6、その後
スラウスという人物は一応護衛ですが、一番の仕事は目です。
近くからでは気付き難いものを離れた位置から見て知らせる役目を与えられてます。
「先ず、残念ながらご兄弟は無事です。」
「別に残念ってことはないけどね…。」
ゲームで登場してるから、僕が死ぬまでは生きている…って、
「そっか、マルエヌとメルルは分からないんだった…。」
「どうかしましたか?」
「いや、別に。」
「次に主は3日間眠られてました。」
「3日も⁉」
「はい。医者は外傷もなく命に別状ないだろうとのことでしたが、目覚めない原因が不明とのことでした。
が、私やミーシャの見立てでは、何か回復をする為の睡眠だろうと判断しました。」
「何かの回復?」
「アルフレッド様の睡眠は普通の睡眠ではなく。冬眠の様に呼吸数、心拍数が減ってましたので、私もスラウスもそう判断いたしました。」
冬眠?ミーシャとスラウスの見立てが正しければ、何を回復としてたんだろ?
「そうでした。第三王子を始めご兄弟、他の貴族から見舞いの品が結構届いてました。」
「お見舞いの品?」
「左様でございます。お見舞いという名のゴマすり70、心配30と言ったところでございます。」
「ふ~ん。そっちは後でもいいや、スラウス。」
「畏まりました。では、あの日の出来事を順を追って簡潔に説明しますと…襲撃があり、爆弾が爆発。倒れている主を発見。息してることに安堵。急ぎ屋敷まで搬送。医者が往診。すやすやお3日間冬眠。という流れです。」
「……………簡潔過ぎ!それの何処にミーシャが言い淀む所があるの!」
「ですね。あの襲撃で死者が出てます。あのサロンには当日、貴族の子息女とその従者・使用人、マルエヌ様が手配した護衛を含めておよそ90名、その内、貴族の子息女での死亡者は8名、従者・使用人18名、護衛2名です。」
「……………他があるんだろ?」
「良くお分かりに。」
「その報告程度でミーシャが言い淀む必要がないからね。」
「ご明察恐れ入ります。」
「スラウスまでそんな言い方をするってことは、僕の所為で死者が出ったってことか…。」
「そうなのですが…。」
「なんかスラウスまで歯切れが悪いね。」
「そのことなのでが、主が関係していると思われることで死者が出てることは出てるのですが…。
主が関わっていると思われるのは、あの爆弾です。
ですが、爆弾に関しては襲撃者のポカということになっております。」
「ポカ?」
「失敗という意味です。」
「いや、それは知ってるんだけど…何でそんなことに?」
「さぁ?私にもさっぱりです。」
「さっぱりって…。」
「主が思われてるようなことではございません。ミーシャから状況を伺いましたが、一族のミーシャの話でも信じられない内容なのです。
主が立ち上がって、姿が消えて、次にミーシャが見たのは何かを投げたような姿で、その直後に爆発…なんて話を聞かされて誰が信じられると思いますか?」
「確かに…信じられないね。」
「なので、主が爆弾を投げ返したという事実自体が存在しておりません。
煙で目撃者も居ませんし、爆弾が爆発する前に投げ返すことが出来る者が居るなんて信じられませんよ。」
「それが普通だよね。」
「ですので、きっとミーシャは幻でも見たんですよ♪」
「酷いです!スラウス。私はこの可愛らしいお目眼でしっかり見ました!」
「………可愛らしいと自分で言いますか?まあ、そのことについては私は疑ってませんよ。
でも、他の者達からすれば、到底信じられる内容ではありません。」
「うっ…そうですね。アルフレッド様の側で使えて6年と少しの私ですら、アルフレッド様が変態になられたのかと思いましたから。」
「なんか違う意味で言ってない⁈言ってないよね?」
「モチロンデゴザイマス。」
「まあ、主が変態だろうと主は主で変わりはありません。」
「なんか悲しくなってきた…。」
「続きですが、主が爆弾を―――ということがない方が、現状の正式な報告となっております。」
「まあ、スルーされるのはいつものことだから、僕のことは置いといて、正式な報告はどうなってるの?犯人は?そしてミーシャが言い淀んだ内容は?」
「一度には答えられませんので、先ずは正式な報告の方からです。
何者かが、学園の王族が集まることを知り襲撃。サロンに集まった学生諸共抹殺しようとして、爆弾を使用するが投げ仕損じて近場で爆発。ということになっております。犯人は複数名で一人死亡。
左足が無くなってたので出血死、あるいはナイフが刺されたままだったので、口封じに殺されたとみられてます。」
「自害か楽にしてあげたっていう線は?」
「どちらも無い訳ではありませんが、自害するには刃の向きが逆になってるので、自害よりも…と判断したようです。それと、楽にという主の考えはおそらくありません。」
「なんで?」
「楽にしてやろうと考えた場合、もっと違う場所を刺します。腹は逆に更に苦しめるだけです。」
「あ、そうなんだ…。」
「そうなんです。次に死んだ者の身元ですが、身元不明でした。以上のことから一応、他国の手の者という方向で調査中です。」
「そっか、参ったね…容疑者が絞れそうで、全然絞れない。」
「そうでございますね。」
「あの場に居た全員が死ぬ可能性があったから他国のって方向は納得出来る。
けど、3日経っても調査中ってことは証拠が全然ないんだよね?」
「左様でございます。」
「次に王位争いの場合は全員死ぬ可能性があったことから、あの場に居たみんなは外れそうだけど、実際のところどうなんだろう?
それに、第二王子派の動きがおかしいって情報があったけど、その第二王子のテムデッシュにしても欠席するつもりだったところをマルエヌが引っ張って来たって言ってたから、第二王子派の連中がテムデッシュが参加してないと思って仕掛けたって言うなら筋が通りそうではあるけど…。」
「それはないですね。あの時、襲撃者は第二王子の声の方に爆弾を投げましたから。」
「ミーシャの言う通りなんだよね…テムディッシュは拡声の魔道具か何かで名乗ってたから聞こえなかった訳もないだろうし…。
最後がメルフィスの第一王子派の可能性なんだけど…こちらもないね。
余程の莫迦でもなければ、自分たちしか疑われないような状況ではやらないだろ。
少なくともマルエヌが居るのにそれはない…と思いたいね。」
マルエヌはメルフィスの実の妹です。だから妹まで巻き込んで、とは考えたくありません。
「そうですね。付け加えると、あの場に第一王子派トップのクワント公爵のご子息が居ましたから。」
「ああ、それは決定打だね。何か変なんだよね…今回の襲撃は。
スラウスの方はどうだった?」
「申し訳ございません。まさか正面から仕掛けるとは思わず、裏に回って初動が遅れました。」
「それは仕方がない。学園という場所で、あのメンバーが集まってるんだからね、正面から襲撃する可能性は低いと思うのは仕方ないよ。」
「正面からならミーシャだけでも対応可能だと相手を甘く見積ってました。申し訳ございません。
初動は遅れてしまいましたが、私が確認出来た範囲で犯人の数は8名、全員顔を隠してましたが…ミーシャから聞いた主の予測ガン無視でしたよ。」
「そうなの?」
「はい。入り口以外に人員を配置してませんでした。まあ、窓を突き破って逃げるのは危険だ。と、こちらが判断するだろうと判断して、そちらを敢えて無視した可能性はありますけど…。」
「ないだろうね…そんな判断ができるような賢いのは少ないからね。あの学園。」
「なら、窓から逃げる者を止める。もしくはその危険性を説き、押し止めることが出来る仲間が紛れ込んでたってことですかね…。」
「窓ね…あっ!僕が投げたナイフに当たった人どうなってた⁈やっぱり―――」
「そのことなのですが…。」
「どうしたの?」
「分からないのです。」
「分からないって?」
「そのままの意味です。アルフレッド様が投げたナイフを受けた人物は見当たりませんでした。」
「え?…僕の投げたナイフが刺さったか何かで叫んだんだよね?」
「タイミング、声の位置ではそうだと思います。その場に落ちたナイフと血痕までありました。確かにあそこに誰か居たのは間違いないと思うのですが…。」
「誰も居なかったと…死体すらなかったっと。」
「はい。アルフレッド様が気になされるだろうと思い調査しましたが、その後の治療を受けた者の中にも、死体の中にもそれらしき人物は居ませんでした。
ただ、爆発に巻き込まれたとかなら見つからない可能性はあるのですが…。」
「それも考え難いか…。」
「はい。いったい何者だったのでしょうか…。」
「分からないのをいくら考えても時間の無駄だよ。そういう場合は知ってる人に聞くのが良いんだけどね…。」
「その様な人物は当人以外居ませんね…居たとしても素直に教えてくれるわけもないでしょう。」
「その人物については今回置いておこう。え~っと次は…。」
「目覚められたばかりでございますから、今日はこの辺にされては如何でございますか?」
「ん?いや、目覚めたばかりで物凄く調子がいいんだけど?」
「ミーシャ、諦めなさい。いづれは主の耳に入ることです。」
「……………はい。」
「では続けます。主が投げ返したとされる爆弾での被害ですが…幸いと言っていいのかは分りませんが、死者は2名と、あの威力では少なくて済みました。」
「…………良いよ。遠まわしじゃなくて、ハッキリ報告して欲しい。それは僕が背負うべきもののはず―――」
「アルフレッド様!あ、あの状況であの程度で済んだことが奇跡なのです。」
「うん。ありがとうミーシャ。でも死者が出たことは確かで……それ以外もあるんでしょ?」
「はい。死者は2名とも従者でございましたが…重傷者が15名。腕や足を失った者も居ます。」
「……………そう…か…。その人達の身元は分かってるの?」
「こちらに。」
スラウスから報告書と一緒に被害者名簿を渡されます。
それを見て、僕の顔から血の気が引いて行くのを感じます。
「大丈夫でございますか?」
「うん。大丈夫。大丈夫…。」
これがゲームならリセットボタンを押したい気分です。
時間的に昼食中だったことで、幸いにもサロン周辺に人は少なく、されど少ないだけで生徒は居た…襲撃に邪魔だったのか、口封じなのか全員殺されてます。
こちらはスラウスが確認できた範囲で12名。
爆発の所為で襲撃者に殺されたという確認が出来ません。
僕が投げ返した爆弾はサロン入り口付近を巻き込んで爆発。
僕が関わってる死亡者は3名ですね。
3名のうち2人がさっき報告のあった従者2名。残り1人は襲撃犯だと思われる人物です。
そして、スラウスから貰ったその名簿の中にリンスさんの名前がありました。
ついでに、朝僕に声をかけて来たドルトム子爵の子息、ドウデンの名前も…。
スラウスの名簿は分かり易くまとめられてます。名前と家、学年、そして…どんな状態なのかも…。
ドウデンはどうでもいいのですが…っと、差別はいけませんね。
ドウデンは右腕と腹を。
そしてリンスさん。命に別状はありませんが、顔を、顔の左半部がダメみたいです。左目が完全に。
それ以外の人も、腕を失った者、足を失った者、お腹が裂けた者など多岐にわたります。
故意ではないとはいえ、これは…。
「ミーシャ、悪いけど…ランズを呼んで来てもらえる?」
「………畏まりました。」
ミーシャは部屋から出て行きます。
「それでは主、私も出て行きます。ランズ殿が来るまで、思い切り泣かれると宜しいでしょう。」
そう告げて、スラウスも姿を消します。
「………ったく。」
あの時にはなかったシーツを顔に押し当てて声を殺し泣きます。
僕はこの日初めて人を殺したという事実に泣きます。
アルフレッドは自分、自分たちの所為でまた他人を巻き込んだことに泣きます。
ミーシャが言ったアルフレッドの無駄設定は人を遠ざける為です。
自分の所為で他の人を危険に巻き込まないための、自分の為に、いえ……………ナンデモナイデス。
コンコン。
しばらくして、部屋の扉がノックされ、声が聞こえてきます。
「アルフレッド様、お呼びとのことですが…。」
「ああ、入って。」
「失礼いたします。……またお泣きでしたか。日を改められた方がよろしいのではありませんか?」
「いい、3日も寝てたらしいから時間が惜しい。それに、ランズには隠すことは無いからね。」
「………左様でございますか。」
「そうだよ。ランズの裏に居る人物は僕にとっては別に隠し事をするような人物では無いからね。」
「⁉、お気づきでございましたか。」
「今はあの人と言っておこうか…あの人に隠すことなんて僕には無いからね。ちゃんとミーシャたちの時も報告してる。」
「左様でございましたね。あの方も…いえ、これ以上は出過ぎたことでございますね。
それでどのようなご用件でございましょうか?」
「うん。見舞いの品で売れる物はお金に変えて今回の被害者と遺族に―――」
「それは既に王家が行っております。アルフレッド様がするようなことではございません。」
「うん。そうかもね。でもこれは僕の偽善だよ。お金でしか出来ないことに納得出来ないけど…お金を出すことで自分を納得させたいんだよ。」
「アルフレッド様……………無理はしなくてもよろしいのです。先日も申し上げましたが、王子が人前で頭を下げる行為はよろしくありません。」
「それは今回のこととは―――」
「裏を返せば、人前でなければよろしいのです。」
「え?」
「だた、ご注意ください。人前でなければ良いと申しましたが、人の目は到る所にございます。
今回のことでアルフレッド様が気に病むのも分かりますが、アルフレッド様個人で動かれれば、それを快く思わない者も居ることも確かでございます。そうなれば…。」
「僕個人では……………そう…か、そっか♪うん。分かった。良いアドバイスありがとうランズ♪
さっき言ったお金に出来るのお金に換えておいて。」
「はぃ?」
「そうだよね、僕だけだとダメなんだ。どれくらいで手配できそう?」
「………2日もあれば。」
「それならお願い。」
「………畏まりました。」
「あ、それと調べて欲しいことがあるんだけど。」
「ミーシャから伺っております。既に手配は済ませました。
3日後には最初の報告が上がって来ると思います。」
「そっか。」
「しかし何故、ディノス侯爵なのですか?ディノス侯爵はこちらといたしましても完全にノーマークでございましたが?」
「それ、言っちゃっても良かったの?」
「これは失言でございました。」
「まあ、その過程で手に入れた情報はあの人も知ることになるんだろうから、そっちで判断してくれればいいよ。何もなければただの無駄足、そうでなければ…。」
「左様でございますね。私は手配がございますので、これにて失礼させて頂きます。」
「うん。」
ランズが部屋から出ると、入れ替わりにミーシャが入って来ました。
「どうしたの?」
「こちらの最初の報告が来ましたのでお持ちしました。」
「早いね。ランズの方は3日後って言ってたのに。」
「こちらの情報網を甘く見ないで欲しいです。
それに、お目覚めになられたばかりでしたので少し迷いましたが…朝までの暇つぶしにはなるかと。」
「そっか、今何時?」
「もう1時間もすれば陽が昇ります。」
「そんな時間か…今から寝なおしたら学園に行けなくなっちゃうね。」
「学園に行かれるおつもりなのですか⁉」
「そうだよ。」
「ですがアルフレッド様…アルフレッド様は3日眠られてたのですよ?」
「そうみたいだね。」
「そうみたいって…記憶障害?いや、素ですね。アルフレッド様が行かれると仰るならその様に。」
「?…何かあるならハッキリ言ってもらった方が良いんだけど?」
「畏まりました。それでは……今日は学園がお休みでございます。」
「え?……………あっ!」
「お分かりになられましたら、大人しくお休みされてください。」
「ああ…うん。」
学園に行くつもりだったから、ランズを急がせたんだけど…失敗だった。
ん~あと1時間で陽が昇るならその間、報告に目を通す?
今はそんな気分じゃ…でも僕が頼んだんだから確認しなきゃだね…。
「なにこれ?ここに書いてあることって本当のことなの?」
「らしいです。ディノス侯爵も大概のようでございますね。」
「………みたいだね。」
この報告書の内容は僕、ではなく、アルフレッドでも開いた口が塞がらないといった報告でした。
何?この隠し子6人って…。
筋は通ってると思いたいですが、こういう理由付けは読めば読むほど変な点に気付いて書き直しに付け加えして訳が分からなくなります。
たぶん大丈夫…だといいな。