52.妖精の隠れ里
その日は流石の公爵家の使用人達も気を張っていた。
この国の国王が公爵家へ訪れサロンで寛ぎ、紅茶の味を褒めている。
そこへアリーシアとシリウスがやってきた。最上の礼をとるアリーシアを国王が止めた、
「アリーシアよ、久しいな!話は聞いたぞ、伝説の神獣様と契約を交わした其方にその様な事はさせられぬ!公式の場でもないのだ気にせずともよい。」
と、言葉を交わし…逆に国王が膝をついてシリウスに敬意を示した。シリウスは国王を立たせると、アリーシアの腕から本来の姿に戻り…国王に言葉を掛けた。
国王は…国を統べる者のみに伝わる、妖精に関する話は決して繰り返す事がなき様教訓とされている事や、魔女と呼ばれた女性のその後…破滅の道を進んだ教団の末路などをシリウスに伝えた。
シリウスはそれを聞き、何点か訂正をした。
〈国王よ…その魔女とされた者はな、"妖精達により隠された"のだ。死んだように見せかけ、悪しき者達に制裁を下し…この国を後にした。その時にその者も自分達の郷に連れ帰り、その地に根を下ろしたと記憶しておる。後のことは…ほれ、アリーシアの母も何か聞いてきたのではないか?
しかしな、死んだとされた者が新たな地で暮らし、その時根絶したとされる悪しき植物も新たに根を張るように、悪事もまた滅びず繰り返される。愚かな戦争もその一つだの…。其方はどこまで掌握出来ておる?悪の根は自国のみとも限らんが…足元をすくわれんよう、気を張っておれよ…。我が言えるのはここまでじゃ…。〉
国王はその内容に驚きつつも深く頭を下げた…。
話を引き継ぐ様にアリーシアの母キャサリンが、生家に伝わる話をし始めた。
キャサリンはこの王国から国を二つまたいだ小国の姫であったのだが、見聞を広める為この王国に留学をし、アドルフと出逢い結婚をした。
その国は争いを嫌い…他国を頼る事なく、自然豊かで鉱石の産出国としてとても豊かな国であったが、出入国がかなり厳しい閉鎖的な場所でもあった。
「わたくしの生まれた国は、国土の半分以上が森であり、森を育て守る事が王族の務めとされ、森に生かされているのだと教えられ育ちました。
森との共存こそが国の本来の姿だとして、森を焼き国土を広げる事を何百年も禁じてきたそうです。
そして森の奥深くには精霊の泉が湧き出る場所があり、妖精達が棲んでいるのだと、古くから伝承と共に王家にも語り継がれておりました。
森に棲まう無垢なる者、
護り人と共に根を張りて金色の力満ちた時
魔を退けし力は癒しとなりて清浄の地とならん。
この伝承は国の成り立ちを指しており、泉の精霊と結ばれた初代の王妃様がその護り人だったのではないかと…そして、王妃様は珍しい紫の瞳であったと伝え聞いております…。
そうです、娘のアリーシアの瞳と同じなのです…。」
〈うむ、アリーシアの瞳も綺麗な色をしておるな…。
其方の国の妖精も、随分と森の奥に引きこもってしもうておるが…正しく語り継がれてはいるようだ…。
しかし…それを知る者は少なくなっておるのだろう?〉
「はい…神獣様の仰る通りです。わたくしが国にいる頃にも…妖精の姿が見える者はおりませんでした。
王妃様の血筋である筈の王族にも、紫の瞳はなかなか現れる事はなかったと…それらの事もあり昨今では伝承は伝説であり、お伽話に近い扱いでした。現にわたくしも今回の事で改めて知った事が殆どでございます…。
アリーシアが生まれた時も、先祖にはその色の瞳をした者がいたと…それ程にしか気にしておらず、早くに国を離れたとはいえ…あまりにも無関心が過ぎたと反省しております。」
〈そもそも…人と我々では時の長さも感覚も違うのだ…それがこの世の無常であり、仕方のない事なのだ…。
それよりも…この話を聞き、何か気付いた者はおるか?
ほう…国王は気付いたか…察しが良いの、其方が察した通り…その、王妃となった護り人は、この地を妖精達と共に離れた魔女と呼ばれた者の後の姿である。〉
シリウスとお母様の話を聞いたジェイお兄様は、とても興奮している様だった。それに対し国王様と王子達は静かに落ち着いてらした…。
そして、私はというと…何と言っていいのか…
その女性が生き延びており、理不尽な思いをせず幸せに暮らせて良かった…とは思ったが…
まさかその女性こそがご先祖様で、お母様の母国の祖となる方だなんて…話が壮大過ぎて感情が追いつかない。
そんな私の感情に気がついたのか、アルお兄様が
「すごいな!アリーのその綺麗な瞳はその方と同じなのだな?アリーが持っているかもしれない聖力も、きっと妖精達のお陰なのだろう。その上俺達からも好かれているし…アリーは無敵だな!」
普段無表情で冷たい表情のアルお兄様は、とても単純にいつだって私を褒めてくれる。私はそれをとても嬉しく感じ、そして救われている…。
お母様に「貴女にも妖精達が見えるの?」聞かれたが、私は見えるどころか…感じる事も出来ない。シリウスに寄り添い見上げると、尻尾で抱きしめてくれた。
〈アリーシア…焦る事はない。妖精達はもうずっと何年も側に居続けておる、変わらず好かれておるのだから心配はいらない。あとはお主の心と思いの強さだけだ…
何がきっかけになるかも分からんしの、それに…あやつらが見えたとて、たいして何も変わらんと思うぞ?〉
こうしてシリウスにも慰められ、国王様達は改めて国内外の調査を進めるとともに、シリウスにこの事を文献に残すかどうかの伺いを立てていた。
両親やお兄様達も新たにわかったお母様の故郷の話を聞いて、落ち着いたら家族で里帰りをしようという話にもなった。
私はエミリーが淹れ直してくれた紅茶を飲みながら、
その日が来る事を楽しみに考えていると…
シリウスが、お母様に頼みがあると話しかけてきた。
〈近く開かれるアリーシアのデビュタントとやらだが…アリーシアにはフリフリのキラキラで着飾って貰おうかと思っておる!キャサリンよ頼んだぞ!〉
その場でエミリーだけがクスクスと笑っていた…。
シリウス…フリフリのキラキラで悟りを開いたかに
思えてましたが…しっかり根に持ってた様です…。
アリーシアの運命やいかに!




