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異世界の歪曲者たち  作者: こへへい
episode of dinex
18/28

だからまずは、今を生きよう

 閉ざされた世界にいた。

 暗くて何も見えない。何で閉ざされているんだろう。何が私を閉じ込めているんだろう。またいつかの人間が私を捕まえて、檻にでも閉じ込めているんじゃないかって思ったけれど、直感がそれを否定させた。


 私自身が閉じこもっている。


 私自身が閉じこもっているんなら、それを助け出してくれる人なんていやしないか。以前は私がかわいそうだったから、閉じ込められている私を助けてくれたけれど、私が勝手に閉じこもっているんだから、そんなのに構ってくれるほど、世の中の人は優しくないだろう。


 家族でもない限りそれはないし、私は赤子の頃に家族に捨てられたんだから。そして新しく拾われた家族を置いて死んじゃったんだから。ましてや友達を守ることができなかった、情けない、力不足な私なんて。


 なら、もう少し閉じこもって居よう。


 体育座りで体をぎゅっと丸めて目を閉じる。しばらくは、このままでいよう。外の世界は怖いから。



「おい、何引きこもっとんじゃ」



 誰かが、ずかずかと私の世界に入り込む。誰だろう。私のことを気にかけてくれる人なんているわけないのに。私が頑張ったところで、結局森の友達を守ることができなかった。そんな情けない私を気にかけてくれる人なんて、いるわけないのに。


 声の主を見やると、突然光が射し込んだ。暖かい。懐かしい。ずっとここにいたい。この光を浴びながら眠りにつきたいと思えるような、そんな気持ちにさせてくれる光だった。


 確かに私の言っていることは正しかった。私を気にかけてくれる人なんていやしない。だからって、あの声が幻聴だったかというとそれも違う。


 その声の主は、人ではなかったのだから。

 けど、家族だったのだから。


 その主は四足歩行で、ボロボロの見慣れた雑種犬で、とぼとぼと、しかしずかずかと私の心の中に入り込んできた。



「ペロ?」



「よぉ優、いつまでいじけてんじゃ、はよ帰るぞ」


 そこで、呆気に取られた。


「...ペロって、そんな感じで喋ってたの?」



「なんやその顔は、わしゃいつでもこんな感じじゃ」


 動物と話せるようになったのは、死んでこの世界に来てからの話だから、ペロがこのように喋っているなんて知らなかった。驚いて変な顔になっていたかもしれない。


 餌を出してもいっつ食べなくて、餌の場所がわからないのかと思い「ほら、ここにあるだろ」と餌に指をさしてやったら、その指をガブリと噛みついてくるくらいの、そんな性格の犬だった。喋ってもそのまんまだな。あの時はどんな気持ちだったのだろうか。今なら聞けるかもしれない。


「ねぇ、私の指噛んだ時、ほら、私が小学生の時の話。あの時なんで私の指噛んだの?」


「あ?そっちのほうが旨そうやったからなぁ、あのボリボリするやつ確かにうまいけど、触感が一定でつまらんねんなぁ」


 話すと改めてわかる。ペロはやはりグルメだったのか。


「でも隆二のやつバカの一つ覚えであればっかりよこすもんやからなぁ、ストレスたまるわほんまに、でもたまに優が冷蔵庫からくすねてくれた肉はほんま旨かったで」


 知らなかった本音を聞いて、つい私は笑みがこぼれる。いつもとは違う、いやそうじゃない。見ていた真実は実は真実じゃなくて、こうやって話してみると、また違った真実が見えるんだな。その面白さに、つい噴き出してしまったのだ。


「父さんもペロと話せたら、きっともっとましなごはん出してくれたと思うよ」


「どうだかなぁ、あいつも年やから、わしの飯=ドッグフードの中身としか思ってなかったし、砂入ってても差し出すぞあいつ」


 意外と、どころか恐ろしく信用がなかった。これは父さんに話せない。まぁ私はもう死んでいるのだから、話すことなんてできないんだけど。


「君はやっぱり、ペロなんだね」


「わしゃそんなだっさい名前嫌いやけどな」


 むずっとするペロ。そういうところがかわいいんだが、心中を聞くとそうでもないな。この世界にやってきて動物と話す機会は多かったから動物の感情についてある程度知っているつもりではいた。しかしここまで可愛げがない生き物はいなかった。


 名付けられた名前が嫌いで、その父さんから与えられたごはんも嫌い。ペロってそんな性格だったんだなって、少し落胆してしまう。


「水戸黄門が良かった」


 がっつり父さんの趣味にあてられていた。そういえば一緒に見ていたっけ。でも助さん格さんじゃなくて水戸黄門なのか。名前の雰囲気が好き、なのかな?


「優はわしが可愛いって思ってたかもしれんがのぉ、こうして喋ってみると、そうでもないじゃろ」


「え、ああ、そうだね」


 本人、もとい本犬からその話を切り出されては、否定もしがたい。


「動物が実は性格が悪いように、人間でも実はいいやつってのがおんねん。あいつらがそうやった」


「あいつら?」


「隆二と一緒に森を守ってくれた人間や」


 森を守った人間。その言葉を聞いて次の言葉が出てこない。そんな人間が、本当にいるっていうのか?


「優が死んでから、隆二が森を売ることを考え直してのぉ、どうやったら守れるのかって色々考えて、周囲の人間を頼って、そんで周りの味方を増やしてなぁ。そんであの偉そうな人間を追っ払ってたわい」


 署名運動ってのもしてたわい。と付け加えた。

 偉そうな人間というのは、森を買い取ってゴルフ場にしようとしていた人間の話をしているのだろう。

 人間が、森を守った?そりゃそんな人間もいるだろう。とは思うのだが、それはサツキが言っていた内容と似ている。サツキめ、私の家族がこの世界にいるって分かった途端、自分で説得することができないからって、ペロを差し向けたのだ。


 家族からの言葉だから無碍にはできない。そこを突こうとしているのだ。騙しているのだ。ペロに言ってあげないと。


「それって、サツキがそういってたってだけじゃないの?多分それ嘘なんじゃないかな?」


「いや、わしが見たことをわしの口で喋っとるだけや」


「え、」


「なんじゃ?わしが嘘ついてるって思ったんか?何のために嘘つくねん、お前に嘘ついてもドッグフードお椀一杯分にもならんわ」


 そうだったのか。ということはサツキは本当のことを言っていたことになる。そこに付け入ってあの王様が私に襲ってきたのか。だとしたら悪いことしちゃったかな。


「それにあの隆二がお前が死んでも守りたかったモノを、守らんわけないやろが。お前拾ってわざわざそこまで育てた奴やぞ?」


「へへ、だよね」


 父のことを思い出して、つい笑ってしまった。そうだよね。やっぱり父さんだなぁ。


 すると、しょっぱい水が口角に入り込んだ。そして喉が痙攣し、呼吸が荒くなる。まるで私の誕生日に、父さんがお酒を飲んでしゃっくりしているみたいだ。目を手で拭うと、目尻が腫れてかゆかった。


「なんで、私、死んじゃったん、だろ...」


 泣き乱れる私に、ペロは自分の身を刷り寄せて言う。


「知るかいな、生きてる意味も分からんのに死んだ意味なんて分かるはずないやろ」


 だからまずは、今を生きよう。


 死んでしまっているけれど、私は確かにここにいる。そのことに気づけた。ペロのお陰で気づくことができた。だから安心してその言葉を信用できる。


 さて目を覚ましたら何をしたものか。そう考えたところで、一つ真っ先に思いついた。


「あ、だったらサツキに謝らないと、私信用できずにひどいことしちゃった」


「大丈夫やって、この世界の人間やったら許してくれるやろ、なんならわしが一緒に頭さげたるわ」


 仏頂面でガフっと息を漏らすペロ。動物に笑顔がないと聞いたことはがあるけれど、今のペロの顔は、犬の世界ではきっと笑顔なんだろうな。


 その気遣いに、ふふっと息を漏らした。


「ありがと、じゃ、そろそろ出ないとだね」


 心の扉を開けて、私は外の世界を見ようと思う。

 誰にも開けられなかった重い思いの扉は、今、開かれる。


 ────────────────────────────────────────


「あれ、ここは」


 知らない天井。それにこの世界に来て感じたことのない、ふっくらとした毛布の感触。私は、寝ていたのか。ベッド?病院?もしかして今までのは全部夢で、元の世界に戻ってきたというのか?


 首を右に傾けると、そこには、サツキの姿があった。どうやら元の世界というわけではないらしい。だがそれ以前に、サツキの体が全身包帯でぐるぐる巻きになっているのは一体どういうことだろうか?


「おはよう、緑山優ちゃん」


 懐かしいフルネーム。最近では飼育員ちゃんと呼ばれるほうが多かったので、つい反応に遅れが生じる。その声の主に振り向くと、優し気なナース服の女の人が、傍らに立っていた。


「私は九条カナメと申します。ディネクス医院の院長です。それと、王の使命を共に担う者です。カゲローと同じと思ってもらって構いません」


 上品な口調で、サラサラとした長い黒髪の付いた頭をおろす。ぴょこんとナースキャップから生えているのは、触覚だろうか?それにこの姿は、同じメスであってもついつい魅了されてしまうほどの上品ないでたちだった。


 だが、カゲローと同じ。その言葉に、私の野生の第六感が働いた。だが逃げようにも体が動かない。ただベッドの上でガタンと音をならすことしかできない。


「まだ大熊との同化の名残があるのでしょう、じっとしていないとダメですよ」


 心配されてしまった。私は諦めてベッドに再度体を預ける。


「それに貴女の記憶が残っている。この意味は、記憶を取り戻した貴女ならわかるでしょう?」


 そうだ。私が寝たきり状態なら、あの王様は再び容易に記憶を奪うことができただろう。だが私はちゃんと私という存在を知っている。それは、あの王様が記憶を奪わなかったということだ。


「けど、なんで」


「貴女が大熊との同化を解除してから、色々あったようです。少し長いですよ」


 彼女は語る。私が意識を失ってからの話を。


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