64.特別な傍聴席
週末深夜のゲリラ投稿です!
ウェスカー侯爵サイドに新たな人物が登場します。
ウェスカー侯爵達が集められた部屋に、両陛下や私以外の人達が揃ったが、私とシリウスは別室に通された。
王族の控室なのだろう…玉座の裏にあり、部屋の外の話も聞こえ、見る事もできるが向こうからは見えない様になっているようだ。私はここにいてもいいのかと不安になったいると…両陛下から…
「アリーシア、君は尊き存在なのだよ、万全とは言え…悪意や危険に極力近付いてはいけない。いいね?」
「アリーちゃん、今度は高みの見物でいいのよ。」
と仰っていただき、それに従った。
宰相であるお父様と、第一王子であるアデルバート様が取り仕切って罪状を読み上げていく。
ウェスカー侯爵と夫人と双子、そしてカーター様、全員拘束され…並ばされている。会場で侯爵に加担した人達は、別室に捕えられているそうだ。そんな中夫人が罪状が読み上げられるのが終わるのを待たずに声を上げた。
「陛下!この度の事は、わたくしは何も知らず…関係ない事でございます!会場でも別の場所にて騒動を聞いたのです。なのに何故この様な扱いを受けているのでしょう?そもそもこの人は、入り婿で勝手をして、我が侯爵家の名を貶めたのです!わたくしは被害者なのです!どうぞご慈悲を…。」
「夫人、静かにして下さい。まだ罪状の途中です…次に中断させたら口を塞ぎます。宰相続けてください。」
お父様もアデルバート様も冷静に進めている。ウェスカー侯爵もカーター様も、会場での様子が嘘みたいに大人しい…余程傷が痛むのか…取り調べがきつかったのか…しかし…夫人と双子達は納得のいかない目で唇を噛み締めている。無関係であっても…罪が罪なだけに連座は避けられないだろう…と少し哀れに思っていたら…
《アリーシア、あのね、あの三人も悪い事してるんだよだから安心して! そう、隠れていっぱいやってるの》
「安心してと言われても…償うべき罪があるならそれはしょうがないわね…ちなみにどんな悪い事か分かる?」
〈アリーシア!無事妖精達と話せてるみたいだね!妖精達も喜んでるみたいだ!よかったねアリーシア!〉
シリウスが小さい姿で、可愛く喜んでくれている。私はしっかりと頷いて笑顔を見せた。すると妖精達もキャッキャッとはしゃいでいる。カーテンの向こう側との温度差が半端ないが私達は喜びを分かち合った。
カーテンの向こうでは罪状確認が始まった。
「ここからはわたくしが…会場での狼藉はここにいる全員が目にして、その内容を把握しているが…今から明らかにする事は混乱を招きかねないので、発表の有無は陛下の判断に委ねる事とする。
さて、我々は先日魔物発生の情報を得た為、隣国との境目まで討伐隊を結成しその場へと向かったが…何とそこでは澱みが生まれ、魔物が出現しており…あわやスタンピードの発生が危ぶまれる状況であった。
ウェスカー侯爵?何か思い当たる事はない?」
「…いいえ…アデルバート殿下…私は何も知りません」
「侯爵よそれは真か?それでは何故あの場で魔物の話が出てきた?しかもヴァナルガンドの名も出していたな?アデルバートがその場に居なかったからと適当な事を申すなよ?問うに落ちずとも、あの時点で其方は語るに落ちていたのだ…。潔く認め、詳細を話す気にはならんか?」
「そっそれはたまたまでございます!何かの機会で耳に入れていたのです!魔物がヴァナルガンドより流れて来ていると…それで魔物を使役しているあの女と結び付けただけなのです。陛下信じて下さい!」
バシーーンッ!「なっな…何をなさるのです陛下!」
「ウェスカー、アリーシア嬢をその様に呼ぶでない…我々王家の雷と、セイリオス公爵家の氷と炎を浴びたくなければ礼儀を弁えよ!次はないぞ?」
王子達はバチバチと雷を纏い、侯爵の足下は凍り…背後にはジリジリと炎が近付いている。
「陛下、消し炭にしてしまっては証言が取れませんので、次から直接攻撃はお控え下さい。
侯爵言葉に気をつける様に、話を戻すが…先程アリーシア嬢をあの女と呼び、魔物を使役しているとの事だが侯爵はその情報は誰からどの様に仕入れたのだ?随分と断言しているのだから確かな筋からなのだろう?それとも自ら仕込んだ者達か?」
「そ…それは…見かけたのです!そのおん…ンンッ!…その…アリーシア嬢が連れている所を!いやっそう聞いたのです!黒い生き物を連れていると…誰に聞いたかは忘れてしまいましたが…」
「そうか…あくまでシラを切るか…では夫人はどうですか?何か申し開きは?罰を与えられたく無ければ正直に答えるように。」
「先程も申しました通りわたくしは何も知りませんっ!殿下…主人は確かに陛下の前で騒ぎを起こしたかもしれません…ですがその騒ぎで何かしらの被害が出たという証拠がございますか?
疑わしきは罰せずと申しますが…わたくしと子供達に対する扱いが罪人のそれと同じなのは納得がいきません。
我が侯爵家はこの国の興りを支えて来た、歴史ある由緒正しき家門でございます。その事を考慮なさってはいかがですか?」
「それでは夫人が納得する様な証人を呼び、合理的に証拠を出せば…疑わしきとは言えなくなりますね?
衛兵っ、証人をこれへ! 夫人、この者の顔に覚えがあるのではないですか?知り合いですか?ご自分の置かれている立場をよく考えてお答え下さい。」
「知りません、見た事もありませんわ!本当か?と申されましても…確かめる必要などございませんでしょう?そもそも何故わたくしが公爵家の下級メイドの事を知っていると言うのですか。」
「夫人…何故否定をするのです?この者はウェスカー侯爵の隠し子であり、貴女とも面識があるはずです。
隠されるのは…何かやましい事がおありで?」
「やましいだなんて…おやめ下さい。わたくしはただ、関わりたくないだけです。それの母親も卑しい平民ですからね…集る、せびる、媚びるのが得意なのでしょう、全く汚らわしい…一体何だと言うのです?
侯爵家はそれの存在を認めておりません。非嫡出子ですので、痛くもない腹を探られるのは不愉快でございます。」
外の様子を窺っていたアリーシアは、証人として呼ばれたそのメイドに見覚えがあった。
以前ランドリーメイド達へ、お手製のハンドクリームを配った時に誰よりも嬉しそうにしていた。その場で使うメイド達の中でそのメイドは大事そうにポケットにしまったので、アリーシアが「遠慮せずに使っていいのよ?」と声を掛けると…自分よりも手荒れの酷い母親に持ち帰ると言うので、アリーシアはこっそりもう一つ渡したのだ。
アリーシアはあの時のメイドに間違いないと思ったが…確信は持てなかった。何故ならあの時の笑顔の彼女と、怯えて真っ青になっている今の彼女が…あまりにも違って見えたからだ…。
侯爵達の断罪でサクッと終わるつもりでしたが、
違った角度の犯行動機をプラスしてみようと、
奥さん出してみました。
間延びしないよう心掛けつつ、少しでも内容濃く出来ればと頑張りますので…もう少しだけお付き合い下さい。




