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103.レミントンの両親


 レミントンの母は…時の王に気に入られ、ヴァナルガンドまでやって来た異国の踊り子であった。


彼女は与えられた屋敷で国王の心を癒していたが、それ以外にやる事がなかったので、知識を得ようと努力をした。


この国の言葉や文字、そして歴史や風習、儀式やマナーなどあらゆる事を学んだ。


彼女に野心は無く…物珍しい自分に王が飽きた時、一人でも生きていける様にと勤勉に取り組んでいた。


元は平民の踊り子であり、いずれはそこに戻るであろうと…贅沢を好まず、身体を鍛え…健やかに過ごしていた。


王は…そんな真面目な彼女だからこそ、大事にし…憎悪渦巻く城や貴族達には近付けなかった。


王妃は…彼女の存在を知っても、異国の平民で踊り子風情なのだから…すぐに飽きる玩具おもちゃだろうと歯牙にもかけていなかった。


事態が急変したのは、忘れかけていた陛下の玩具おもちゃが子を…男児を産んだと王妃の耳に知らせが入ってからだ。


王妃から我が子を守る為、彼女は全てを捨て…僻地に身を隠す事になったが、父親の分まで愛情を注ぎ、子の為に生きた。


ヴァナルガンドで生まれた国民よりも、その国の歴史や伝承を深く学び…我が子をしっかりと見てきた彼女だからこそ、異変に気付いた…


我が子が小さな友達と呼ぶ見えない存在、そして…小さな村の小さな奇跡…他にも思い当たる事は沢山あった。それらが導くもの…それは


   『妖精の愛し子』


言い伝えとなってしまうほど姿を消していた存在…


まさか我が子が…?という思いもあったが、


我が子がケガで泣けば、どこからか動物がやって来て慰め…いつの間にか傷は消えている。


我が子が甘い物が食べたいと言えば、木に甘い実がなった時もあった。


我が子が森で迷えば、鹿の背に乗って帰ってきた。


これと似た様な事が沢山あり…いつも我が子は、小さな友達が助けてくれるのだと言っていた…。


疑いようがなかったが、彼女は認めるのが怖かった…


この事が公になれば、自分と我が子の幸せな日々が終わってしまうからだ…。


母として我が子の幸せを一番に考えたかった…。


しかし彼女は学んでいた…この国の歴史とそしてこの国の現状を…。


そして彼女は決断した。


父親…いや、この国の現状を憂いている国王への報告・・


我が子の受ける恩恵は…自分達だけのものにしてはいけない…自分達の幸せと天秤にかけるべきではない…そう自分に言い聞かせて…。



我が子が妖精の祝福を受けているかもしれないと聞いた国王は…驚き、喜んだ。


妖精へ感謝の祈りを捧げ…また打ち明けてくれた母親にも礼を言った。


素晴らしい子を産んでくれてありがとう。

国の為にと…辛い選択をさせてすまない。……と


母親は国王のその言葉を受け止め、我が子との別れを覚悟したが…国王は祝福を目の当たりにしても、それまでの生活を変える事はしなかった。


国王が出した答えは、『何もしない』だったのだ。


自分の気持ち一つで、自由な踊り子であった彼女を危険な目にあわせ…僻地での暮らしを余儀なくさせてしまった負目からなのか…それとも、彼もまた今ある幸せを壊したくなかったのか…。


元々彼は争い事も荒事も好まない…よく言えば穏やかで冷静、悪く言えば臆病者の事なかれ主義とも言える国王であった。


継承権を放棄してようが、妾の子であろうが…祝福持ちの王子となれば、周囲が担ぎ上げるだろう…。


しかし王妃がそれを許す筈なく…確実に諍いが起き、非情で醜悪な結果となる事がわかっていたからこそ決断した。


王妃の子を王太子に据え、成人を迎えると同時に王の座を譲り渡すと…そう王妃とも誓約を交わした。


この時レミントン六歳、第一王子十八歳…即位まであと二年の事であった。



執念深い王妃は…その幼い子の命を諦めた訳ではなかったが、祝福の事を知らなかった事と、国王との誓約もあり一旦は手を引いた形となった。


そして二年が経ち…


国王は信用できる優秀な配下達を全て城に残し、王座とともに第一王子に渡し…この国を託したのだ。


そして僻地の森の中に小さな家を建て、親子三人穏やかに暮らした…。



「……と、ここまでで済めばよかったのですが…」


そんな風にレミントンが少し言い淀んだので、自分達が聞いてよい話なのかをアリーシアがたずねると…


「あぁ、いえ少し…衝撃的な話になりますので…皆様のお耳汚しになるのではと心配になったのです…。」


そう言われ、更に踏み込んだ話になるのだと考え、アリーシア達は身を正すのであった…。























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