54.控室での一幕
『愛するアリーシアへ
兄様達はこのまま魔物討伐へ向かうけど、
アリーシアのデビュタントには必ず参加するから、
お友達と楽しんで待っているんだよ。
一緒に踊る事を楽しみにしています。
何かあればエドを頼る様に。
アリーシア、心配いらない。いつもの討伐と
何も変わらないから、いい子で待っていてくれ。
お前を愛する兄達より』
ジェイお兄様、アルお兄様…大丈夫ですわよね…
二人からの手紙を読み、大丈夫だと自分に言い聞かせてはみるが…不安な気持ちが募ってしまう…。しかし態度に出してしまうと、事情を知らない人達に心配させてしまうので極力平静を装いデビュタントの日を迎えた。
前日から身体を磨き上げられ、私の為に作られたドレスに袖を通し、準備に携わってくれた人達に褒められ、
キラキラのティアラを頭に乗せてもらうが…やはり兄達が居ない為、かろうじて笑顔を作りお礼を言うのが精一杯であった…。
シリウスやエミリー、そして両親は事情を知っている為静かに寄り添ってくれる…。
落ち着かない気持ちのまま、会場へと向かった。
公爵家は個別の控え室が用意されており、人混みを回避出来た事に安堵し、エミリーの紅茶で喉を潤していると扉がノックされ、エドワード様がいらっしゃった。
「アリーシア……とても綺麗だ!特別輝いている!
公爵も夫人もおめでとう、ジェイ達も間に合う様に帰って来るはずだから…夜までゆっくりと待っていよう。
神獣様にはこちらに食事を運ばせますので、ごゆるりと召し上がって下さい。
それと…アリーシアよかったらこれを、何かあれば一度だけだが雷の魔法が発動する様に、俺の魔力を込めている。ジェイほど魔法が得意ではないから威力は期待出来ないし…神獣様もいらっしゃるから必要ないかもしれないが…邪魔で無ければどうか身に付けて欲しい…。」
エドワード様に渡されたそれは、細いシルバーチェーンに薄い紫の宝石が上品に配置されていて、とてもシンプルで可愛い花がモチーフのブレスレットだった。
私の瞳と同じ色だと気付き、気恥ずかしくもあったが、一目で気に入ったそれを、私はそのまま着けて貰いエドワード様にお礼を言った。
するとエドワード様は微笑みながら私の手を握り、
「俺の方こそ…、こんな特別な日に自分が贈ったものを身に付けて貰えてとても嬉しいよ。君の綺麗な瞳の色が良く似合っている、本当は青を贈りたかったんだが…次の機会にとっておく事にしよう。」
と、とても綺麗な碧眼で見つめられてしまい…自分でもわかるくらい顔に熱が集まってしまった。私がその瞳の青から目を逸らせずにいると、今度はジュリアン様とラシュカール様が来てくれた。
「アリーシア、今日はなんだか雰囲気が違って見える…とても綺麗だ!会場でも独り占めしたいぐらいだ。」
「アリーシア様、私には特別な力がある訳ではないのですが…貴女様の周りがいつも以上に、キラキラ輝いて見えます!ジュリアン様もエドワード殿下も会場に入ると王族として生徒会として何かとお忙しいでしょうけど、私は大丈夫ですので、何かあれば些細な事でも遠慮せずに仰って下さいね!」
ラシュカール様も事情を知っているのだろう…お兄様達を待つ私の事を、皆が心配し気遣ってくれているのだ。本当は不安で押し潰されそうなのだが…下を向いていられない、この今の嬉しさと心強さを胸に笑顔でお兄様達の帰りを待っていよう!
お兄様達の無事と、皆への感謝の思いを強く心に持ち、私は溢れる感情と涙を堪え、その場にいる全員に渾身の笑顔でお礼を言った。すると小さなシリウスが、
〈アリーシア、偉いよ!とてもいい面構えになった。〉
と褒めてくれた。照れ臭くて、ジュリアン様から先程贈られた花束に視線を移すと、私の腕の中でキラキラと艶めいている…"えっ?"と驚いているとジュリアン様が
「この、薄紫のスイートピーの花言葉は"永遠の喜び"なのだそうだ、今日のお前にピッタリだな!ん?この花束先程より瑞々しいな…花びらもシャキッと……
あぁ…セオドアが言っていたのはこの事なのだろう、
先程のアリーシアの笑顔の効果が出たという訳か…確かにこれは驚くな…。ラスカルお前にもわかるか?」
ジュリアン様の言葉に皆の注目が花束と私に注がれる、今回は皆にも見えている様だ。両親もエミリーも驚いている、シリウスは"そろそろかもね"と何やら意味ありげに呟いているが…そう言えばそろそろ開場の時間が近づいているはずだと思い出して、最終チェックの為…私もエドワード様達もそれぞれの持ち場にお戻りになられた。あぁいよいよなのね…と私は頂いた紫のスイートピーをせっかくだからと髪に挿して貰い、準備を整えた。
次回いよいよデビュタントです。
討伐組の安否
アリーシアの会場での様子
行方不明のリリーの状況
そもそも黒幕の存在とは?
隣国まで出てくるの?
続きを気にして頂けましたら、またお立ち寄り下さい。




