62.女傑 ローズ サリヴァン(王妃)
学園からお城へと場所を移した私達は…何故か王族の方々と食事をしている…。
確かに今日は朝食を軽く口にしただけだったので、お腹は空いていたのだろう。しかし色んな事が一度に押し寄せたので、空腹を感じる暇もなかった…。
とは言え決戦の最中、お腹の虫を鳴かせる事は絶対に避けねばならないと思い…馬車の中でエミリーを頼ってしまった。
いつもならエミリーのポーチからは、お菓子やキャンディの瓶が出てくるのだが…出てきたのはお塩の入った瓶だった。何故?と思いつつ…確かに極限状態では塩と水さえあれば命を繋げると聞いた事がある、けれど私の状態はそこまでではないので流石に遠慮した。
珍しくエミリーが"お嬢様っ違うんですっ"と慌てていたので、"大丈夫よ、お城でお茶菓子を頂くわ"と言って安心させた。
しかし私は…皆忙しくバタついているだろうから無理は言えないだろう、と分かっていたし…言うつもりもなかったのだ…。なのに……それなのにっ!!
何・故・私は、今、王族の方々と共に、コース料理を、頂いているの?だめだわ…しっかりと噛み砕いて考えてもわからないわ…しかも陛下が斜め前っ近いぃ……
アリーシアの思考と感情はパニック真っ最中であった。
しかし綺麗なマナーで食事をしながら、テディー達は大丈夫かと心配になりそちらを見ると…席が離れてはいるがミラ達に世話を焼いて貰い、お城での食事を皆楽しんでいる様だ(多分きっと)。
自分もあっちでよかったのに…なんて思っていると、
《アリーシアがお腹空かせてるぞーって皆大慌てしてたよ! 国王は王妃に怒られてた! ジュリアンとラスカルも怒られてたー! フェンリル様はねーお肉いっぱいもらってたよ!》
「あの…わたくし達…お城でこの様なお食事を頂けるなんて…思ってもおりませんでした。…ただ急な事でお手を煩わせてしまったのではないかと…それに皆様のご予定もございましたでしょう?」
「アリーちゃん、貴女はそんな事気にしないでいいのよ、むしろこちらこそごめんなさいね…疲れてるのにわざわざ足を運んでくれてありがとう。料理に嫌いな物はない?お友達も一緒に好きな物を沢山食べて欲しいわ」
「王妃様、お気遣い頂きありがとうございます。こちらには、わたくしも友人達も自らの意思で参りましたのでお気にされないで下さい。
お料理もどれも美味しゅうございます。未だ信じ難き事ですが…同席をお許し頂きありがとう存じます。
ちなみに…ですが…殿下方は……」
「ゴホンッ、ンン…アリーシア、王子達の事は…気にせず、もっと気楽に沢山食べなさい。
あ奴らもなぁ…最近はジェイソンやアルフレッドの事を言えぬぐらい、アリーシアが絡むと馬鹿になってし…」
「陛下っ…(ジトー)
アリーちゃん、あの子達にはちょっとだけ仕事をさせてるの、だから大丈夫よ心配しないで。陛下の言う事は全く気にしなくていいわよ!無視してもいいわっ!
でも…本当にキャシーに似てきたわね、うちも女の子が欲しかったわ〜、…腹黒・無表情・拗らせ…の男どもなんて何の楽しみもないわ!」
「何言ってるのよ、三人とも顔がいいじゃない!
うちのだって大して変わらないわよ、単純冷血無表情に隠れ腹黒過激魔法オタクだもの!その上、…重度のシスコンなのよ!」
「あらっ、二人とも高スペック持ちだし、顔も言う事無いじゃない!それに妹思いって言えば聞こえが良いもの、ものは言いようよ?」
「王妃達よ…皆が驚いている…そう言う事は、いつもの様に二人だけの時に話したらどうだろうか?」
王妃とキャサリンは社交界頂点の二人。学生時代からの親友でありとても仲が良かった。で、あるからして…
「あら、陛下…ここは公式の場ではありませんのよ?
そもそも先程の学園での事だって、わたくしまだ許しを出した覚えはございませんので、話しかけないで下さらないかしら? プイッ
ところで…ほんっとに、さっきのあの二人許せないわ!キャシー…、貴女よく我慢出来たわね?私ですら特注の扇子2本も折ってしまったというのに!」
「だって貴女の所の陛下が、仰ったのよ?ジェイソン達が戻るまで手を出さずに引き延ばす様にって!それが無かったら、アリーシアが陛下の前に連れて行かれた時点で火だるまにしてるわ。」
「フフフ、相変わらず過激ね!
陛下ったら、あの侯爵が騒ぎを起こした時…身内や貴女達にはその様に伝えてたのに、私や当のアリーちゃんには何も言わずにあんな茶番を始めたのよ?信じられる?
可哀想にアリーちゃん…驚いたでしょう?
でも毅然としてて、とってもかっこよかったわ!
以前耳にした事があったの…えぇと…どなただったかしら…あっ!思い出したわ、リード伯爵の所の夫人が、お茶会の席で…それはもうアリーちゃんの事を褒めちぎってたの!その姿を見た者は必ずや心酔するだろうって!今なら更にあの方の気持ちが分かるわ
"その者から手を放しなさいっ!"ってあの時はシビレたもの!迫力もあって、聞く者を自然と従わせる力と言うか…説得力の違いね!誰か様にも見習って欲しいものですわ…」 チラッ
「いや…王妃その件はすまなかったと謝ったではないか…アリーシアにもアイコンタクトで私の思いは伝えたつもりであったし、王妃は公の場では決して暴走などしないであろう?君達を信じていたからこそなんだ…。わかってくれ…
それに…あの時アリーシアがかっこよかったのは同意するが、私は魔法を当てられたんだ…少しぐらい心配…」
「はっ!それこそ、ものは言いようでございますわね陛下、結局はアリーちゃん頼みではないですか。言わなくても分かれ、ですって?賢王が聞いて呆れますわ!
大っ体、貴方はいつもそうっ!自分一人で抱え込んで、自分は悩んでますーって顔して…。ハッキリと仰って頂かなければわかりませんっ!何ですか?私は部外者なのですか?神獣様の事だってそうっ…わたくしは何も今回の事だけを言っているのではないのですよ!」
「ちょっと、ローズ!ローズったら落ち着きなさいよ、陛下も皆も困ってるわ。それにこの後の事もあるし、貴女も同席するんでしょう?」
「キャシー、私は至って冷静よ。あの様な罪人達など…待たせておけばいいのよ。あぁでも神獣様をお待たせする訳にはいかないわね…分かったわ、この事は後程、ゆっくり、じっくり、陛下と話し合うとしましょう。
でも…最後に、アリーちゃん…この事に関して話を聞かされていなかった者同士として、貴女の意見を聞かせてくれないかしら?この際無礼だ何だは気にせずに、この事や、私や陛下のやり取りを聞いて…貴女の考えや、どう感じたかを知りたいの!遠慮なく意見して頂戴!」
両陛下のやり取りに呆然としていたら…まさかの矛先がこちらを向くだなんて…何故?何かテスト的なものかしら?王妃様に試されているとしたら…?何にせよ、正直に真摯にお応えするしかないわね…。
こうして…お城での決戦前に、美味しい料理を食べた事で、王妃と国王の夫婦喧嘩に巻き込まれてしまうという…大きな代償を払う事になってしまったアリーシア。
当の本人は…やっぱり屋敷に帰っていた方が良かったかしら…なんて思いつつ、皿が下げられお茶の準備が整ったところで…王妃と国王に向き合い、遠慮なくよ!と、王妃に再度念を押されて話し始めるのであった……。




