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【女】と言うことなかれ

飲み会の席で、若い社員に囲まれながら焼酎をすする男性がいる。

名は坂出幸太郎サカイデ コウタロウ

今年で36歳になるメガネが似合うナイスガイな童貞である。

会社では営業課の係長として、上司からも部下からも信頼されている。


最近流行のアニメの話で盛り上がる。

坂出もうんうんと頷きながら話を合わせる。

坂出がアニメや漫画に詳しいということは課内でも有名である。

しかし、調子に乗った部下の一人が、坂出に対して、#ダークファンタジー #異世界転生 ものの作品名をお勧めしたとき、普段は温厚な坂出が目を見開き、その部下をにらみつけた。

「…私は、そういった類の作品は観ません」坂出ははっきりと言い放つ。

他の部下が慌てて話題を変えようとする。

気分を害した坂出はトイレへ行くために席を立つ。

部下の一人が説明をする「坂出係長はオタクだけでも… 女性がひどい目にあう作品がキライなんだよ」「そうなんですか… じゃあ、結構ダメな話が多いんじゃ…」「そうそう。 いわゆるフェミニストって感じなんだよ。 だから、うかつにダークファンタジー系の作品を出そうものなら、キレられるぞ」「ああ、気を付けるよ」


戻ってきた坂出は落ち着いた様子であった。

その後は何事もなく飲み会は終わった。先ほど粗相をしてしまった部下は坂出を二次会に誘うが、坂出は「これから、本屋に行く」と断った。



人の群れから外れた坂出は一人思う。

(もちろん。 ダークファンタジーや異世界系がキライというわけではないさ… なるべく原作もアニメもチェックはしている… だが、私は不自然に少女や女性をいたぶるような作品が… 昔から嫌いなんだよ。 古くは名作劇場も、苦手だった。 特に最近は不自然な流れや… とりあえずインパクトのために女性をあーだこうだする作品があまりに多い… レ○プされる女性だって、それまでの人生があって… もしかしたら好きな人がいて、なのに… ああっっ… それが理不尽な暴力で散らされるとは… いや…作品の必然として、そうなるのなら、まだ、かろうじて… その、まあ、なんとか納得することもできるが… NPCに人権はないのかというほど… 最近は軽々しく女性がむごたらしい目にあう… いや別に、あれだよ? そういう作品を好む人をどうこう思うことはないさ。 リョナとか虐待とか、まあ、そういうもので興奮を覚える癖の人がいること自体は、どうも思わない。 けど、少なくとも私は、そういうのは…嫌だ)


坂出は、「とりあえずインパクト」 のあたりで、トラックにひかれていたのだが、あまりに思考に没頭していたため、そのことにも気づいていなかった。


坂出が気が付くと、そこは見知らぬ荒野であった。

坂出はメガネを拭いて、周囲を確認しようとするが、本来メガネがあるはずの場所になにもない。

(落としたか… 我ながらうっかりさんだな)坂出が自分の手足に目を落とすと、それは見知らぬ手足の形状であった。(指が… 太くて長いぞ、足も…心なしかがっしりしている。 ズボンも…なんだ? 

この変な形の… そう、まるで異世界の戦士が履くような、絶妙にダサいスラックスみたいなズボン…いやそれになによりも、だ。 それがはっきりくっきりクリアーに見える… ということは… あれか?異世界に… 転生したのか…)

坂出は思考の末、自分は異世界に転生したことに気が付いた。

落ち着いて自分の装備を確認する。

(ズボンと…下着も履いているようだな… これはなんだ? 布でトランクスのように縫ってあるタイプかな? トランクス派にはありがたい。 胸当ては、そこそこ硬い… というか胸板が厚い。 けれど、ごつすぎない… これは、あれだな、結構イケメン系の勇者みたいなポジションか… うん、触る限りでは鼻も口の大きさも位置も悪くない感じだ。 で、背中には剣か… なるほど、主人公ポジションってとこかな… 悪くはないだろう。 ファンタジーそのものは嫌いではない)

坂出は腰を上げて、荒野を歩き始める。

身体は軽い、少しスピードを上げても全く息が荒れる様子もない。

調子に乗って、どんどん手足の回転を速める。

「はははは。 いいぞ、速いぞ… ははは」すると、坂出の目はずっと先にある山をとらえた。

「山だ。 あそこに行ってみよう」坂出の心臓はこれまでにないスピードで、ドクンドクンと酸素を、血液を全身に送る。「みなぎるなー… これは爽快だー」 

坂出はそのままの勢いで、山に入り、木々をなぎ倒しながら、けもの道を間伐していく。

山の中腹に、大きな穴が空いている。

自然に空いたものとは考えられず、人工的に空けられた様子である。

テンションが上がっていた坂出は、まるでRPGの主人公のようにずかずかと無遠慮に足を踏み入れる。

「おお、穴だ。 穴がある… ここを寝床にするとしようかな。 先住民には悪いけど、お邪魔しますよっと」




坂出が穴を見つける数分前の事である。

この穴を訪れた者たちがいた。

その者たちは近隣の冒険者ギルドから派遣された冒険者であり、この穴に救うゴブリンの群れを退治するという依頼を受けて、穴に来ていた。

当然、彼らはゴブリンに敗れていた。

パーティの男性たちは、すぐに命を奪われ、2人の女性はゴブリンによって捕獲されていた。



坂出が、居酒屋に訪れるようなテンションで穴を覗くと、10人の下半身に布だけをまとった鬼のような生き物と地面に横たわる死体と、衣服をほとんど剥ぎ取られた状態の2人の女性がいた。

坂出は、ふつふつと血が沸騰してくる感覚に襲われた。

(これだから… 異世界はってやつは… ゴブリンか…ゴブリンだよな… コレ)

ゴブリンは出入口に立っている坂出に飛びかかる。

坂出が腕で薙ぎ払うと、そのゴブリンは壁にぶつかり、その衝撃で潰れた。

坂出は女性たちを見つめる。女性たちは助けを求めるような表情を浮かべる。

坂出がよくよく目を凝らすと、女性の手は縛られ、足の健の部分から血が滴っている。

「どうみても、合意ではなさそうですね… 君たち、なぜこのようなことをするんですか?」坂出は怒りを抑えて、ゴブリンたちとのコミュニケーションを試みる。

頭に血は昇っているものの、即座に命を奪うほど、激情的な人間ではなかった。

ゴブリンの1人が口を開く「仕方なかったんだ。 こいつらがいきなり、俺たちの巣を襲撃してきたんだ。 俺たちはそれを撃退しただけだ」

坂出はまず、言葉が通じることに安堵した。

(言葉が通じるどころか… コミュニケーションまで、取れるなんて、有り難いことだ。 これなら無用な戦いを避けられそうだ)

「あなたたちはただ平和に暮らしていただけですか?」

「…そんなわけないだろ。 バーカ。 俺たちはこの辺り一帯で好きにやらせてもらってるんだ。 そしたら生意気な雑魚がやってきたんでよ。 遊んでやってるんだよ」

坂出の背後には、5人のゴブリンが武器を構えていた。

「なるほど… じゃあ、まずは五分五分ですね。 喧嘩両成敗という感じですね。 なら、仕方ない」

ゴブリンの1人が坂出を切りつける。

坂出はひらりとかわして、そのゴブリンの後ろ頭を掴み、そのまま、地面に叩きつける。

「ただ… 今、あなたたち… レイ○しようとしてますね」

「それが、どうした。 女はこうなるに決まってるだろ」

「だれが? いつ? それを決めた?」

「人間の女は、俺たちにとっても、イイんだよ。 だから、戦利品として有り難くいただくんだ?」

「そうか… まず、貴様… 女ではなく、女性もしくは淑女と言い改めろ。 そして、品? と言ったな? 品は物だろ? 貴様ら畜生に人間の概念を言っても仕様がないが… もしも貴様らが、概念を理解したうえで、そのような侮蔑の表現を用いているというのなら… 今すぐ、謝罪し、訂正しろ」

「訳の分からんことをおおおおお。 死ね。 ボケがあああ」

計12人のゴブリンが一斉に飛びかかる。

それがまったくの同時であれば、あるいは、一太刀ぐらいは浴びせることができたかもしれない。

しかし、実際には、若干ではあるがタイムラグがあった。

最初の1人は、坂出の突き出した左足に胴を撃ち抜かれた。次の1人は右腕で叩き落とされる。

次は引き戻された左足に飛ばされ、次はその巻き込みをくらって転倒。次は2人同時に飛びかかることができたが、すでに坂出は態勢を整えており、攻撃を回避されたうえ、殴り飛ばされた。その合間を縫って、2人武器を前に突進するも武器は叩き割られたうえ、1人は膝蹴りによって頭を割られ、もう1人は蹴りあげられて洞窟の上面にぶつかり頭をつぶされた。残りの4人と先ほどまで会話をしていた1人、そして、転倒していた1人合わせて6人は間合いを取り、坂出を囲む。

囲んだ瞬間、坂出は1人に向かって突進する。慄いた、そのゴブリンの頭を掴み、リンゴのように潰し、そのまま、他のゴブリンに投げつけて、陣形を崩す。時計回りに、順に殴る。 蹴る。 蹴り上げる。掴んで投げ飛ばす。 最後に1人、話していたゴブリンを残した。

坂出はズボンのすそで血を拭き取る。

「最後に一つ聞かせてください… あなた方にとって、女性とは?」

「メスのことなんぞ、考えたこ…」言い終わる前に、そのゴブリンの頭と胴は手刀によって切り離されていた。

倒れているゴブリンたち1人1人の頭を潰してから、女性たちの拘束を解き、男性たちに向かって手を合わせた。さらに、奥の方に残りがいないか、確認しに行く。


しばらくして、戻った坂出は、男性たちの亡骸を抱え、女性たちに肩を貸しながら山を降りた。

(早速… こういう展開か… きついな… これだから、ファンタジーは… 文明や人権が発展していない世界は… キライなんだ)

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