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101.二人の時間

 

 「お兄様達…大丈夫かしら……」


そう不安を口にするアリーシアは、屋敷の庭をラシュカールと二人で散歩をしていた…。


教会に行く予定が…何故未だラシュカールと屋敷に残っているのかというと……


「いいかい?我々には必ず捜索隊が出ている。そして向こうは四人組をさがしているはずだ。だからここは2ー2に分かれて教会まで行こう!これなら馬車を止められても気付かれずに済むからね。


私はこちらに来たばかりだし、教会でやる事があるからオリビア嬢と先に行くけど、アリーはエミリーと合流してラシュカールと後から来るんだ。いいね?」


ジェイソンにそう言われたので、アリーシアと、ラシュカールは素直に従っていたのだ。




ジェイソンは馬車で出発する間際、ラシュカールだけを呼び出し…


「不本意ではあるが、アリーが君に守られたのは事実だからね……実に…実に不本意だけれど…アリーと二人になる許可をあげようと思う…不本意だけど…。

しかぁっし!くれぐれも!節度を保つこと!いいね」


とラシュカールに念を押し、オリビアは…というと、


「わたくしもジェイソン様同様…大、変!不本意!…ではございますが…あの時の貴方様のお言葉に、嘘がない事はわかっております…。

ええ、ですが、だからと言って…全てが許される訳ではございません!ですからそこはしっかりと自重なさってくださいませ!よろしいですか?」


二人ともに"ギリギリギリ"という効果音が聞こえてきそうな様相をていしており、ラシュカールはその二人の圧にたじろぎながらも…しっかりと同意した。


(お二人が不本意なのはよぉくわかりましたが…いったい私をなんだと思っているのでしょうかね…?)と苦笑いしつつ、その様な経緯から突然自分におとずれたプレゼントタイムを、アリーシアと穏やかに過ごしていると…


ガゼボでお茶を飲んだアリーシアが、学園での事についてラシュカールに泣きそうな顔で礼を言った。


礼を言われた事よりも、アリーシアのその顔を見たラシュカールは勿論慌ててしまった。


「わたくし……強くなったと思っていたのです…。

信念を…己に恥じない心を持っていれば、顔を上げていられると…。


しかしあの時…他の方の目に、わたくしはその様に映っているのかと…人が大勢いる場所で、影響力のある方が喧伝けんでんされ…更に王子殿下もその事を止めずに静観されておいででしたから…。


わたくし何も言えず……公爵家の人間として毅然と対応すべきでしたのに!」


アリーシアの目縁まぶちにたまる涙の粒が大きくなり…目尻から溢れ、流れ落ちる瞬間…


ラシュカールがハンカチで優しく受け止めた。


ハッとするアリーシアの頬に、優しく優しくハンカチをあてるラシュカールは、アリーシアの膝の上で固く握りしめられた小さな手を、ゆっくりと解きほぐし…自分の手で包み込んだ…。



優しい風が流れ…近くの木からは小鳥の声がする…



自分の手に包まれた、アリーシアの手から力が抜けたのを感じたラシュカールは…その手をとり指を絡め、キュッと手を繋ぐ。


再度アリーシアの手に力が入ってしまうが、その事に頬を緩めながらも、気付かないふりをする。



水場の…小さな噴水から流れ落ちる水の音と、小鳥が飛び立つ羽音はおとを聞き、木の葉が揺れるのを感じながら…二人は無言で静けさを共有する。


ふと…ラシュカールが親指でアリーシアの手の甲をそっと撫でると、たまらずアリーシアが口を開く。


「ラ…ラシュカール様っ…あのっ…」


「私に手を握られるのは…お嫌…でしたか…?」


「いえっ…嫌ではありませんっ!あっ…いえ、そうではなくて…あのっ…」


「フフフッよかった…。では申し訳ないのですが、もう少しだけ…このままでいさせてください。」


ラシュカールは、頬を赤くして顔を伏せてしまったアリーシアを見つめながら…


「アリーシア様、私は…貴女の正しさも、またそうあるべきと努力をされている貴女も知っています。


したがって…たとえ悪意をもって貴女をおとしめようとする人間がいたとしても、貴女の美しさも貴女自身の価値でさえも決して揺らぐ事はありません。


貴女を知らない人間の評価に、貴女が悩み…心をいためる必要などどこにも無いのです!


アリーシア様…私の事が信用出来ませんか?」


「いいえっ!いいえっ…ラシュカール様の事は誰よりも信頼しておりますっ!いつだって優しく気にかけてくださいますし、困っている時はいつも助けていただいておりますものっ!」


「フフッ…信頼していただきありがとうございます。

私の様に…貴女を大切に想う人間は沢山います、その事を忘れないでください。


貴女が信念を貫き顔を上げていられるよう…私達も共に努力いたします。

そして、他人の為に強くなれる貴女も…自分の事に打たれ弱い貴女も、どちらの貴女もお守りします…。」



そう言って微笑むラシュカールの顔が、言葉が、あまりにも優しくて…胸に響いて…アリーシアは再び込み上げてくる涙を我慢するのであった……。











文中の『喧伝けんでん』は宣伝の誤字ではなく、

根も葉もない事をうるさく言いふらすという意味合いです。


ちなみに…ラシュカール!そこはハンカチでなく抱きしめろーっと思われた方は作者と同類です( ˙꒳˙ )ノ



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