26.ミラ グリーン男爵令嬢
アリーシアのお友達(親衛隊)編です
私はしがない男爵家の長女、家は商いを生業にしていたが、領地もなく細々とやっていた。何代か前のお祖父様が商売を成功させ、爵位を買ったのか賜ったのか…私は知らない。幸か不幸か子供の頃、土魔法の属性が認められ、学園入学の為、しなくていい努力や苦労で何度も辛い思いをした。そんな時私は家のそれほど大きくはない花壇の土で、魔法の練習も兼ねて動物を作るのを密かな楽しみとしていた。
学園に入ると案の定、上位貴族の方達ばかりで足がすくむ…しかも同じクラスにあの、商いに関係ある人間なら知らない人は居ないぐらい有名な、セイリオス公爵家のご令嬢がいらっしゃる…。初めてお顔を見た時の衝撃は今でも覚えている。大きなお店に飾られている優雅で高級なお人形のようだった。
日常の中の彼女は穏やかな人だった…表情もあまり動かず静かで、まるで森の中の美しい泉を連想させた。そんな彼女のお側で話をする事があり、キッカケは彼女の持ち物…とても小さく動物のモチーフ…可愛い!お話を聞くと、なんとまさかの自作っ?私はその時思い出した、なぜアリーシア様が私達商人の間で有名だったか…
その理由を目の当たりにした私はつい、己の立場を忘れ質問してしまった…私を責めることは勿論なく、普段の彼女とは明らかな違いが…嬉しそうに微笑み、声を高く好きなものを話す姿…私と同じ年頃の女の子の姿がそこに在り、思わず漏れた"なんて可愛らしい方なんだ"と…周りから責められるが、当のご本人は友達になってしまった。その人は親しくなっても、とても聡明で可愛らしくて、慈悲の人だった。ご自分の作品やアイデアを私の家で取り扱う事を公爵家へ掛け合って下さり、結果私の家は他の商家から一目置かれる事になり、商売の右肩上がりがどんなものかを経験した。毎朝家族一同、神様へのお祈りとともに、アリーシア様への感謝も欠かさず続けている。
そんな我が家でも神格化しているアリーシア様が、学園でトラブルに巻き込まれていた様だ…私達はお手紙やお花をお送りする事しか出来ず、アリーシア様の学園での元気なお姿を心待ちにしていた時、その女性は私の前に現れ、信じられない事を平然と口にした。
その話をされた私は、理解するとともに怒りが込み上げた。卑劣かつ薄情な計画でアリーシア様に悪意を向けていた…最近耳にした噂がある、似ている…直感的に思った。繋がっているのかもしれないと、確証は…無い。しかしアリーシア様を苦しめている元凶であるのは間違いない…自分が、自分の家が下に見られるのは当然なので気にしない。だが、アリーシア様を大切に思うこの気持ちまで軽んじられたのかと思うと許せない。家族の威信を背負い、私は断固闘う!潰されたとて、アリーシア様との邂逅がなければいずれ潰れていた…吹けば飛ぶような爵位と家だ…強度は期待出来ない盾であっても…守るべき大切なものを私は間違えない。そう決意した私であったが、お友達に相談するか迷った…私と同じ様にアリーシア様と親しくなった方達、とてもいい方達で爵位の低い私の事も貴賎なく見てくださる方達…巻き込んでしまう事が怖い…どうしたら…。
その時声が掛かった。「クレア様…」私はその方の名を呼んだ。今まさに思案していた相手の一人、クレア クラーク子爵令嬢様、オリビア リード伯爵令嬢様、それと私ミラ グリーン男爵令嬢の私達三人はアリーシア様親衛隊である、同じタイミングでお友達になり共にアリーシア様を、お友達として親しく接してはいるが敬愛している。クレア様は私と同じ様にアリーシア様の慈悲の心に救われたお方だ…その方が眉を顰め怖いお顔で近寄ってくる、どうされたのかしら?…
「ミラ様…貴女の真の心に問うわ、…ミラ様はわたくしとオリビア様を、なんの衒いもなくお友達…いいえ、同志として信頼して下さるかしら?」
「クレア様…?一体なにを…」
「ミラ様、わたくし達…アリーシア様も含めてお友達ですわよね?確かに…生まれや育ち、爵位など違いはありますけど、この学園でアリーシア様を通じて、お陰で、かけがえのないお友達になれたと思っておりますの。そのわたくし達に遠慮はして欲しくないのですわ…」
「あ……っ、クレア様、私っアリーシア様を守らなきゃって、でもお二人を巻き込んでしまってご迷惑をおかけしたらって…私が持ち掛けられた話だから、でもたとえ家が無くなっても屈しないって!」
「ええ、貴女ならそう考えると思ってました。ですからわたくし先にオリビア様にお話してしまいました!ごめんなさい問い詰める様な事をしてしまって…実は貴女とカーター子爵令嬢の話を聞いていたの…あの時すぐに助けてあげれずにごめんなさい…話が終わった後すぐにオリビア様に相談に行ったの、わたくしだけよりもオリビア様と二人で貴女に安心して欲しかったの…あんな風にしかも歳上の人間に威圧されて怖かったでしょう?…」
「ミラ様!クレア様、遅くなってごめんなさい。話を聞いて来たわ、貴女が聞いたあの女の協力者は何人かいたのだけど確証がないわ…もう少し時間が欲しいわね」
「オリビア様っ!私お二人にお話が…ご迷惑をおかけしてしまうかもしれないのですが…」
「えぇ、大丈夫ですわ、心配しないで!クレア様に内容は聞きました、貴女ならきっと遠慮して一人で対抗してしまうだろうからって、クレア様と話をしましたの。水くさいですわ、アリーシア様の親衛隊として今こそ団結して立ち向かいましょう!アリーシア様の憂いを取り除き、また一緒に作品を楽しみましょう?ねっ?」
しがない男爵家の娘だけど…学園でお友達が出来た。
あんなに学園に通うのが嫌で怖かったのに…
優しく背中を押し、頼もしく支えてくれる…
何物にも勝る大切な友人達が。
私は、あの日"友達になれて嬉しい"と
恥ずかしそうに呟いたアリーシア様の事を思い出していた。
読書の秋…
社会派推理小説が好きです。




