第14話 公爵令嬢 ペットを手に入れる
『おっ!! 魔境モグラじゃないか、リリアは本当にラッキーだな。おまけに魔境ミミズまでいるぞ』
茶色いかたまりは、大きな大きなモグラだった。夢中で食べていたのは……これまた巨大なミミズ。
「はうう……モグラさん……もふもふなのです……」
その愛らしい姿にリリアは瞳を輝かせる。
『リリア、捕まえるぞ』
「はい!!」
やる気満々のリリアは、食事中の魔境モグラを、問答無用で糸でぐるぐる巻きにする。
ついでに魔境ミミズも。
糸のおかげで直接触らなくてもよくなったのは、リリアにとって大変に助かることである。
「……困りました。大きすぎて運べません」
しかし、魔境モグラは3メートルもある。魔境ミミズだって2メートル近くあるのだ。
魔境コウモリも運ばなければならないので、どう考えても無理がある。
『運ぶ必要なんてない、この場で焼いて喰えば良いじゃないか』
「え……食べるんですか? モグラさんを?」
『当たり前だろう? 魔境モグラを喰えば、腕力増大、立体的な嗅覚センサーまで手に入るんだ』
トンネルを掘り進む強力な前腕、そして真っ暗な地中でエサを見つけることが出来るのは、その優れた嗅覚にある。
手に入れることが出来れば、リリアにとって大きな武器となるのは間違いない。
「嫌です!!」
『……は!?』
「モグラさんは食べません。こんなもふもふなんですよ? い、や、で、す!!」
モグラをギュッと抱きしめて断固拒否の姿勢を明確にするリリア。
『……いや、喰わないのかよ!? どうするんだ魔境モグラ、すごい珍しいんだぞ?』
「……飼います!」
『か、飼う? コイツら見た目はこんなだが、凶暴なんだぞ?』
とんでもないことを言い出したリリアに困惑するモフラ。
「大丈夫ですよ。モフラなら何とかなりますよね?」
リリアはキラキラと期待に満ちた言葉を投げかける。
『な……なんだその意味不明の信頼は? ま、まあ……何とかなるけどな……』
なんだかんだ言っても、モフラはリリアには甘い。
『キュウ!!』
かわいい鳴き声を上げてリリアに擦り寄ってくる魔境モグラ。
「きゃあ~かわいい~!! すごいです! さすがモフラですね!」
大喜びのリリアは、ここぞとばかりにモフラを褒めたたえる。
『まあな、その魔境モグラには私の分体が入っているから、簡単な会話や意思の疎通は出来るぞ』
リリアに持ち上げられてモフラは少し得意げに説明する。
「本当ですか? ふふっ、モフラ二号、私の言うことがわかるの?」
『アイッ』
シュタッと手を挙げる魔境モグラ。
「いやあああ!! 良い子ですね、モフラ二号、もふってもいいですか?」
『アイッ』
リリアは白いお腹に顔を埋めて、モフラ二号をもふり始める。
『ち、ちょっと待て、なんだそのモフラ二号というのは?』
「この子の名前です」
答えながらもリリアはもふる手を休めることはない。
『いやおかしいだろう? なんで私がその毛むくじゃらと同じ名前なんだ!!』
「ん~? だってモフラのぶんたい? とかいうのが入っているのでしょう? それにほら、モグラのモフラって可笑しいじゃないですか」
クスクス笑い始めるリリア。
『…………せやな』
モフラは諦めの境地にたどり着く。こうなった時の彼女の頑固さはよ~く理解している。
そもそも名前なんて何でもいいと言ったのはモフラ自身でもあるし、あまり深入りしない方が傷は浅いと判断する。
『まあいい、二号も荷物持ちや偵察要員くらいには使えるだろう。だが、魔境モグラの能力は獲得しておいた方が良い。痛覚を遮断しておくから、二号の一部を焼いて喰え。その後で回復させれば元通りだし問題ないだろう?』
あくまで魔境モグラを喰えと譲らないモフラ。
冷酷なわけではなく、そもそも身体を持たない存在であるので、こだわりが薄いだけ。
「えええ……」
『モキュッ!?』
青ざめるリリアとモフラ二号。
『リリアは一日も早く帰りたいんだろう?』
渋っていたリリアだが、モフラの言う通り、強くならなければ、生き残れなければいつまでも帰れないのだ。痛くないということだし、たしかに回復させれば元通りではある。
「ごめんなさいモフラ二号……」
『アイッ!!』
気にするなと元気よく手を上げるモフラ二号。その健気さにリリアは涙を流す。
ジュ~ッ!!
考えてみれば久しぶりの獣肉。虫や植物ばかり食べてきたリリアにとっては立派なごちそうに見える。
モフラ二号の反応を見るに、本当に痛く無い様だが、ペットを食べているようで心が痛む。
ちなみにモグラの肉は臭いというので、バニラ味に変えてある。
肉の味だと生々しいのでスイーツ感覚で罪悪感を誤魔化すことにしたのだ。
「おいひい、おいひいでふ……」
泣きながら二号肉を食べ終えたリリアに、モフラが無慈悲な追い打ちをかける。
『さあ次は魔境ミミズを喰え』
蜘蛛やダンゴムシを食べている時点で今更ではあるが、嫌なものは嫌なのだ。
リリアは頭の中にいるであろうモフラを想像の中でにらみつけながら、
「ソーセージ味でお願いしますね」
としっかり注文することを忘れない。
せっかく口の中がさっぱりしたのにとぶつぶつ言いながら。
『晩御飯は魔境コウモリだな』
リリアが魔境ミミズを食べ終えると、そんなことを言いだすモフラ。
「……今さっき食べたばかりではありませんか」
モグラとミミズを食べてリリアはお腹が一杯だ。
『そこはほら運動の出番だろ? 筋肉増強するぞ、ほら早く脱げ』
「嫌あああああああ」
泣きながら服を脱ぐリリア。
おかしい……食事とは楽しいものではなかったのか? お腹が空いたから食べるはずなのに、食べるために運動している。
必死で力ダケを食べて、もう筋肉増強しなくて済むと思っていたのに……。
全裸で激しいダンスを踊りながら、絶対に帰ってやるとあらためて決意する。
「痛だあああああああ!!!」
モフラ二号に乗ろうとした瞬間、副作用が襲ってきてリリアは悲鳴を上げる。
何度味わっても副作用の痛みには慣れない。悲鳴を上げながら治癒魔法を発動。
本人に自覚はないが、リリアの治癒魔法は、もはやエキスパートの域に達している。
「……早く帰りたいです」
拠点へ戻る間、リリアはそう心からそう思うのであった。
◇◇◇
夕食は魔境コウモリ。
先程あれほど食べたのにお腹が空いてしまう自分の身体が悔しい。
とはいえ、命をいただくのであるのだから、美味しく食べなければという思いもあって、リリアの心境は複雑だ。
『何味にするんだ?』
手慣れた様子でたずねてくるモフラ。もはや専属シェフのような存在感。
「……そうですね、お芋味が良いです」
リリアにとってお芋味、王国特産のプラ芋は祖国の味であり、家庭の味でもある。
「ぐすん……お父さま……お母さま」
コウモリを食べながら突然泣き出したリリアに、モフラは激しく動揺する。
考えてみれば、強く聡明なリリアであるが、まだ16歳の少女ともいえる年齢だ。
こんな人外魔境にひとりきり、淋しくないわけがない。
『……あのさ、リリア、この分ならきっとすぐ帰れる、だから……あと少しの辛抱だぞ』
「……あら、モフラが優しいなんて明日は雨が降るかもしれませんね?」
『はああ!? や、優しくなんて無いわ!! 事実を言ったまでだ』
泣いていたリリアも今はコロコロ笑っている。
「今夜はモフラ二号のベッドで寝るのよ」
リリアはびろーんと寝そべるモフラ二号をベッドにするつもりらしい。
ここ魔境では、公爵令嬢ではなく、ただのリリアという女の子。
今日も魔境の一日が終わる。




