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55.予期せぬ凶報

準備を整えそろそろ…という時、何かが窓から文字通り飛び込んで来た。

部屋に緊張が走るが、いち早くエミリーがジェイお兄様の風魔法を纏ったカラスだと気付き、足に付けられた手紙をお父様に渡しているが…とても嫌な予感がする…。


「アリーシア、落ち着いて聞きなさい。討伐隊が数隊城へ戻ってきたが…アルフレッドが怪我を負っているそうだ。我々は直ちに城へ向かうが、お前はどうする?……

すまない…愚問であったな、直ぐに準備を。」


私はエミリーの手で動きやすい格好に着替える。その間お父様は学園へ、この場を離れる連絡や会場の王子達への事実確認などと冷静に指示を出されていた。

そして私達はデビュタントの会場ではなく、兄が運ばれた城へと馬車を走らせた。

王城と学園は近いため直ぐに着く筈だ…しかし時間が長く感じてもどかしい馬車の中、私は祈る様にシリウスを抱きしめた。



幸せの毎日だったがそこへ突如不幸が訪れてしまった…


城へ着いた私達は、すぐに兄の元に案内されたが部屋の前でアデルバート様に止められた。


「待つんだ、アリーシア!このまま部屋に入ってはいけない、一旦落ち着いて心の準備をするんだ!」


「何故ですかっ!!?お兄様はっ?」


「大丈夫だアリーシア、アルフレッドはまだ生きている、公爵…中で説明するから。アリーシアは一旦別室で待っていてくれ、誰かっ案内を頼む」


「アデルバート様お待ち下さいっ…まだ…という事は…兄はとても危険な状態なのですよねっ?何故部屋に入ってはいけないのですか?わたくしも父と参ります!

わたくしなら大丈夫です、取り乱したり致しませんっ!なのでお願いですっ、兄に今すぐ会わせて下さい!」


私は必死にアデルバート様にすがった。


「わかった…アリーシア、公爵もよいな?」


とお父様に確認をしたアデルバート様は、中にジェイお兄様もいる事を教えてくれ、部屋に入るよう促してくれた。


アル兄様っ!…私はベットに寝かされているお兄様の所へ駆け寄った。お兄様は血の気が無く真白な顔をしているが…その半分は黒いアザの様なもので覆われていた。


声を掛けるが反応がない…。もっと近くで…と顔を寄せようとしたら、ジェイお兄様に止められた。

ジェイお兄様も怪我をしている様だ…一体何が…?

思わずジェイお兄様に飛び付いて、無事を確かめつつ…怪我は大丈夫なのか?何があったのか?アル兄様の怪我の状態は?と矢継ぎ早に問い詰めてしまった。


「アリーシア…私から説明しよう…公爵も聞いてくれ、

討伐へ向かい国境そばで私とアルの隊は待機し、ジェイの隊には国境を越え、澱みがある魔物の発生場所に向かって貰った。暫くして隣国側から魔物が押し寄せてきたんだ。私達は食い止めるべくその場で応戦し…アル達の活躍もあってなんとか侵入を防いでいたのだが、魔物の様子がいつもと違ったんだ。数も勿論多かった…

不安がよぎった時にジェイ達が戻り合流出来た、良かった…これで何とかなると…私は安心し……油断を……」


「アリー、アル兄さんはね…アデルバート様を庇って傷を負ったんだ。弱っていた筈の魔物が急に殿下に突進して、咄嗟の事で兄さんも防御が間に合わなかったんだと思う…。殿下と僕でそいつにとどめを刺して兄さんの救護にあたったけど…血が流れ過ぎていたんだ…。兄さんも自分でそれがわかっていたんだろう、僕達にアリーを頼むと…そして謝ってくれと…託されたんだ。

兄さんはその時、剣ではなく…アリー、君が兄さんに贈ったハンカチを握りしめていたんだ。傷の場所と流した血の量から、戻れない事を覚悟したんだと思う…」


私は…側でアル兄様を見つめたまま、黙って話を聞いていた。ジェイ兄様の声は耳に届いてはいるが…理解が追いついていないようだ…。


「でもね、その時アリーのハンカチから一瞬だけど…

光が漏れ出たんだ。兄さんの身体のけがれの侵蝕が止まったのはそのお陰だと思ってる…。

今は止血をして何とか繋ぎ止めている状態なんだ…。」


"何を?"とは聞けなかった…。

アル兄様…もうどうする事も出来ないの?私は祈る様にシリウスを見た……するとシリウスは


〈アリーシア…心のままに行動していいんだよ〉


と許してくれた。それを聞いた私はアル兄様の手を引き出して強く握った。穢れが影響して伝染うつってしまうと止められたが、聞くつもりは無かった。


お兄様の身体は顔以外も黒いアザと傷に覆われていた。思わず目を背けてしまいそうになるが…今にも止まってしまいそうに弱く、浅い呼吸を繰り返しているお兄様の穢れで覆われた顔を見ると…つい先日私のデビュタントが楽しみだと笑うお兄様の顔と重なって涙が溢れて止まらなくなってしまった。


お母様が私の肩を抱いてくれている。お父様もジェイ兄様も側に来て、アル兄様を見守っている。

そこへエドワード様が駆け付けてくれた…

学園へは王妃様が向かわれて、国王様は討伐の報告と処理が終わり次第こちらに来てくれるそうだ…。会場にはジュリアン様とラシュカール様が残り取り仕切って会を進行させているとアデルバート様に報告をされている…

それらが終わったのだろう…私とアル兄様の側に来られてジェイ兄様に状況を聞いている…その一連全てが遠くで聞こえている様に感じ…私は何も出来ず、ただアル兄様を見つめ


「お兄様…アル兄様!」


手を握りしめ必死に呼びかける事しか出来なかった…。









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