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公爵令嬢は帰りたい ~頑張る女の子の進化無双~  作者: ひだまりのねこ
終章 公爵令嬢は夢想しながら無双する

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第23話 帝国の罠


「よろしかったのですか? 初めての辺境伯領、もう少しゆっくりされても良ろしかったのでは?」


「良いのですよ、ランス、今は一刻の時間が惜しいのです」


 辺境伯領を出発し、東の神聖セラン教国へ向かうリリアとランス。



 セランへは帝国領を突っ切った方が早いのだが、今回は帝国領を通らず迂回することに。


「……しかし、本当に速いですな……まるで空を飛んでいるようです」


 トライオンのシマの背には、リリアとランス、モフラ二号が乗り、白狼のシロの背にはクリスとピョンコが乗っている。


 通常であれば、1週間ほどかかる迂回ルートも、二頭のスピードなら一日もかからずに踏破してしまう。


 これだけのスピードでも振り落とされないのは、リリアはともかく、さすがはランスといったところだろう。

 

 

「ねえランス、今のうちに話しておくけれど、私が突然独り言を話し出しても気にしないでね。私の中にいるお友だちと話しているだけだから」


「はっ、かしこまりました」


 生粋の武人であるランスは余計なことは言わず、是と応える。そして心の中で涙を流すのだ。


 過酷な魔境での日々、想像もつかないほどの苦労があったに違いない。そんな環境で正気を保つために、リリアさまは内なる自分という疑似人格を生み出されたに違いない……と。実際にそのような例は過酷な戦地や遭難事例で報告されている。



 まだ日が高い時間にセラン教国に到着したリリアとランス。


「……本当に着いてしまいましたね」


 出発前、リリアに途中泊は必要ないと言われたものの半信半疑だったランス。最悪野営すればと考えていたのだが……まさか本当に到着するとは……。ランスは呆れるしかない。


 一番驚いたのは、地図も無いのに、迷わず到着したこと。


「一体どうやって道がわかるのでしょうね?」


 リリアなら地図を暗記していてもおかしくないが、初めて行く場所で迷いはあるはず。そもそも騎獣に指示を出している様子はなかった。


「魔法よ魔法」


「なるほど、さすがリリアさまです!」


 魔法を使えないランスは、魔法だと言われれば、そういうものかと納得してしまう。


「ランス、感激しているところ申し訳ないんですが、なんだか大騒ぎになっていますよ?」


 それはそうだろう。突然巨大な動物に乗った巨大な動物と、巨大な動物に乗った人間が現れたのだから。騒ぎにならない方がどうかしている。


「……ですな。ちょっと話を付けてまいります」


 ランスは何度もセランに訪れたことがあり、顔も名も知られている。ここは任せるのが最善だろう。問題はこの乗り物扱いなのだが。




「良かったですねランス、一時はどうなるかと思いましたが、無事教皇さまにお会い出来ることになりましたし」


「はあ……なんでももふもふは正義とかなんとか……」


 困惑しているランスだが、教国は知る人ぞ知るモフリストの聖地。最初こそ驚かれたが、巨獣たちが大人しいとわかるやいなや、神の使いだとか言い始めて、信者たちがモフり始める始末。



「お待たせしました。教皇様がお会いになられます」


 


「遠路はるばるご足労いたみいる。大陸にその名を轟かせる戦神ランス殿と大陸一の美女と謳われるリリア嬢。ようこそ我がセランへ。心より歓迎いたす」


 現教皇セーラはまだうら若い女性。



「ほほう……なるほど、こんなに可愛い婚約者が居ては、私に靡かなくとも理解が出来るというもの」


 どうやらセーラとイデアは学院時代の同級生らしい。


 まさか……その恨みで回答を保留にしていたとでもいうのか? 


「まあ昔のことだからな、今更蒸し返すつもりは無い」


 どうやら違ったようだ。



「教皇猊下、つきましては同盟の件……」


 ランスが本題へと踏み込む。



「おお、その件ならずいぶん前に快諾の旨、伝えたはずだが?」


「なんですって? こちらには届いておりませんが?」


「セーラさま、その連絡は誰が?」


 リリアは最初からわかっていたかのように、動揺することもなく穏やかに尋ねる。


「うーん、おそらく枢機卿の誰かだと思うが……」


 教皇の職務は多忙で多岐にわたるため、実務は枢機卿に丸投げ。仕事は枢機卿内で振り分けられるため、セーラにもわからないのだと言う。


「セーラさま、内密の話があるのですが」


 リリアが人払いを願い出る。


「構わん、近う寄れ」


 セーラに近づき耳打ちするリリア。


『枢機卿の中に帝国の内通者がいます。こちらで捕えた帝国の人間から得た情報ですので間違いないかと』


「何っ!? それは誠か?」


 驚くセーラ。


「とはいえ情報だけに頼るのも危険、裏を取るための策があります。枢機卿を集めてもらえますか?」




 その日、教皇庁は大変な騒ぎとなる。


 滅多に使われることのない真実の宮が使われることになったからだ。それはつまり……50年ぶりに異端審問会が開催されることを意味する。さらにその対象者が教皇に次ぐ地位、枢機卿だというのだから騒ぎにならないわけがない。


 すべてオープンにするという教皇の指示で、会場は押し掛けた観衆で埋め尽くされる。入れなかった人々は、悔しそうに外から成り行きを聞き逃すまいと聞き耳を立てている。



「貴様ら枢機卿の中に帝国と繋がっているものがいるという信憑性の高い情報が入った。よってこれより異端審問会を開催する!」


 異端審問は教皇の専売特許。枢機卿といえど拒否権はない。


「こ、これは一体どういうことですか? 何の証拠があって……」


 集められた枢機卿たちからは困惑の声が上がる。


「黙れ、身に覚えがないのならば平然としていればすむことだ」


 教皇に一喝されて黙る枢機卿。



「リリア、もふ神さまを召喚してくれ」


「かしこまりました。出でよ『シマ』」


 いかにも召喚めいたやりとりをしていたが、実際のところ、寝そべっていたシマが呼ばれて歩いてきただけだ。


 とはいえ、そんなことは思っても口には出せない。



「言っておくが、もふ神さまには嘘は通用しない。帝国と繋がっているものは、頭からバリバリと貪り喰われてしまうだろう。喰われたくなければ、素直に自首することをすすめる」


 そう言いながらもセーラはシマをモフる手を休めない。さすがはモフリストのトップ。堂々たるモフりざまだと、リリアは感心する。


 ここまで来ると、異端審問にかこつけて、モフりたかっただけではないかと疑わしくなるほどの。



「ひ……ひぃぃ……」


 一睨みすれば、人間など心臓が止まってしまうほどのシマだが、今はくつろぎモード。


 それでも全長10メートル以上の巨体。目の前に立たされた場合、まさに蛇ににらまれた蛙状態となる。


 何も後ろめたいものが無かったとしても、この圧倒的な恐怖に打ち勝つのは難しい。


 だが、正直者認定した枢機卿をシマがペロリと舐めると、恍惚の表情を浮かべ、観衆は羨ましそうなため息を漏らす。


 さすがは高位のモフリスト集団……なんか怖いっ!! 慄くリリア。



 一方で後ろめたい人間は……


「うわあああ!?」


 シマがある枢機卿の前で足を止めると、一気に丸のみにした。


 どうせ脅しに過ぎなと高をくくっていた心の防波堤が完全に決壊する。


 こうなれば現場は恐慌状態。後ろめたい人間なら、次は自分だと当然思うだろう。



「も、申し訳ございません」


「命だけは……」


 数名の枢機卿が自白する。


『リリア、これで全員だ』


 モフラには念のため全員のチェックを頼んである。


「シマ、ばっちいですからぺっなさい」


 リリアの指示で飲み込んだ枢機卿を吐き出すシマであった。 





「まさかこれほどの裏切り者が内部に……それも人民の模範たるべき高位聖職者が」


 セーラの怒りと失望は大きい。



「感謝するぞ、リリア、ランス殿。気付かぬままであれば、国を失う未来であったかもしれん」


 王国さえ潰せば、帝国にとって背後の憂いは無くなり、次の標的はロキかセランとなることは明白。セーラは背筋が寒くなる。


「いいえ、今は互いに助け合う時、ともに帝国を打倒しましょう!!」


 ぎゅっと手を握り合うリリアとセーラ。



『リリア、マズいぞ。帝国のやつら、この同盟を逆手にとって、罠をしかけてやがる』 


 自白した枢機卿の記憶を洗っていたモフラが、嫌な情報をリリアに告げる。


『どういうこと?』


『教国とロキからの手紙と偽って、帝国を攻めるという架空の計画をイデアに伝える。それを信じたイデアが帝国へ攻め込むが、待ち構えた帝国軍に……というシナリオだな。決行日まで決まっているぞ。今から……ちょうど三日後だな』


 モフラの報告に衝撃を受けるリリア。このままではイデアが危ない。


 だが、逆に言えば帝国はその日にロキとセランからは攻撃が無いことを知っているわけで、対王国に軍備を集中させる分、防備が手薄になっているということ。罠を逆手に取れば千載一遇のチャンスになる……そう瞬時に状況を分析するリリア。


 このタイミングでセランに来たことも、ぎりぎりではあったが、逆に最高のタイミングであったと、リリアはモフラと騎獣たちに感謝する。



「セーラさま、お願いがあります。プラトニアとロキは三日後、帝国に総攻撃を加えます。同時に参戦していただき、背後を突いていただけないでしょうか?」


「三日後……ぎりぎりじゃな。ふむ……わかった。ここまで虚仮にされたのじゃ、むしろ願ったり。参戦を約束しようではないか」


「ありがとうございます、セーラさま」


「それでなリリア、見事勝利の暁には、またその子たちをもふらせておくれ」


 これは勝利にかこつけてもふりたいだけなのでは……とリリアは思うが、聡明な彼女はそんなことはおくびにも出さない。


 

「では三日後に……勝利の宴で再会しましょう」

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