49.デビュタント………
この世界では割と頻繁に飢饉に見舞われていた。
備蓄された物や、豊かな領地による支援などで、乗り越えてはきていたが…王都や王家への皺寄せは回避出来ず、貴族会議では何度も議題に上がっていた。
改善したくとも自然が相手であり、畑を増やしたところで…満足な手入れが出来なくなり元の収穫量まで減らしてしまうなど、悪循環を繰り返していた。
しかし、アリーシアの言う効率化された畑で、より良い物が一定量収穫できる様になれば…
まず農家そのものに余裕が出来、領地が潤う。
そうなると訴えも減り王家への不満も薄らぐ。
何より飢饉や食糧難の改善に繋がるかも!と絵空事の様にも思えたが、今の悪循環を断ち切る為にも…やれる事は試したかった。
そして何故か二人には、成功までの道が見えたのだ…
正しく光明が差したのである。
アリーシアの一言によって…
王族であるエドワードとジュリアンは互いに同じ思いだった。王家として伝説の神獣様も勿論大切な事も理解していた。しかし…例え今すぐに実がなる話ではなかったとしても、一刻も早く取り掛かりたかったのである。
「アリーシア、神獣様の事もだが…先程の畑や作物に関する話をまた今度詳しく聞かせてくれるか?俺達は城へと戻り魔法使い達と、土魔法の有用性を…作物に詳しい者を交えて話し合ってくる。ではまた!
アリーシア、無理はするなよ?また近いうちに会おう」
エドワード様はそう言ってジュリアン様とラシュカール様とお城へと戻られた。テディーもジェイお兄様と庭に戻ってきた。
「アリー、殿下達は城へ戻られた様だね。神獣様もまだお休み中かな?伝説の神獣だなんて…自分の目で見て声を聞いたのに、まだ信じられないよ…。
今度じっくりと魔法の話を聞かせてくれないかなぁ」
「フフフ、お兄様らしいわ!わたくしも魔法の事をシリウスに聞きたいと思っています…。でも今はまだ沢山食べて、沢山眠って、沢山安心して欲しいのです。
わたくしと一緒で良かったって思ってもらえる様に…
沢山の愛情を注いで、この子の母としてずっと守っていくと決めたのです。!」フンスッ
「ハハハッそれでこの抱っこ紐か、懐かしいなぁ…これでぬいぐるみ抱っこしてたもんね。
全く…何があってもアリーはアリーだね!安心したよ。
きっと神獣様もアリーに守られて心強いと思うよ!
じゃあ僕は調べ物があるから部屋に戻るけど、君達はゆっくりして行ってね、昨日から色々ありがとう。帰りは送っていくから心配しないでいいよ。お土産も用意してあるから忘れない様貰って帰ってね!それじゃあ。」
ジェイソンが戻っていくのを見送ったアリーシア達だったが、オリビアがため息をつきながらボヤキ始めた。
「わたくしもあんな素敵なお兄様が欲しかったですわ…妹よりも兄だったらって、アリーシア様を見てるといつも思ってしまいますの…。
それかセオドアさんの所の様な可愛い妹だったらって…
うちの妹も同じ様に不満があるでしょうけど…
生意気に最近じゃあ、わたくしのデビュタントの事にまで口を出して来るんですの…気が早いでしょう?
皆様はもう準備に取り掛かっていらっしゃいますか?」
デビュタント…アリーシア達が通う王立学園に通う生徒は13歳で学園主催のデビュタントの舞踏会が授業の一環として行われる。そして14歳で社交会の事を一年間しっかりと学んで、15歳のデビューを果たす。
学園主催とはいえ、その年のデビュタントを迎える家門からの寄付があるので、かなり大々的に行われている。
そしてこの舞踏会には、学園に通う13歳以上の生徒であれば誰でも参加可能であり、男子生徒も多くが参加して食事やダンスを楽しんだり、婚約者を探したりと参加者の目的は様々である。
しかし主役はやはりその年にデビュタントを迎える女生徒達で、白いドレスに身を包み、頭にはティアラを飾るのが一般的である。そして王族への挨拶を一人ずつ行った後、パートナーとダンスを披露する。
15歳で迎える成人の義ほどの堅苦しさはないが…
準備から考えるととても大変で、ドレスの色指定がある分、流行や形、素材にまでこだわって差別化を図らなければならないのだ。
年頃の女性はそれらを楽しんで準備をするのだが……
そう…アリーシアに限っては…違った。それら準備も、
デビュタントそのものさえも、"面倒くさい"以外の何物でも無かった…。
「そうでしたわね…デビュタントのドレス…うーん…、わたくしは全てお母様にお任せしようと思ってます。」
「アリーシア様?どうされたのです?急にお元気が無くなられた様な…大丈夫ですか?と言うか…ドレス選び、ご自分でなさいませんの?」
「ええ…出来たらご挨拶だけで済ませれないかと…」
「なっ!わたくし達アリーシア様とご一緒出来るのを楽しみにしてたのです…特にわたくしもミラ様もアリーシア様のお陰で領地や家業が潤いましたでしょう?
ですので、アリーシア様やオリビア様とご一緒にいても、恥ずかしくない様な装いで参加出来ると二人で話してましたの…」
「はい、私も最初は既製品かレンタルで済ませるつもりだったのですが、父がアリーシア様達とご一緒なのだからと…既にオーダー品を…なんだか張り切っちゃって」
「あら、わたくしの所だって変わりませんわよ、うちは母が…アリーシア様のお側に立つのに恥ずかしい格好は出来ないって…アリーシア様の公式でのお姿を楽しみにしてましたわ。うちの母はアリーシア様の熱狂的なファンですの。人って変わるものですわね…アリーシア様との出会いで天啓を受けたみたいに、"アリーシア様は目標であり、道標だ!"って人格まで丸くなりましたもの…フフ、今では優しい母ですのよ。
わたくし今でも思うんです、うちが伯爵家を今も名乗れるのは、アリーシア様のお陰なんだと…。」
「オリビア様のお母様は少し寄り道をしてたのですわ…その分オリビア様はお辛い思いをされてしまわれましたが、お母様は受け入れられたのだと思います。オリビア様を…、そして、それまでのご自分を。様々な葛藤があったでしょうに…とても素晴らしい事だと尊敬致します。そして、そんなお母様を許され、受け入れる事が出来たオリビア様もまた素晴らしい娘なのだと、わたくしはそう思っております。」
「アリーシア様……」とオリビア達が感動していると、
「アリーってたまにいい事言うよな〜」とお菓子を頬張りながらセオドアが、冗談めかして言うのでアリーシアは可笑しくなって声を出して笑ってしまった。
そのアリーシアの笑い声に応える様に…花壇の草花が、一斉に揺れてきらめいたのであった…。
面倒くさがりアリーシア発動!
私も極度の面倒くさがりで…最近ではトイレでさえも
誰か代わりに行ってくれないかと頼んでいます。…




