56.アリーシア渾身の祈り
「お兄様…アル兄様…どうして…こんな…」
私は流れる涙をそのままに、何度も呼び掛けた。手を握り祈りを込めて…お兄様を呼んだ…。
すると、お兄様が目を開けて…口を動かしている!
「ア…リー……い…つ………までも…愛…して……る…
ちち…うえ…す…まっゴホッ…ない…」
「いやっ!いやっ!お兄様!アル兄様っ!ダメッ…
お願いっ、戻ってきて!いかないでっ!アル兄様っ!
いやよっ!目を閉じないでっ…お願い、お願い…誰か…私に力があるなら全部あげるから…お願い…お兄様をっ連れて行かないで!アル兄様を助けてぇっ!!」
アリーシアはベッドに飛び乗り、兄の身体を揺すりながら、声の限り叫び…そして祈った…。
アリーシアの精神は限界で…気を失いかけた、その瞬間
…強い光が放たれた!その光は部屋の隅まで照らし、目を開けていられない程の輝きで…アリーシアとアルフレッドの二人を包んでいる。
強い光は、柔らかく温かな光に変わりアルフレッドを覆う様にして…刹那に消えていった。
その場に居合わせた全員が何が起こったのかと…呆然と立ち尽くしていると、大きくなったシリウスがアリーシアに近付き顔を覗き込んだ。
〈アリーシアよ…よくぞ乗り越えた!…其方は"力"と"証"を手にした。兄の事も、もう心配いらない。荒業ではあったが、其方が救ったのだ。良かったな。お陰で我も随分と力を取り戻せたようだ…。〉
シリウスにそう言われて、何の事かはよくわからなかったが…お兄様を救えたの?とアル兄様を見てみると…
「アリー…重くはないが、お前に馬乗りにされるのは…子供の頃以来だな!ハハハッ…、すまない、心配をかけただろう…?…それでこれはどういう状況なんだ?俺は夢を見ているのだろうか?…それともやっぱり死んでしまったのでは…!」
アル兄様っっ!!私は思いっきりお兄様に抱き付いた、お父様、お母様、ジェイ兄様もみんなで抱き付いた!
部屋の隅ではエミリーが泣いていて、アデルバート様もこっそりと涙を拭っているそうだ。そしてエドワード様が私の背中をさすって下さっているらしい…。………?
私は今アル兄様の胸に顔を埋めているから、部屋の様子がわかる筈はないのだが…わかっている…?何故?
いや…今はそれよりも、
「お兄様っ!傷は?身体は?アザ…は?」と確認しようとしたが…消えている?…それどころか、ニコニコと笑って私の頭を撫でている。
「アルっ!本当に大丈夫なのか?腹の傷はっ?お前死にかけていたんだぞ!……先程の光か…?
神獣様、先程アリーシアが救ったと仰いましたが…
いや待て…私の傷も癒えている?ジェイ、君も傷を負っていただろう?どうだ、治っているか?」
アデルバート様もお兄様の状態を確認したい様だが……
え?ジェイ兄様もアデルバート様も治ってるの?良かった…と安心する間もなく、国王様が慌ただしく部屋に入ってこられた。
〈第一の王子よ、落ち着くのだ。国王も揃ったからの…皆にも説明しよう…我を見ても分かるように、先程の光はアリーシアの覚醒の光である。今まで内に秘めておった聖力が解き放たれたのだ…
本来なら己を認め受け入れ、確たる自信と覚悟を己の魂に自ら刻んだ時に発現するのだが…此奴ときたら、自分の事にはとことん自信が持てぬようであったからの、なかなか発現まで至らなかったのだが…
兄への強い想いか……のうアルフレッドよ、アリーシアはな、お主が助かるならと…全てを投げ出す『覚悟』をしたのだ。自らの命までもな……その強い自己犠牲の精神と覚悟、そしてお主への強い想いで…己への足りない自信という枷を上回ったのだろう…。
この場、いやこの城ぐらいは優にアリーシアの聖力…今回は癒しの力だが、行き渡っておるぞ。
この力の発現とはの…属性魔法を妖精の力で使える様になるのだが、…治癒や浄化の類である癒しの力となると聖力の量と質が関係する為、人が使う事自体珍しく…アリーシアのその癒しの力は桁違いだ…。
力の覚醒経緯もだがこれ程の聖力とは…我にもまだ驚く事があったとは……ほんにアリーシアは面白いっ!〉
そう言って豪快に笑うシリウスは、以前大きくなった姿よりも大きな姿になっている。
「アルフレッドよ…助かったのだな、良かった…
アデルバートを庇ったと聞いた、ありがとう。心からの感謝を…いやっそれだけでは足らぬな!形に表したい故何か欲しいものを考えておいてくれ。」
畏れ多くも国王様がお兄様の手を握り感謝の意を示して下さっていると、再び慌ただしく扉が叩かれる。
何やら…討伐帰りの負傷兵全員の傷が癒えたらしい、
その報告を聞いた国王様が…今度はベッドの上の、更にアル兄様の膝の上にいる私に…"聖女様っ"と跪いてしまわれた…。
国王様に跪かれるという、目の前の事が余りにも非現実的で…あ、これ以前テディーでも経験したわ…なんて余計な事を考えてしまっていると…今度はその場にいる全員が跪いてしまった!
私は、私から"ぴゃっ"と初めて出た音にも構わず、慌ててお兄様から、そしてベッドから降りようとしたが…アル兄様がそれを許してはくれなかった…。
「アリー!ありがとう、お前のお陰で私は生きている!お前をもう一度この腕で抱きしめる事が出来るなんて…奇跡だ!アリーは奇跡を起こす聖女様なんだなっ」
そう言っていつもと変わらず、いやいつも以上にぎゅうぎゅうと私を抱きしめる。お兄様っ…嬉しい!嬉しいけれど…ちょっと待って欲しい…。しかし誰も待ってはくれない様だ…。今度はシリウスが…
〈国王よ、皆もそのまま聞くがよい…よいか?負傷兵の傷が癒え、アルフレッドの身体の穢れが消えたように…アリーシアの覚醒により今回の澱みも、自然のものであれば薄れるであろう…。本来の癒しの力とは、聖女の力とは、これ程のものなのだ…存在だけでその地を浄化し実り豊かに導く…そしてアリーシアの精神と聖力は、元々綺麗ではあったが…我が驚くほど美しく強大なものへと成長を遂げ、その稀なる力を発現させたのである。この事が分かるか?今回は、しかと守れよ…。よいな?
そう言っている間にも…何やら早々に起きるやもしれんぞ…第三の王子一人では荷が重かろうに、ふむ…大サービスで我が送ろう!アルフレッドも大丈夫であるな?よしっ、それでは皆我に触れるのだっ〉
待って〜私はまだ何一つ…ついていけていないの〜!
私の心の叫びは虚しく…シリウスの転移の魔法により、学園の公爵家に用意されていた部屋に戻って来ていた…
国王様も、アデルバート様もお兄様達も…先程の格好のままで……ちなみに私も、髪も顔もボロボロである…。
唯一まともな格好の両親とエドワード様が色々手配してくれている…。待って…確かにデビュタントの舞踏会は夜まで行われるから、まだまだ時間はたっぷりとありますけど…えっ?皆参加するの?あんな事があったのに?私はもう…ヘロヘロのボロボロなのですが…?え〜っ?
アリーシアが必死に抵抗しようが、優秀なエミリーによって…恙無く最速で整えられていくのであった…。
アルフレッド助かって良かったね!
アリーシア魔法使い出したらどうなるの?
エドワード影が薄くなってきたぞ!
ラスカルに活躍の場を!
などなど、少しでも気になる要素がある方は
またお立ち寄り下さい( ˙꒳˙ )ノ




