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40.オリビア リード伯爵令嬢 ①

オリビアの生い立ちや人格形成にまつわる話ですが、

少し重い内容かもしれません。


「オリビアさん…貴女…何を読んでるのかしら?そんなもの読む暇があるのだったら、もう少しお勉強の時間を増やしてもいいのではなくて?絵本だなんて…貴女いくつになったと思ってるの?何の知識にもならないこんな物なんて必要ありませんっ。全く…時間を無駄にしないでちょうだい。いいこと?これは貴女の為なのですからね?淑女たる者しっかりとした知識とマナー、爵位に恥じない矜持きょうじと品位、それらをしっかりと身に付けて、貴女はこの伯爵家を継がなくてはならないのです!遊んでる暇なんて無いのですよ?聞いていますの?自覚が足りないですわよ!」


この、どこか他人行儀にも聞こえる話し方をしている人は、間違いなく私と血の繋がった母親である…。にもかかわらず、6歳になったばかりの自分の娘に興味が無いのだ。先日誕生日を祝ってもらい、プレゼントも貰った。知らない大人ばかりで、読みたくも無い字ばかりの分厚い本のプレゼント…。よっぽど私の事を気に掛けてくれている使用人達から貰った、子供向けの絵本の方が嬉しかったし、大切にしたかった。しかしそれも見つかり、否応無しに取り上げられてしまった。

まだまだ親の愛情を欲する年頃ではあったが、物心ついた頃からそうだったので…可愛い物を欲する事も、自我を持つ事でさえ厳しく指導された。そして抑圧され続けた私は、早い段階で自分の境遇を受け入れ、親の愛情同様に求める事を諦めた。

そんな私にも表には出せないが、許せない事が一つだけあった…親の愛情を一身に浴び、自由奔放で子供らしい一つ違いの妹、私の時とは全く違う妹の6歳の誕生日…そこには捨てたはずの私の夢が詰まっていた…。

7歳の私は、悔しいと…悲しいと泣く事も、嫉妬する事も許されず…ただドロドロとした感情を心の内にくすぶらせたまま蓋をした。

そんな私の変化に気付きもしない母親は、王宮のお茶会に参加させようと、珍しく構って来た。拒否権など私に有るはずも無く、当日まで更に厳しい教育を科され、当日は"決して不作法ではいけない、誰よりも美しく優雅に王子達の目にとまれ"と馬車の中でも散々言い含められた…。

うんざりだ…伯爵家の小娘に何が出来ようか…所詮子供の集まりだ、きっと周りも大差無いはず。ただ後から面倒だから、大きな失敗だけはしない様に大人しくしておくのが無難だな…と子供らしく無い冷めた思考で、母親の"私の為"と言う甘言かんげんに見せかけた苦言を聞き流していると、あっという間にお城に着いて会場へと向かった。まずは母親と共に挨拶をして回る…私が褒められると…母親は私には向けない様な笑顔で、謙遜しながらも得意げにしている。社交辞令に決まっているのに…小さな反抗心なのか、心の中でそう悪態をつきながら同じ年頃の子達のテーブルで当たり障り無い会話をしていると…とても可愛い子が目に入った。一人離れて花を見ている、うちの可愛いと持てはやされている妹とは全く違う…本当に可愛い…歳は変わらないと思うが、初めて見る顔で…私以外にも視線を集めていて、私はその子がとても気になった。王子様達がお越しになり周囲が騒めく、ご挨拶をするべく母親と向かうと、先程のあの子が王子達に挨拶をしていて、その姿に…声に、衝撃を受けた…。私と…私達とはあまりにも違い過ぎる…何故?歳もさほど変わらない筈だし、立ち振る舞いも大差ない筈…と思っていた、むしろ全てを諦め…勉強に費やしている私の方が、この場の誰よりも突出していておかしく無いと…いや、そうであってくれと…そう本心では思っていたのに!隣から母親の感嘆の声が聞こえる、"素晴らしいわ…あの歳で…所作も完璧だなんて…あれこそわたくしの求める姿ね"母親からの称賛だなんて欲しても無駄だと、とっくに諦めていた筈なのに…その時の私は、妹の誕生日の時よりもハッキリと悔しいと嫉妬を自覚した。きっとそれは顔に出ていたと思うが、取り繕う事すらせずその子を睨んだ。睨んだ先にいたその子は、私が睨もうと何も変わらず可愛くて完璧な存在で…賞賛されていた。途端に惨めな気持ちになった私は、その後も変わらず…いや、比べられ厳しさが増した教育を受け続けた。

私は何も変わらないし、変えられない。頑張っても、望んでも…結果が何も変わらないのであれば、失敗さえしない様気を付ければいいのだと自分を誤魔化し続けた。

たまに妹が売り物では無く、頂いたのだと自慢げに抱いているぬいぐるみという物を見ては、いいな…可愛いな…と可愛い物を持つ事を許されない私が、その点だけは妹を素直に羨んだ。


そんな私も学園に入り、母親や家から少しだけ開放された様な気分になった。するとそこにあの時の、忘れたくても忘れられない少女が静かに…美しく座っていた。何の因果か隣の席…。

え?…可愛らしい物を鞄につけていらっしゃいますわ…

え?…動物シリーズですの?顔といい大きさといい…たまらなく可愛らしいですわ…何だか雰囲気が妹の持っていたぬいぐるみだったかしら?あれに似ている気がするわ…妹もまだいない学園の中だけでなら、わたくしが持ってもいいかも…

一旦そう考えてしまうと、今まで我慢していた分抑えが効かず思わず話しかけてしまい、思い切って聞いてみた。想像していた公爵家のご令嬢とは違い、アリーシア様は中身もとても可愛らしい方だった。一緒にいた男爵家の方も思わずそう仰っていたもの、一応注意はしたけれど…アリーシア様は気にせずお友達になって下さって、私の世界を広げて下さった。好きな事が何一つ出来ず言いなりになるだけのとてもとても窮屈な世界…

アリーシア様は、欲しい物や想像した物をご自分で作られて、出来ない時は周りを頼るのだと仰って、実際に絵を描かれたり…ぬいぐるみを作られたり、見た事もない可愛い刺繍をされたりと、なさっている内容は婦女子の嗜み事ではあるのだが…本当にアグレッシブなお方だった。

次第に私も影響され、可愛い物を作る事になった。アリーシア様は、一緒に楽しみながら沢山の事を惜しげも無く、優しく教えて下さった。でも…絵を描く事も刺繍も学んできていたが、アリーシア様みたいに可愛くならない…失敗しない様にと気をつけるが、出来上がったぬいぐるみは歪で猫の顔は笑っておらず何やらムスッとしている様に見える…だって動物の表情なんて…笑ったりしていないですもの…刺繍だって技術はあるが、顔が全く可愛くない。それに引き換え、アリーシア様の刺繍は…無駄な物がなく簡略化されているのにすっごく愛らしい動物達が刺されている。こちらも失敗だわ…そう思って隠す様にしまおうとすると、アリーシア様が珍しく声を上げて興奮?されている?私のつたないぬいぐるみや刺繍を見ているようだ。わたくしのが…あまりにも不出来だったからかしら……。そう思って恥ずかしく感じアリーシア様の目から隠そうとした…。すると…


「なんって可愛らしいのかしらっ!オリビア様、これ二つともオリビア様が作られたのですよね?見せて頂いてよろしいですか? …わぁ〜このTHEっ猫って感じの表情たまりませんわ!体もぶってしてて…デブ猫でツンデレだなんて…オリビア様天才か?(しら)。こちらの刺繍も技術は勿論ですがこの表情がっ!なんですのっ?この哀愁漂うしょんぼり顔っ!はぁ〜可愛い過ぎて…この子達が1番可愛いですわっ!」


え?わたくしのこの失敗作を…褒めて下さっているの?

何故?どこが?…もう一度改めて自分の作品を見る……うんっ、ブサイクだわ…。作った本人の評価なのだから間違いない…なのでアリーシア様に確認してしまうのであった……(決してアリーシア様の美的感覚を疑っている訳では……)






少し長いので話を分けました。

3.小さいけれど立派な淑女、10.放課後の教室に

昔のオリビアの様子が出ています。


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