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ベッドが一つしかなければ、男性が床で寝るのは当然

坂出は1人軽傷だった女性に案内され、街に降りた。

女性は【リリィ・シュバント・マフタ】と名乗った。

この街の領主の娘で、魔法の才能に目覚め、力試しのためにパーティを組んだとの事だった。

幼馴染の戦士志望の男性を2人、友人で僧侶の女性を1人、そして賢者の男性を1人誘い、ギルドに登録したとのことだ。

坂出はあんなことがあったというのに、よく話す人だと思ったが、それは恐怖を紛らわせるためだと思うことにした。

坂出が抱える亡骸は、戦士志望の男性2人。

僧侶の女性は坂出におぶさりながら眠っている。

賢者の男性は、すでに原型を留めていなかったため、穴を出てすぐの所に体をかき集めて埋めた。


しばらく進み、やっとリリィは坂出に名前を尋ねた。

坂出はしばし悩んだ。

この世界に転生というシステムが根付いていれば、本名を言った方が良い。

しかし、そういったシステムが無い。

あるいは一般に浸透していない場合はもちろん偽名を使った方が良い。

(名前があれば楽なんだが… そもそも、私は突然発生的な存在なのか… それともだれか、そもそもこの世界に存在する人間を乗っ取っているのか… どういう存在なのだろう… マニュアルやチュートリアルはないのか… この世界には)

「どうしたんですか? お名前を伺っただけなのですが…」リリィは不安そうな表情を浮かべる。

「ああ、すみません。 えーっと。 名乗るほどのものじゃありませんよ」

「…? お名前教えてくださらないのですか? それじゃあ、お礼のしようが…」

「うーん。 そうですね。 通りすがりの戦士ということで… 勘弁してもらえませんか?」

「戦士様ですか… もしかしたら高貴な身分の方ですか? それで、正体を明かせないとか…」

「…そういうことにしておいてもらえますか?」

「分かりました。 それにしても、ゴブリンをあんなにあっさり倒してしまうなんて… お強いんですね。 単体ではそこまで強くないですが、徒党を組めば結構厄介なモンスターです。 そのせいで…私の仲間も…」

「…大変でしたね」坂出は眉をしかめながら、応対する。

「あ、見えました。 街です」

(RPGによくありがちな、街だな。 レンガ造りの家が並び、中心に…教会かな。 それと大きな屋敷が4件ほど。 後は大きい建物が4、5件… お店、役場、ギルドといったところか… 目を凝らせば看板も見えるな)

「それでは、まずは亡骸を教会に引き取ってもらいましょう」

リリィは坂出を教会に案内する。

すでに周囲は真っ暗であるが、教会には煌々と明かりが灯っている。

リリィが扉を叩くと、中から神父が出てくる。神父は怪訝な表情を浮かべながらも亡骸を引き取り棺桶にそっと入れた。そして、リリィの労をねぎらい、憐みの言葉をかけた。

神父が坂出を品定めするようにじろじろと見ていると、リリィは大丈夫だと神父を制した。


身軽になった坂出は、傷を負った女性を連れて病院へ行く。

リリィはお礼と言って、坂出を屋敷に招待した。大きな屋敷の一つがリリィの家であった。

リリィは帰るなり、多くの人に出迎えられた。

ことの顛末をリリィが話すと、屋敷の人間は大いにリリィを憐み、そして、坂出にお礼を述べた。殊、リリィの父親は丁重に坂出に礼を述べて、もてなしをした。

坂出は言葉に甘え、食事を取り、大浴場で血と死臭を洗い流し、用意されたベッドに横たわった。


ードアを叩く音が聞こえる。

坂出は、身構えながらドアの前に行き、ゆっくりと開く。

ドアの前にはナイトウェアと思われる衣服に着替えたリリィが立っていた。

坂出はリリィの要望に応え部屋に招き入れた。

距離をとって、座ると、リリィは丁寧にお礼を述べた。

「本当にありがとうございます。 おかげで助かりました…」

「いや… 怒りに任せて力をふるっただけだ… 大したことはしていない…」

「あの… ごめんなさい… 本当はもう休みたいと思うのですが、どうしてもお礼が言いたくて」

「いえいえ、構いませんよ。 私もあなたに聞きたいことが3つほど…」

「3つもですか? なんでしょう?」

「…なぜこんなことをしたんですか?」

「はい? なんのことでしょう?」笑顔を作っているがリリィの表情は数ミリ単位で震えている。

「不審な点が多すぎます。 なぜあなただけ軽傷で済んでいるんですか? なぜあなたはゴブリンの強さを知っておきながら、むざむざと討伐に向かったんですか? なぜあなたは最初に病院ではなく教会に案内したのですか? そして、なぜ…今そんな殺気を放っているんですか?」

「聡いですね…」

「三文芝居が過ぎますよ… まあ、バレたところで問題ない…という自身の表れとも考えられますが…」

「…そうね。 私はこの後、あなたに攻撃を仕掛けるわ。 口封じのためにね」

「奇襲をしないのはなぜですか?」

「まだ、残りの話を聞いてないもの」

「以外に律儀なんですね。 じゃあ、話をあと1000個ほど追加しましょうか?」

「余裕ね。 まあ、あれだけの力があれば当然ね… けど、さすがにそこまで待つ気はないわ」

リリィは右手に魔力を集中させ始める。

「さあ、魔力を貯め始めるわよ。 話が長引けば長引くほど、威力があがるわよ」

「すごいですね。 それならゴブリンぐらい簡単に殲滅できたでしょうね」

「もちろんよ。 だって、私強いから」

「全部は仕込みだったんですね… 大方、女性は恋敵… 男性2人はそれに巻き込まれた… 賢者の男性は…」

「師匠よ。 元ね。 もっとも3日ほどで、超えちゃったけどね。 男性2人はあれよ。 初恋の人と親が決めた婚約者よ。 2人ともせっかく私が妥協してあげるって言ってあげたのに… あのくそ女…ああいや… くそ女性の方になびくんだもの… だから、あえてゴブリンなんていうザコモンスターを使って屈辱を与えてやったのよ。 爽快だったわぁ。 アイツら、普段自信満々のくせに、ゴブリンになぶられながら、泣いてるのよ。 それで、助けてくれぇって、私を頼ってくるんだから… まあ、助けるわけないわね。 むしろデバフをかけてやったわ。 女性の方もあの後、薄汚いゴブリンどもに凌辱させる予定だったのに… あなたが邪魔をするから」

「それで… 私も倒そうと」

「そういうこと… 邪魔をする奴は許さないわ」

「まあ、それはさておいて、2つ目の質問良いですか?」

「ああ… そうだったわね。 でも何かしら? もう大体言ったと思うけど」

「話は変わるんですが、ギルドに登録する方法を教えてくれませんか?」

「…それ。 聞いてどうするの?」リリィは右手の魔力をさらに貯め、巨大な炎の塊を作り出す。

「明日行ってみます。 あと、できればこの街の施設も案内してくれませんか?」

「…何、なめてるの?」

「確かにその綺麗な足はちょっと、舐めてみたいと思います」

「へ…ヘンタイ」リリィは坂出に向かって炎を投げつけた。

無論、坂出は初めて炎を投げつけられる。

魔法についてなんら知識も持たない。

しかし、不思議とこれを受けても問題ないという確信があった。

念のため、腕で薙ぎ払うしぐさをすると、炎はその風によってかき消された。

「え… 嘘でしょ… 上級魔法を簡単にっっ」

「これが魔法ですか… 良ければ今度教えてください」

「う、うるさい」リリィは氷、雷と次々と魔法を放つ。

坂出には何一つ届かない。

「たとえ女性であっても、女性に危害を加えるのは見過ごせません。 いかせてもらいますよ」

リリィは両手に魔力を貯めて坂出に放つ。

坂出はそれを引き裂きながら、リリィの目の前到達し、正拳を放つ。

その風圧で、リリィの衣服ははじけ飛んだ。

リリィは目を見開き、坂出の姿を見つめる。

「何で… とどめをささない… 私はお前を屠る気で向かったんだぞ」

坂出は、ベッドのシーツを引き抜き、リリィにそっとかけた。

「確信しました… やり方は間違っていましたけど… あなたは… 優しい」

「な…何を根拠にっっ」

「先ほどは、あなたの本質をもっと知りたくて… 失礼な物言いをしました。 どうか許してください… あなたが優しいという根拠は3つ」

「また、それか…」

「1つあなたはいつでも私を攻撃することができたのに、それはしなかった。わざわざ堂々と対峙しました。 次にこの部屋… あれだけの魔法が繰り出されたにも関わらず壊れていた。おそらく室内から魔法が出ないように結界を張っていますね。 他の人に危害が及ばない配慮でしょう。 最後に、あの女性に回復魔法をかけていましたね… 病院を後回しにしたのは… もう大丈夫だと分かっていたから… 違いますか?」

「…そこまで… 分かってたの?」

「まあ、半分は勘ですけどね。 おそらく… まあこれは私の考察というか妄想ですが… あの女性、多分パーティの男性たちと関係を持っていて… あなたはそれを助けた… そうじゃないですか?」

「…なによそれ。 そんなわけないでしょ。 さっきも言ったでしょ。 私は…」

坂出は虚勢を張るリリィの目からこぼれる涙をそっと人差し指で受け止める。

「その反応で確信しました。 そうなんですね?そうすると神父さんの反応も辻褄が合います」

「あなた… いったい何者なの?」

「ただのフェミニストです」

「何それ? へんな名前ね」リリィはベッドに腰を掛けて、ぶらぶらと足を揺らす。

この時リリィは、自分の鼓動が自分史上最速最強に脈打つのを感じていた。

(…ヤバい。 この人…私…この人…好きかも)リリィは全てを打ち明けようと決心した。

「私の完敗よ。 もうね。 全部その通り… 私はこの大陸でも有名な魔女なの。 リリィは偽名。 姿かたちを変えて、この屋敷の人に魔法をかけて無理やり入り込んだのよ。 それが5年前。 その時、あの子… ネルって言うんだけど… その子に会ってさ友達になったんだけど。 あの男たちに…ひどいことされてて、だから、そこから助けたくて… 魔法であの男たちをどうこうするのは簡単だった… けど、それじゃあ、あの子はまたどうせ変な男に引っかかっちゃう」

「それで、恐ろしい目にあわせようと…」

「もちろん。 直前で助けるつもりだったのよ… まあ、今更だけど」

「じゃあ、私は邪魔をしてしまったかな?」

「…いいえ。 …ありがとう助けてくれて」

坂出はベッドに腰掛ける。

「…明日は、街を案内してくれますか?」

「え… 何を言ってるの? 私は…人の命を奪ったし、友人を罠にかけたのよ」

「あと、私を攻撃しました」

「そ、そうね」

坂出はリリィの額にちょんと指を乗せる。

「これで、私はおあいこで。 あと、死んだ男性たちと、傷ついたネルさんに対してはしかるべき謝罪をすればよいのでは、と思います。 まあ、そこは私がどうこう言うことではないので」

リリィは自分の瞳孔が楕円ではなく、ハートになっているように感じた。

「しゅき…」

「手記?」

リリィは坂出に抱き着いた。

「しゅきいいい。 私、あなたの事が好きみたい。 こんな気持ち… 初めて」

「…えーっと。 とりあえず… 服を着てきてもらえませんか?」

「いいじゃん。 どうせこの後脱ぐし」

「どういうことですか? 服を着て寝てくださいよ」

「…なんで、こういう察しは悪いのよぉ」

リリィは坂出の耳元で囁く「だいてほしいのよ? わかるでしょ?」

坂出は赤面した。

「ちょっと、さっきまでの冷静な感じはどうしたのよ」

「そ、そちらこそ… 口調が安定してませんよ。 どれがホントですか」

「これが、ホントよ。 私、あなたとしたいの」

「そ、そういうのは… もうちょっと、お互いを知ってからの方が…」

坂出はリリィの体を引き離そうとする。

「いや。 やるの。 やるわよ。 もうね… びしょびしょだから… そうだ。 足、足舐めさせてあげるからぁ」

「…その。 いや」

「なぁに… 初めてするわけでもないんでしょ? そんだけかっこいいんだしさ…」

「…」坂出は沈黙した。

「え? マジで… したことないの?」

坂出はコクリと頷いた。

その反応で、リリィはさらに燃え上がった。

リリィは勢いよく坂出を押し倒した。

「よっし、あなたの初めてもらってあげる。 さあ、さあ。 出して出してぇ」

「止めてください。 そういうのはきちんと段階を踏んでからです。 もっと自分を大事にしてください」

「…それって、付き合ってくれるってこと? それとも結婚してくれるってこと?」

「え…この世界ではそういう解釈になるんですか?」

「…………そう!」

「じゃあ…友達からで」

「分かった。 明日街を案内してあげるね」

坂出はリリィをベッドに寝かしつけて、自分は床に寝ることにした。

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