102.レミントンの秘密
二人の時間を過ごしたアリーシア達は教会に着き、レミントン司祭の部屋に案内され…扉をノックする。
するとジェイソンの声で「どうぞ」と返事があった…
二人は何故?と思いつつ部屋の中に入るとそこには、執務机に座り書類をめくっているジェイソンがいた。
まるでこの部屋の主人かの様に、そこにおさまっていたのだ…。
「お…兄様?何をなさっているの?司祭様は?」
「ああ、彼なら隣の客室にいるよ!彼は思っていたよりもいい人だったし、心配はないみたいだね!
ん?なんだいラシュカール、何故そんな目で私を見ているのかな?やだなぁ…何か言いたい事でも?私は咎められる様な事は何もしていないから!
お互い…紳士的で、かつ有意義な話し合いだったよ
まったく…そんな疑いの目で私を見ていいのかい?
もうあの許可を出さないようにしてもいいんだよ?」
そう言ってニヨニヨと笑うジェイソンを見て、アリーシアは会話の内容はよくわからなかったが…(お兄様なんだが楽しそう)とほっこりしつつ…レミントン達のいる部屋へ入ろうとすると、中から…
「黙れっ、それ以上…私の愛する人を貶めんとするならば…私は闘う!たとえこの身が切り裂かれようと…私の全てを捧げ、盾となり彼女を守りきる事を誓うっ!」
オリビアの声だが…その緊張感あふれる雰囲気に、アリーシアとラシュカールが思わず足を止めていると…
「おーっ!まるで騎士の誓いの様ですね!」とレミントンの声と拍手が聞こえてきた…。
部屋に入ると、仁王立ちで片手は腰に手を当て…もう片方は前に突き出し、ポーズを決めているオリビア…
そのオリビアをソファーから見上げ、拍手をしているレミントン…。
えっ?えっ?と戸惑うアリーシアと、状況を理解し…頭を抱えるラシュカール。
アリーシア達に気付いたレミントンと挨拶を交わすが心なしか…レミントンのラシュカールを見る目がアリーシアを前にした時のそれに似ている…。
「レミントン司祭様、本日は急な変更を申し訳ございませんでした。それと…兄が執務机におりましたが何かご面倒をおかけしてはいないでしょうか?」
不安気にしているアリーシアに、
「アリーシア様どうぞご心配なく!
私は貴女様が真の聖女様と聞き…何も驚きはしませんでした。むしろ感謝と胸の高鳴りが止まらないのです」
そう言ってアリーシアの前に跪き、
「聖女様…どうぞこの国をお導きください。
無力な我々に慰めと癒しをお与えください。
迷える者達の救いとなるよう、
力と知恵をお授けください。
我々は献身の印として心からの祈りを捧げます。
どうぞ我々に実り豊かな恵みと祝福を。」
レミントンに祈りを捧げられたアリーシアが戸惑っていると、ジェイソンが顔を出して
「アリーの事なら私から話をしたよ、問題無いと判断出来たからね…。それに私達の秘密と同じだけの秘密を打ち明けてくれたんだ…だから心配いらないよ!」
秘密とはなんぞや?と思ったが、ジェイソンが判断したのならその判断に委ねるしかないが、気が置けない仲間ができた事はいい事だと、心強さを感じていると…レミントンがおもむろに…
「私…実は国王陛下の年の離れた弟なのです。」
肩をすくめ…困った様な顔でいきなりの爆弾発言…
要約すると…今は亡き先代の国王が父親であり、異国の踊り子を国へ連れ帰り愛妾として囲ったのだと…
その結果レミントンが産まれた。正妃の子とは歳が離れてはいたが、男児であった為その小さな命は常に狙われていた…争いを生まぬ様、母親は息子を連れて城を出たがそれでも正妃は追っ手の手を緩めなかった。
なので継承権を放棄し、俗世を捨て…更に離れた土地の小さな教会を住処とした。そうしてようやく正妃の呪縛が解かれた。
国王はその事を静観し、国王だけが母と子の居場所を把握し静かに見守っていたのだろう…
しかし…息を潜める様ひっそりと生きてきたレミントンだったが、彼の体には間違いなく王族の血が流れていたのだった…。
〜ヴァナルガンド王家には、妖精の祝福を受けた子供が誕生するという言い伝えがあった…
しかし何世代もその気配は無く、古くからの言い伝えであるとの認識でしかなかった…
恩恵がないから信仰が薄れたのか、信仰が薄れたから恩恵が受けられないのか…
今を生きる人達も王家も、その事すら突き詰めようとせず、妖精達と共存する豊かな世界は絵本の中だけのものになっていたのだった。〜
田舎の年寄りばかりの小さな集落に、突如現れた美しい母親とその息子。
あるのは森と泉と、朽ちかけた教会…村人達に警戒される中、母と子はそこでひっそりと暮らしていた。
レミントンが物心ついた頃、小さな友達が出来た…
それからレミントンは森や外で遊ぶ様になったが、いつも独り言を言いながら独りで遊ぶ彼の姿を見て…不憫に思った村人達が歩み寄る様になった。
不思議な事に、小さな畑に作物が実る様になり…森では薬草が採れる様になった。それから日照りが続いても泉の水が枯れなくなり、村人達の心を豊かにした。
毎日の食べ物があり、怪我や病気にも薬草が助けとなった…何よりの生命線である水の確保。
規模は小さなものであったが…度重なる恩恵…。
『奇跡』とも呼べる様なそれらの変化に、レミントンの母だけが確信に近い心当たりを持ち…それと同じだけの不安を抱えていたのであった……。




