63.アリーシアの考える"絆"
「あの…それでは…畏れ多くも、両陛下におきまし…」
「もうっアリーちゃん、もっと気楽によ!キャシー達と話すみたいに話して頂戴!」
(いいえ…王妃様それは無理でございます…そもそも両親にも砕けた話し方は致しませんのに…でも…ご要望とあらば致し方ございませんね…)
「それでは失礼して…わたくしの考えをそのままお伝え出来るよう頑張らせていただきます。
まず学園での事ですが…やはりかなり不安でした。それは、ウェスカー侯爵の異常さを感じていたからです。
しかし陛下の御前に行き、陛下のサインを受け取った時に、何かお考えがあるのだと…幾分冷静になれました。ですので、この件についてわたくしからは何も申し上げる事はございません。
しかし、臣下であるわたくしにはそれでよいとしても、王妃様対しては、やはり殿下方や両親と同じ様に、お伝えしていた方がよろしかったのではないでしょうか?
そこに何かしらの理由があったのならば仕方がございませんが…
王妃様はわたくしの母と懇意にされておられます。この事からも、王妃様が等しく国の母といえど、わたくしの置かれた状況を殊更に心配して下さったのだと思われます。
情にお厚い王妃様が…いくらわたくしの両親が黙っていたからとて、あの様子を座視するには忍びないとお考えになってもおかしくはございません。
陛下は謝罪なさる時、その王妃様の心情を慮って謝罪なされましたか?陛下が仰った様に…例え王妃様が公私をはっきりと分けられる方であっても、それは表に出されていないだけで…抑制された感情として蓄積されます。"大丈夫だろう、分かってくれるだろう"は陛下の希望でありますので、決めつけられたり…そう思い込むのは…改善された方が宜しいかと…。
また…あの場でのウェスカー侯爵の突発的な行動を、気取られる事なく極秘に対処されるのは、場所的にも人数的にも、そして時間的にも困難且つ急を要する事であったと思われます…なので国王様はご自分にとって一番身近な王妃様を、信頼されたのでしょう…
陛下の半身であり、背中を預けておられる王妃様だからこそ大丈夫だと安心されて…あの様な流れとなったのではないでしょうか?
しかしわたくしも…王妃様のお気持ちが…分かる気がします。
自分の身内や身近な人が悩んでたり、大変な思いをしてると思ったら…力になりたい!と、そう思いますもの。でもそれが分かっていても話していただかないと出しゃばる訳にはいきませんでしょう?
わたくしの父も兄達も、その…表情だけでは読み取る事が難しいのです…兄達も愛情に関しては、言葉や態度で過度に表してくれますが…大事な事はすぐに隠してしまいます。兄達なりに心配をかけない様になど、それなりの理由があるのでしょうが…子供扱いをされていると感じてしまいます…。私も家族なのにって…。
え?父ですか?まぁ…父の事は母が目を光らせ…ンンッ失礼しました。うちの両親は日頃から会話の中でコミュニケーションをとっております、でないと父の死んだ表情筋では同じ言葉でも誤解を招くからです。
日頃から互いに、言葉や態度に出す努力があって初めて"以心伝心"となるのだと両親を見て学びました。
うちの父も"貴方の口は食事をする為だけのものではないのですよ!"と母に辛辣に言われておりました…。
なのでご安心下さい、陛下だけではございません。
え?他にはですか?…そうですねぇ…
"多くを語らぬのが男の美学と言うのならば、わたくしは…か弱く媚びる事を女の美学と掲げましょう"と言って父を慌てさせたり、"貴方が寡黙を貫くならば、わたくしは今後一切の共感を放棄致します"などと宣言されたり…それも最近では随分と減ってきました。
互いに思いやる相手だからこそ、良い事も悪い事も伝え共有する事は原点であり、相手の思考や行動を知る事で深まる絆こそ強い結び付きとなるのではないかと、わたくしはそう考えております。
わたくしの様な若輩者の小娘が、この様な話をし…両陛下に聞いていただくなど、恐縮なのですが……。」
「いいえっ、いいえ!アリーちゃん…貴女の言ってくれた通りよ!業務連絡の会話だけではなく、互いを知る為の会話を大切にして欲しいわね!夫婦なんですもの!」
「えぇ、王妃様の仰る通りだと思います。
しかしながら男性は物事を論理的に、女性は感情で捉えるのだそうです。その上陛下はこの国の王であられますから、…抱えられている責任や問題も多岐に渡っておられます。公爵である父もまた然りです…
確かに、感情的な時こそ本心や本性が出ます。しかし本音で語り合えたとて、強固な絆が無ければ後悔する事もあるでしょう…。
ですので、相手に求めるだけでなく…まずは自分の感情を分析し、理性で対処する事が出来れば…相手の思考や行動を知る事も出来、より深い絆を結べるのではないかと…その様な互いの努力が必要であると思っております。ね?お母様?」
「アリーちゃん…ありがとう。私ね…娘とこうして父親への文句を言ったり、娘に注意されたり…色んな話をするのが夢だったの!思った以上に有意義な内容で驚きはしたけれど、夢が叶ってとても嬉しいわ!
でもアリーちゃん…貴女…デビュタント迎えたばかりとは思えない程達観しているわね…すぐにでも王妃が務まるわよ!フフフ…うちの三人の中から誰か選んでくれないかしら?
そうだわ、デビュタントも済んだのだから…これからは遠慮なく私のお茶会に呼べるわね!アリーシア、貴女に
招待状を送るから沢山参加して頂戴!」
興奮気味の王妃様に「謹んで参加させていただきます」としっかり臣下の礼をとり最後の挨拶をした。
何故なら、例えここが公の場でなく、これまで気安く…娘の様に接していただいていたとしても、王妃様から直接招待を受けたのだから、きちんと返事をする事が女傑と名高い王妃様に対しての礼儀だと思ったのだ。
「貴女本当に素晴らしいわ!考え方もしっかりしてるし勘も鋭いわ…冗談抜きで義娘になってくれないかし…」
「ローズ王妃様?アリーシアに面倒な席を用意しないでくださいな!うちのアリーはこう見えてとても面倒くさがりで、気が弱いのだから王妃なんて務まる訳ないわ」
「何でよ!打診するぐらいいいでしょ?彼女はあの侯爵達と渡り合う度胸もあるし、向いてると思うわよ?」
私の父と陛下は頭を抱え、距離を取り…
陛下は"王妃に付き合ってくれてありがとう、君が話してくれた事を実行するよ"と握手を求められた。
私達が握手で応えていると…扉がノックされ、侯爵達の取り調べがあらかた済んだ事が伝えられた。
あぁそうだった…まだ終わってはいないのだ…と私が気を引き締め直している時…
王子達は学園で手出しが出来なかった分、王城に連れて来る侯爵達を途中で襲った事が王妃にバレ…事務処理をさせられており、
アルフレッドとジェイソンはリリーの魔法の解析をシリウスを交えて進めていた。
そのシリウスのお腹はお城の美味しいお肉をたらふく食べてポッコリしていた。
エミリーは私達の会話をまとめてご婦人向けに本を出す事を母と王妃様と話し合っていた。
テディーやオリビア様達食事が済んだ時点で庭園に避難していた…。
アリーシアは妖精達のことを話しそびれてしまったが…あの状況では仕方が無かったと諦め、いよいよ侯爵達が集められた部屋に挑むのであった…




