。
その事を知った侯爵が自分の庶子として認知すると言い出し、驚きと怒りから…貴女は一度はそれを拒否しました、一歳違いのご自分の双子達がいたからだ。しかしその双子には属性が出なかった…。貴女はこう思ったんじゃありませんか?
"卑しい平民女の子供にさえ属性が備わっていたのに、何故高貴な血筋である自分達の子供に属性がないのか"と…。再度侯爵に認知の話を持ち掛けられた貴女は、二度目の拒否をした。余程プライドが邪魔をしたのでしょうね?
そんな貴女の考えが変わったのが…この者が六歳、双子が五歳の時。急に認知の件を承諾したのはアリーシア嬢にも属性がない事を知ったからなのでは?
貴女は学生時代からセイリオス公爵夫人に何かと執着していたようですからね?属性持ちの娘を持つ事で公爵夫人に対抗しようとでも思ったのですか?
あぁ…答えはいらないので、引き続き大人しく黙って聞いていてください。
ともあれ、そんな馬鹿げた理由で…認知される事を望んでもいない母親から、その娘を無情にも取り上げた貴女は…養母として果たすべき責任も果たさず今度はその娘を虐げた…。
可哀想に…母親は抵抗を許されない男に孕まされ、その妻である貴女に暴力による迫害を受け…その上で不当に解雇された。生きていく術を取り上げられ…それでも逞しく…慎ましく生きていたのに、我が子まで取り上げられ…その子は引き取られた先で、大事にされる事なく新しい家族に虐げられた。
血の繋がりがある筈の無関心な父親、母親への憎しみを執念深くその娘に向ける義母、そして嫉妬と蔑みの感情を隠しもしない双子達…。
平民の母娘にとって…お互いが人質になったも同然で、助けを求める事も出来ずに、互いが互いを心配し合い…耐え忍ぶ生活が続きました。それから五年が経ち、
この者が学園に入学する十一歳の時、急に母親の元へ帰される事となり…母娘は訝しみながらも再会を喜んだのでしょうね…。
ところで…何故この者は学園ではなく母親の所へ戻されたのでしょうか?貴女の情けでしょうか?それとも学園にかかる費用が惜しくなった?そのどちらでもないですね?貴女の思惑はもっと先の方にあった…。
貴女はこの者が侯爵家の庶子である事を隠し、平民の母親の所で生活をさせ…平民の支援雇用制度を利用して、この者を公爵家へと潜り込ませようとした。そして定期的に報告せよと…母親を人質として脅したのです。
公爵家は…アリーシア嬢と歳もさほど変わらない少女を救う気持ちからも採用を決め、雇用契約を結びました。根が真面目なこの者はスパイ活動よりも、与えられた仕事に一生懸命取り組んでた様で…メイド仲間や上司からの評判も良く、とても可愛がられました。
侯爵家とは違い…自分を人間扱いし、気遣ってくれる公爵家の人達を裏切っている罪悪感からかこの者は密告を控えた。
元々…腹黒さはあるが私利私欲のない公爵家なのだから強請り集りのネタはなく、その事に業を煮やした貴女は願ってはいけない事を願い、そして開けてはいけない箱の蓋を開けてしまったのだ」
優秀な公爵家なのでプロの密偵は捕まるはず→
身元調査で侯爵家との繋がりがバレない様な密偵→
夫人の言う事を聞き公爵家の同情を誘う様な存在→
ウェスカー侯爵夫妻のクズっぷりと平民の子供の絡み…→
婚外子!せっかくだからキャサリン絡みの女の嫉妬も→
高位貴族が平民雇うかな?→支援雇用→侯爵家スタートで母親メイドとウェスカー侯爵との子供にしよう
と言う感じで出来たお話です。まぁ下級メイドの話なんて2〜3行で終わらせてよかったのでしょうが…
力不足ですね、はい。「説得力を出したかった!」と…王妃様の名言!ものは言いようで逃げたいと思います。




