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あリがとウ。

作者:

「また明日な」


そういって君は、僕の心の中で笑ったあと、振り返り歩いていった。



私は、粉々になっても、崩れても、きっと君を思い出すでしょう。


そして君は大きな大きなちからとなるでしょう。


────────────────────────────・・・




「柚子ちゃん、検査の時間ですよー」


「あ、はーい」


このやりとりが何度、繰り返されただろう。

そうして私は今日も、この狭苦しい病院で、病気と闘っている。

歳は18歳、高校3年生。一応高校にはいっていた。

途中でやめたけどね。


学校では、嫌な思い出ばかりだった。

ろくにいけもしない学校。それでも憧れていた学校生活。

同情の目。上辺だけの付き合い。それでも、それでも。

普通がどれほど羨ましかっただろう。

運動会も、体育祭も。当たり前のことが、当たり前ではない私は

みんなが嫌がることを一番にやりたがっている人間だった。


そして、恋だって。


年頃の女の子。端から見れば、なんてことのない普通の女の子。

そんな私だって、恋をした。


高2の春。初めて告白されて、嬉しい気持ちを胸に、首を縦に振った。

3ヶ月続いて、ある日勇気を振り絞って病気のことを打ち明けた。

笑って髪を撫でてくれますように、と。


でもそんなのは、淡いものだった。


「まじでいってんの?重いって。無理無理。お前とは別れるわ。」



ど う し て 私 は 。



病気のこと。親のこと。私のこと。

たくさん怨んだ。

周りの人間を妬んだ。

どうして私なの。私はどうして病気なの。


胸の中と外。二つの傷が疼いた。



それから、恋はしないって決めた。

私に恋はできないと。してはいけないんだと。


───────────────────────────・・・


そのあとすぐに、体調が悪くなって学校をやめた。

入退院の繰り返しが続き、息がつまるようだった。

入院が長引くと決まったとき、私は昔から

ちょこちょこと使っていたPCを手に、家をでた。


病院は大嫌い。でも、そんな環境でさえ慣れている自分がいた。


同じ毎日を繰り返す日々。

検査。検査。痛い。気持ち悪い。点滴。薬。検査。検査。

検査をしては、悪い結果がでて、内側から切り裂くような

胸の痛みに襲われ、薬を飲んで吐き気と頭痛を起こし、

栄養が取れず点滴。


こんなんで治るのか。


嫌なことばかりが頭を駆け巡った。


検査の合間にPCをつける。

楽しみはこれしかなかった。ほんの小さな暇潰し。

友達は増えていった。

いろんなサイトや、人とのつながり。

ネットには溢れるほどに人がいて、

寂しさを和らいでいた。



その中でも私は、どこかで知り合ったコンタクトの中で

仲良しな人がいた。

名前は敦士。私はあっくんと呼んでいた。

なんとなくいつも話していて、

チャットを飛ばしたり、通話をしたり。

気づけばいつも一緒だった。


ある日その人と話していると、新しい人が

会話に入ってきた。

三人で話すのも、たまにはいいなんて、思っていた。


なんでそんなことしたのか、よく分からないんだけど

そのときのノリなのか、あっくんと私は幼馴染とかいう設定だった。

ネットではネット上の兄弟などをよく作る傾向がある。

そんな感じであたしたちも「そうそうw幼馴染なのよーw」

なんて、嘘ついたりして。


正直、嬉しかった。繋がりが深くなった気がしたから。

それから小さい嘘を重ねて、いつも一緒にいる幼馴染。

昔から傍にいた幼馴染。仲良しな幼馴染。

そんな風に作り上げられた偽りの私たちがいた。

偽りだと分かれば分かるほど、本当の幼馴染がよかったと

思う気持ちが増していった。


─────────────────────────・・・


あっくんは、私より一つ年上。

普段は頼りないけど、心配してくれたり、褒めてくれたり。

肝心なとこでは前に出てくれたりなんかして。

なんだかんだでお兄ちゃん的な存在だった。

背中あわせだけど隣にいるよって、感じかな。


毎日が楽しくなっていった。

全てが頑張れる気がした。

私に笑顔を教えてくれた。


雨ばかり降っていた私の心が晴れていくようだった。

あっくんは太陽だった。


そんなあっくんにでも、秘密はあった。

それは病気のこと。

絶対に言わないって決めてた。

もう、離れてほしくないから。



────────────────────────────・・・


「なあ、柚子?」


「お、どしたー?」


「お前よくafkするじゃん、なんで?」※afk=退席


「いやww忙しいからさwwww」


「何やってんだよww」


「お菓子食べたりとか←」


「あほかよww退席しないで食えw」


「はー?いやだしww」


「お前こないだ咳してたけど、大丈夫か?風邪か?」


「あっくんにうつされたのよ・・・」


「おまwwふざけんなw」


「wwwwwwwww」


ふざけて返すのが、精一杯だった。

検査や点滴、嘔吐の間は返せないから。

だけど嘘をついてる自分が嫌だった。


───────────────────────・・・


よくなっていると思っていたのに、結果はまるで違った。

命が危ないことを知らされた。

頭に過ぎるのは、家族でも友達でもなく、あっくんだった。


私は気づいていた。

あっくんの気持ち。あっくんへの気持ち。

でも認めたらいけないと思っていた。

認めたら、離れてしまう。

今の距離が一番いいんだ、一番。


だめなんだ。

だめなんだ。


好きなんて思ったら。



だめ。




─────────────────────────・・・・・



どんどん痩せる一方だった。

歩くこともしんどくなってきていた。

ご飯も食べられない。

自分がボロボロになるのが分かった。

死が近づいてきてるのかと考えると

頭が痛かった。

死にたくない。生きていたい。元気になりたい。


そして、できれば。


一度でいいから、


たった一度でもいいから、


会いたい。



あっくん、会いたいよ。



────────────────────────・・・


私は唯一のリア友。莉奈にあっくんを紹介した。

莉奈もネットをやっているので、3人でチャットをしたりした。


莉奈はとってもかわいくて気が強い女の子。

だけど中身は繊細で、私をいつも心配してくれていた。

あたしは羨ましいと思っていた。


私は莉奈に、病気のことは言わないで。といって

今までのあっくんとの話をした。

「仲良しさんができてよかったじゃん!」と

いってくれた。

同時に、

「んで、どうするの?」

っていわれて、私はドキっとした。

「えっ?何が?」

っていったけど、なんとなく分かってたから。


「その人のこと、好きなんでしょう?気持ち伝えなくていいの?」

苦しくなった。本当のことを言われて逃げられなかった。

「私は、もうすぐ死ぬんだ。だから今いっても相手に悪いよ」

「馬鹿じゃないの柚子!死ぬなんてゆうなよ!」

「あっごめん。でも、考えるよ、そりゃあ・・」

「でも・・・言わないでよ・・寂しいからやめてよ・・頑張ろうよ・・」

「うん・・頑張るよ、あたし・・あっくんはきっとね。自分でいうのも

なんだけど、あたしのこと好きって思ってくれてると思うの。」

「うんうん」

「それで、きっとあっくんは病気のことをいっても、変わらずに

一緒にいてくれると思うの。」

「うんうん、それじゃあなんで」

「だけど、だからこそ、辛い思いはさせたくないんだ。本当は会いたいよ

好きだよ、大好き。だけどこれは秘密にしなきゃいけないんだ、したいんだ」


「そっか・・うん、分かった」


「うん、黙っててね、お願い」


「・・うん」


──────────────────────────・・・


私は、ネットをしなくなっていた。

というよりも、もうあんまりやる力がなかった。

画面を見るのも辛くて、マウスも動かせない。

キーボードを打つのも大変だった。


この間、お母さんが扉の外で泣いているのが聞こえた。

ああ、もうだめなんだ。って思った。

死ぬ前にあっくんに出会えてよかったと思った。

あんなにいい人にめぐり合えてよかったと思った。

気づいたら私は震える手でキーボードを叩いていた。


10/16「きれいごとだよね、だけ。ど、だけどさ、、あたし幸せだって

いえるんだ、やっと。やっとだよあっくん。

中学とか高校とか、そんなものよrりも貴方とであったこと

一番幸せだったっていえる、、んだ。、。

もう何打ってるかもmわかんんないやっ。、。

よく、見えなrいの、、画面が。。、m

だけど伝えておきたい。。っの。。

ごめんね黙ってty

・・・だけど好きでしt、た。

ずっとずっとおもってt。けど。、、

大好きでした。」


..






────────────────────────・・・



ど れ だ け 泣 い た だ ろ う。


泣 い て 泣 い て 泣 き 叫 ん で


疲 れ て 耳 が 痛 く て の ど が か れ て 


頭 が 痛 く て 泣 い て 泣 い て 


そ れ で も 貴 方 を 想 っ て 好 き で


ず っ と 考 え て い た く て 


眠 く て 眠 く て 周 り が 白 と 黒 で


た ぶ ん あ  た し 、 き っ と 、も う。 


瞳 を 閉 じ ち ゃ っ た み た い


あ っ く ん 。 あ っ く ん  。





────────────────────────────────・・




『子..柚子..!!!!!』


「・・・」


『柚子!!!!!目開けてくれ!!』


「あ...れ..っ・・・?」


「っ!柚子!!・・よかった」


「ん・・・痛ッ・・・誰・・?」


「柚子、ごめんねあたし・・」


「莉、奈?この人誰・・?」


「秘密守れなかった、柚子、ごめんね許してね、」


「え、?秘密・・?んん・・・あ・・ッ・・・・・うそ」


『そうだよ、柚子』


「あっくん・・?」


『おうっ』


「うそみたい・・・」


『なんでもっと早く言わないんだよ、水臭えんだよ馬鹿』


「だって・・ごめん・・」


『俺等は昔ッから一緒にいるんだろ、な』


「・・・うんっ」


涙があふれた。こんなにも嬉しい涙があるなんて。

私が知らないことをたくさん教えてくれる人だった。

あっくんは私の大好きな人。


「莉奈・・ありがと」


「うん、いいよっ」


「本当に嬉しい、ありがとお」


「そんなに言わないでっ恥ずかしいよ!」


「ごめんごめんっ・・」


『今日はもう遅いし、面会時間終わりらしいからさ、また明日の朝くるわ』


「あ、うんっありがと・・」


『いいよ、気にすんな。明日いっぱい話そうな』


「じゃあね、柚子!あたしもバイトが終わったらくるね!」


「うん!二人ともまたね」


『ゆっくり休めよ柚子』


「分かったっ」


────────────────────────・・・


何が起こったのか、わからなかった。

あっくんがまさかきてくれるなんて思ってなかった。

莉奈の行動にはすごくびっくりしたけど、本当に嬉しかった。


会えた・・・会うことはないだろうと思っていたはずの、会ったことのない

幼馴染という存在。


会えた。会えた。どう表現していいか分からないくらい嬉しい。


幸せな気分が胸いっぱいに広がった。


綺麗に整った顔。少し茶色い髪。すらっとした背。

画面の中にいたあっくんが目の前にいた。

まだ現実を受け入れられないほど驚いていた。

明日また会える。

次の私はちゃんと恋ができそうです。

今度は怖がらずに前を向いて

貴方を見てられるって思います。

なんちゃって。



眠い。きっと寝すぎて眠いんだな。

明日は朝からきてくれるだろうし、もう寝ちゃおう。

明日はちゃんと、お洒落しなくっちゃ。

そして笑顔であっくんを迎えられるように。



────────────────────────────・・・














おやすみ。







────・・・。





10/16.AM:02:21.香椎柚子 __死去..


よんでいただき、ありがとうございます。

柚子の強さ、あっくんの優しさ、莉奈の思いやり

全てがこの結果をうんだのかなと思います。

ただ、お気づきでしょうか?

実は、本当はあっくんとは会えなかったんです。

本当は会いたいと強く願う柚子が自分自身でみた幻?のような感じです。

現実はそんなにもうまくいかないものです。

ただ、神様はそんな人間達へ、些細なプレゼントをしてくれるものです。

それが今回の場合、柚子にみせた幻だった、という感じです。

あ、それから私事ですが、この作品を読むときに

「SNoW」っていう人の「逆さまの蝶」という曲きいてみてくださいww

私はこれを聞きながらこの作品書いたのでもしかしたら

同じ気持ちに・・・なあんてwww


あ、ちなみにですね

今作で10作品目を迎えます。本当に嬉しいです。

よんでくれている皆様、大好きです。

これからもよろしくお願いします。

   琴崎くるみ

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