思い出の場所
あれは忘れもしない真夏の夜の出来事。お盆休みで故郷に帰省していた時の事だ。 私は不思議な少女と出逢った。その時の話しをしようと思う。
私の実家はのどかな田園風景が広がるところにある。
もう陽がしずんだと言うのに、まだまだ蒸し暑い。汗が細かい水玉の様に顔の表面に浮かんで来る。持っているタオルで何度も拭いてはしたたりを繰り返していた。
田んぼ道を歩きながら懐かしさに思いを馳せていると、やがて林の入口までやって来た。くねくね曲がった細い道を何も考えずに歩いていると、出口からまばゆい光が目に入って来た。その先は草が生い茂っていて、奥から水のせせらぎの音が聞こえて来た。川が流れている。小さい頃に見た時は大きくみえたが、今はそれ程でも無い。その上に木製の橋が架かっている。いつもここで遊んでいた記憶がよみがえる。物思いにふけてると、視線を感じた。その先に女の子がこちらをじっと見つめる姿があった。あれ?いつから居たんだろうかと疑問に思っていると「あのーあなたここで自殺しようと思ってるでしょ!」私はドキッとした。何故分かるの?
「顔を見れば分かるよ」
彼女は見るからにまだ小学生くらいだ。
そんな彼女に心を見透かされた気持ちだ。実は彼女の言う通り私はここで命を絶とうと思いやって来た。理由は特に無い。強いて言うとこの世に嫌気がさした。三十路を過ぎ仕事は上手く行かず恋愛に関しては数年付きあった恋人に捨てられた。このまま生きていてもしんどいだけだと将来を憂いていた。
「どうしてそんな場所に居るの?もう暗いから早く帰った方がいいよ」
私は続け様に言葉を放った。
「ふふっ思ったより元気そうじゃん!
」彼女は笑みをうかべながら言った。
「ねぇあなたのお名前は?」
「そんなの聞いてどうするの」
「せっかく知り合いになったから聞いておきたくて」
私の質問に戸惑いながらも彼女は
「しずく…福原しずく」
「しずくちゃん。かわいい名前ね」
私の言葉に少し照れた様子。
「あなたのお名前は?」
「私は吉住幸」
「なんて字書くの?」
「幸せって字を書くの」
私達はお互いを自己紹介したりいろんな話しをした。気が付けばさっきまで感じていた絶望感は空に吹っ飛んでいった。
「ありがとう。あなたのお陰で生きる勇気がわいてきた」
私は彼女にお礼を言った。彼女は頷いて家に帰るねと言い去っていった。
私は彼女の後ろ姿を見送りながらまた会える様に祈った。






