60.見た目は可愛い妖精達
今回、流血場面がございます。
あぁ…陛下の御前で許可のない魔法発動…その場で斬り捨てられてもおかしくないわ…侯爵も私に手を出してしまってはお父様達が間違いなく黙っていないはず…
私は危機的な状況にも関わらず、私の思考は冷静だった
「いい加減になさいませっ!」
バチっという音と共に侯爵の振り上げた手が弾かれ、
カーター様の水魔法も消え去った。
「痛っ、貴様何をした!陛下っご覧になりましたか?この娘は私に魔法で攻撃しましたぞ!」
「またあんた私の魔法を消したのね!全て私の言った通りじゃない!これで分かったでしょう?この女は危険人物よ、私じゃなくてこの女を捕まえなさい!」
「二人ともいい加減にしろ!見苦しいぞっ!それと侯爵貴様のその手の痺れは、アリーシアの魔法ではなく俺が贈った魔道具が発動したのだ。悪意や危険から身を守る為の雷魔法がな…
これまでの暴言もだが、アリーシアに手を上げた事、必ず後悔させてやるから覚悟しておけよ…。
そしてそこの女、お前はこの会場にいる者達に魔法を使っていたな?先程は陛下に向けて放ったはずだ、その罪は決して軽くはないぞ!」
「知らないわっ、私は何もしていない!
何故皆平民の男が言う事に耳を貸すの?私を陥れようとしているのよ?現にさっきの私の魔法は消えたじゃない!"持たざる者"のこの女が使う魔法の方がよっぽど得体がしれないわ、調べるならこの女を調べなさいよ!」
「そうですぞっ!陛下、こうなっては私の侯爵家に人知れず秘められていた秘密をお話ししましょう。
この娘の瞳の色をご覧下さい…珍しい紫の色をしておりますな、これは魔女の証なのです。
遥か昔この国で魔女狩りにあった魔女も紫色の瞳をしており、王家に貢献するふりをし…怪しげな術や魔法で人々を混乱の渦に招いたと、そう残されていたのです!今のこの状況がそうだとは思いませぬか?
この女は黒い魔物を使役し、怪しげな術を使う…まさに古の魔女が蘇ったのです!」
「ウェスカー侯爵様、その女性をその様に悪様に罵るのはおやめ下さい。」
「ハッ!ついに正体を現したな、己が魔女の系譜である為庇っておるのだろう?こうなっては貴様の生まれも、もしくは公爵家の成り立ちすらも真偽が問われる事になるぞ!こうして陛下のお耳に入り、明るみになったからには公爵家でも揉み消す事は出来ぬと覚悟するがよい!
ハハハハハッ!これで公爵家も終わりだなぁ!」
バスンッッ!!!と大きな音と共にウェスカー侯爵の足が氷の杭でその場に打ち付けられた。
「ギャーーーッ!痛いっ痛いーーなんだこの氷は!」
「ウェスカー侯爵…言いたい事はそれだけか?口はまだ塞いでおらぬからな、最期の言葉を聞いてやろう。」
お父様の容赦ない氷魔法により、ウェスカー侯爵はその場に蹲り、呻き声をあげている。あぁ…ついにお父様の我慢の限界が来たのね…陛下の御前なのに、攻撃魔法で人を傷つけるだなんてどうしたらいいの…と私が困っていると…
《アリーシアはあの嫌な男が痛い思いしてるの嬉しくないの? 困ってる? 燃やす? あんな小さな氷じゃなくて大っきな氷で潰しちゃおうか? それとも目の前から消しちゃう? あいつ飛ばしちゃおうか?》
何やら物騒な事を言っている沢山の声が聞こえてきた…
《ジェイソンとフェンリル様戻ってきたよ! ここの人達もアリーシアの言葉で洗脳が解け始めたみたいだ! ねー、こっちの王子は痛がってるそいつを見て笑ってるよ! おーいアルフレッドが便乗してそいつに攻撃しようとしてるよ! やっぱり僕達もこいつやっつけよー》
どこからか聞こえる声に耳を傾け、意識を集中すると…羽の生えた、小さくて可愛い子達が飛び回っている…
そう言えば…お城でアルお兄様が目を覚まされた時、私の見えていない筈の様子がなんとなく分かっていたのもこの子達が今みたいに教えてくれていたのかしら?
「あの…盛り上がっている所をごめんなさい、あなた達は…もしかして妖精さん達かしら?私なら大丈夫だからこの人をやっつけるのは他の人に任せましょうね。」
《あーーっ!アリーシア僕達のこと見えるの? 話してる事も聞こえてるみたい! えー嬉しいっ! やっと大好きなアリーシアとお喋り出来るんだ! ねぇねぇ、アリーシアさっき何を困ってたの?力を貸すよ?》
私は小さな妖精達に圧倒されつつ侯爵の怪我について相談した。すると"手をかざしてみて!"と言われた為、
「国王陛下、発言をお許し下さい。
ありがとうございます…。先程のウェスカー侯爵の発言が例え度の超えたものであっても、陛下の御前で魔法を放った父の行動は許され無い事であると理解しております。ですので父を庇う行為、発言ではない事を…両陛下、それとこちらにいらっしゃる皆様方へ、まずはご承知おき下さいます様お願い申し上げます。
さすれば…ウェスカー侯爵様の両の足もこれ以上この場で血を流せば大事になりかねません……。
ですので…これからわたくしの行う行為をお許し頂けますでしょうか…」
私はそれまで頭を下げていたが、顔を上げ陛下の目を見てお願いをした…。すると陛下は優しく微笑まれて、
「アリーシアは優しいな、アドルフの事も私は何も見ていないのだから心配せずとも大丈夫だ。そんな奴の為に君を矢面に立たせる事はしないから安心しなさい。
ジェイソン達も戻った様だし、こいつに付き合うのはここまでだ!衛兵達よっ正気に戻ったのであれば、直ちにそこに転がっておるウェスカー侯爵を縛り上げるんだ!止血の為でもあるからな、遠慮なくキツめに縛り…医者に応急処置だけさせてその辺に放っておけ、良いな!
あぁそれと隣の子爵令嬢には罪人用の魔法封じの手枷を装着させ拘束せよ!家系の者達もこの場で拘束するのだっ」
陛下に下された命令により、先程まで虚な顔をしていた衛兵達は速やかに職務を遂行した。
周囲の人達も夢見心地から覚めた様な表情をしている…
良かった…と私は安堵の息を吐き出した。
昨日初めての感想をいただきました。
とても嬉しく…何度も読み返してしまっています。
言葉の持つ"力"を改めて体感しました。
完結間近となりましたが、最後までお付き合い頂けると幸いです。




