2、学園へ。
ミーシャの視線から逃れようとして、コケて気を失ったときにアルフレッドの記憶が蘇りました。
執事さんは調理場の人達の捕縛で、服のことを忘れてるようです。
僕はミーシャに土下座して男物の服を持って来てもらいました。
「お願いします!」
「仕方ありません。こちらを、こちらは噓つきには見ることも触ることも出来ない服でございます。」
「リベンジ速過ぎ!服を取りに行ったなら、そうかも?って思うかもしれないけど、一歩もこの部屋から出てないよね?」
「お?おぉぉ。今日のアルフレッド様は賢いですね。失敗しました。」
「まあ、気を失ってるうちにって可能性はあったんだけどね…。」
「私としたことが…アルフレッド様ごときに謀られるとは。」
「ごときって…いや、先に謀ろうとしたのはミーシャの方でしょ?」
「酷いです。私はアルフレッド様を謀ろうなんってこれっぽっちも思っておりません。」
「あ、そうなんだ…。」
「アルフレッド様で遊ぼうとは思っておりましたが…。」
「尚更酷いだと⁉」
「仕方ありません、そこまで頭を下げられてしまっては…服をお持ち致します。」
「お願いします。」
しばらくしてミーシャが持って来てくれたそれを着て、執事さんを止め、厨房の人達に謝ったんですけど…頭下げて謝ったら執事さんに怒られました。
何故に?と思ったら、軽々しく頭を下げるのは僕の立場ではダメなんだそうです。
謝罪の言葉だけで済ませるというのは僕の中で納得出来ない所があるので、ちゃんと頭を下げて謝罪しました………あれ?
ミーシャに土下座してまで服を持って来てもらったんですけど?
まあ、ミーシャだから良いのかな?
さて、学園に向かう準備です。
僕がやってたゲーム、ソリティレイ・アガペーはソリティレイ学園を舞台にした恋愛ゲームです。
貴族の子息女が通う学園で、初等部、中等部、高等部とあり、初等部だけは通うかどうかは各家で判断してるようです。
ゲーム設定以外、アルフレッド情報では僕の弟、妹は中等部から通うようになります。僕も中等部からですね。
主人公は学園での3年間を通してヒロインの心を射とめるゲームです。
最初の1年は出会い。各ヒロインと出会って、学校行事などを通して親しくなります。
2年目でヒロインルートの確定。夏までは1年目と似たような感じで、夏でその時一番好感度があるヒロインルートへ突入。
3年目でそれぞれのヒロインルートからエンディングです。よく死にます。バットエンドに直ぐなります。
ハッピーエンドを目指すにはこまめなセーブが必要です。
主人公の設定は高等部から編入することになる人物で、ディノス侯爵の隠し子。
ディノス侯爵の後継ぎが病死した為に養子という形で引き取られ、高等部からの編入です。
貴族だけの学園ですから色々な噂が流れます。
なかなか学園に馴染めない主人公がヒロインたちと出会い、その出会いを通して学園でイベントを熟して親密になって行くってやつですね。
僕ことアルフレッドが本格的に主人公に絡んで来るのは2年目からです。
今現在僕は中等部3年ですから、1年後の高等部に上がるまでに手を打っておかなければなりません。
まだ間に合う。間に合わせます!
が、アルフレッド本人は気にしてないようですが、現時点で学園の半分以上に嫌われています。
半分の殆どが男ですけどね…何この人?
なので!アルフレッド更生計画のスタートです!主に男に!
………考えてて悲しくなりました。恋愛ゲームで男の機嫌を気にしないといけないとか………BLゲームか!
と、文句言いたいです。
が、先ず僕がしなければならないことは………
学園まで馬車で行きます。
兄たちも学園に通ってますが、バラバラで登校、僕はミーシャと一緒に登校します。
「今日のご予定ですが…。」
「分かってます。兄さんたちと昼食でしょ?」
「はい。私もご一緒致しますが、お気を付けください。」
「了解。」
兄と一緒に食事するのに何を気を付けなければならないのかと思われるかもしれませんが、権力争いというのは大人だけではなく、王子である僕も当然巻き込まれてます。
それも平然と命のやり取りを行います。
「ミーシャにお願いがあるんだけど…。」
「お断りいたします。」
「まだお願いの内容言ってないよ?」
「私はそこまで安い女ではございません。」
「いくらなの?」
「……一千万ソリティ頂けるなら。」
「よし、払おう。」
無理です。一千万円であれば、王子の権力で用意出来そうですが、ソリティは円の100倍です。
無理だと知っててミーシャは吹っかけて来てます。
「即金ですよ?」
「分かった。」
「そうですか…。」
シュル、シュルルル…。
「ちょ、ちょっと待った!すいません。ごめんなさい!脱がないで!」
「勝ち?」
「僕の負けでいいから、何で脱ぎだしたの?」
「一千万で私の体を売りましたので…。」
「いや、買ってないよ!」
「ですが、先程お願いがあると、」
「うん。お願があるんだ。」
「ですから脱ごうかと―――」
「何でそうなる!」
「お願とはフラれたので慰めろという意味では?」
「違う!ちっがーう!それに、即金って言ったのに払う前に行動するのは狡いよ。」
「でしょうね。表情には出てなかったことは合格ですが、素人でも分かるようなブラフはアウトです。
アルフレッド様が口にした瞬間に、先程のように逃げ道を先に塞がれる恐れがあります。
しかし、私の裸くらいで慌て過ぎです。最近慣れて来たと思ってたのですが…。」
「ミーシャが相手だからね。」
「そ、そうなのですか?私が裏切ってたらどうするおつもりだったのですか?」
「その時は諦めるよ。これでもミーシャのことは(アルフレッドが)信頼してるからね。」
「………左様でございますか。それでお願いとは何でございましょうか?」
「うん。ミスミソウを用意して欲しいんだ。」
「今朝の女性…リンス様に渡されるので?」
「うん。」
「アルフレッド様も鬼畜でございますね。今朝泣かせた女性に耐えろとは…。」
「そっちじゃないよ!和解の方で渡したいんだよ!」
「左様でしたか。しかしミスミソウは時期的にギリギリでございますので…。」
「分かってる。だから他のも用意するよ。」
「誑しでございますね…ですが、今回はそれでよろしいかと。」
「まあ…そうだね。利用されただけだとしても、ケアはしてあげないとね。」
「おや?お気づきでしたか。」
「当然、(アルフレッドが)気付いてたよ。で?あんなことして来たのはどっち?」
「どちらだと思われますか?」
「ああ、うん。第二王子派か…。」
「良くお分かりになられましたね。」
「ミーシャの反応でね。子爵は第一王子派だからね。第一王子のメルフィスならミーシャはどちらなんて聞き方しないよ。それに第三王子のヨムクートの方はまだ様子見だろうからね…。」
第一王子派が次期国王最有力候補ですが、第一王子に何かあったときの為に第二王子、第三王子までは第一王子の次に最有力です。
運が悪いことに、第二、第三王子と年齢が近いので僕のような第四王子はギリギリ王位争いの中に入ってしまいます。
まったく面倒臭いです。
第一王子メルフィスは24歳。第二王子テムデッシュ18歳、第三王子ヨムクート17歳、そして第四王子アルフレッド15歳。以下弟は8歳、6歳です。
姉と妹も居ますが、そちらは王位とは別の所で争ってます。そちらはね…。
「これは…一応盾も用意しておきましょう。」
「盾?」
「槍が降る恐れがあります。」
「ないよ!……でも、今日一緒に食事予定なのに仕掛けて来るなんて、僕を引き込む気なのかな?」
「聞きたいですか?」
「………いや、止めとく。聞いたら昼に会ったときに顔に出るかもしれないからね。」
「賢明な判断です。やはり盾は用意しておきましょう。盾で防げれば良いのですが…。」
「酷いな…。」
「そろそろ学園に到着いたしますね。あの無駄な設定の準備を。」
「うん。俺、俺、俺…おい、愚図メイド!準備は良いな?」
「もう一声。」
「……ピー、ピー、ピー――!」
「まあ、よろしいかと。」
何この罰ゲーム…アルフレッドはよく使い分けられるね…。
「アルフレッド様。到着いたしました。どうぞ足下にお気をつけください。」
「毎日同じこと言う奴だな!いちいち言わずとも分かってる!」
あっ…
馬車から降りるときに段を踏み外してしまいました。
「大丈夫でございますか!」
ミーシャが慌てて僕を助け起こそうとしてくれますが、ここは学園です。
周囲の目があります。
「触るな!」
パシッっと差し伸ばされたミーシャの手を払いのけます。
申し訳ない気持ちでいっぱいです。
「アルフレッド様。その様な顔をされては聡い者には気付かれてしまいます。」
ミーシャは助け起こしながら小声でそんなことを言って来ます。
ミーシャの学園での立ち位置は僕の身の回りの世話をするメイド兼非戦闘従者です。
「ふん!」
僕は立ち上がり教室へと向かいます。
女の子たちが挨拶してくれるので、僕は手を上げるだけでそれに答えながら教室の方へ…ミーシャは離れて僕の後に付き従います。
「アルフレッド様。昨夜はお楽しみいただけましたか?」
僕の同級生が近づいて来て、開口一番そう言って来ます。
こいつ…。
一発殴ってやろうかと拳を握ると、手を誰かが包んできます。
ミーシャ…。
「ああ、リン…。」
「もうその様な呼ばれ方をされる仲に。余程あの女の体はよろしかったのですね♪」
こいつ…
「ああ。それでリンと今日会いたいのだが頼めるか?」
「勿論でございます。そうですね…昼…いえ、放課後の高等部東棟のサロンでよろしいでしょうか?」
あっ…こいつ莫迦だ。リンスさんの件で僕も怒ってたので、遠慮なくやります。
そいつの喉を掴んで、そのままそいつの体を壁にぶつけます。
所謂…壁ドン?
なんで男を壁ドンしなきゃならないのかと、悲しくなりますが…喉を僕に掴まれて苦しそうにしているそいつの耳元で、なるべく声を低くして言ってやります。
何故か黄色い声援が聞こえますが…
「お前、テムデッシュの手先か?」
首を一生懸命横に振って否定しようとします。
まあそうですよね。こいつ…ドルトム子爵家は第一王子派で、その息子が第二王子派と繋がりがあるとなると、家もこいつも大変なことになります。
「高等部東棟のサロンは第二王子派のテリトリーだよな?そこを用意できるってことは…。」
「ヒッ!」
「ドルトム子爵はこのことを―――」
「はいはい。アルフレッド様。そこまでで♪」
「あん?…って、なんだ、ディーかよ。」
「回り見てみなよ。」
「ん?」
ディーにそう言われて、周囲に視線を向けると、またかとでも言いたそうな視線の男共とキラキラした目でこちらを見ている女性陣に分かれてます。
三角関係の縺れとかいう言葉も聞こえますが…スルーします。
僕の精神の安寧の為に…。
「半分はディーの所為だろ。」
「うっ…でも朝からやり過ぎだよ?ヤルなら人目のない所でしないとダメじゃないか。」
後半は小声ですが、ディーも十分怖いです。
「はぁ~、今回はこれで勘弁しといてやる。リンの件頼んだぞ?」
無言でコクコク頷いてるのを見て手を離します。
「あっ、何かしたら家が大変なことになるぞ。」
更に青ざめた顔を確認してディーとその場を後にします。
この手の小物は家の名前(権力)がなければ何も出来ません。
その家が無くなる可能性があると大人しくなります。
唯一の問題があるとすれば、こいつがテムデッシュに泣きつくことですが…。
ミーシャは付いて来てません。お仕事です。
「それで何があったの?」
「ん?あいつが莫迦だってことだ。」
「それは仕方ないよ。極一握りの人しか真面なの居ないもん。」
「もんとか言うなよ。」
「あれ?可愛くない?お姉さま方には受けがいいんだよ?」
「今はだろ?おっさんになってもそれだったらキモイ!」
「今が良いんだから良いんだよ♪」
「ったく…。」
このディーは名前はディノス・メルマフェル。幼馴染で宰相の三男です。
出会い頭に「三男と気楽な立場だな。」と言ったら、喧嘩になってそれ以来の仲です。
本人はまだ可愛らしい顔をしてますが腹黒です。
「あ、そうそう。第二の連中の動きがおかしいらしいよ?」
「おい、そんなことこんな所で言うなよ。」
「アルの場合は堂々と世間話してるような伝え方の方が良いんだよ。隠そうとすると、思い当たる奴らが警戒するからね♪」
「…御尤も。」
「女性の体と同じだよ。隠そうとするほど気になっちゃうからね。」
「お前、しれっと凄い発言するな。」
「あははは、今日のお昼どうする?」
「悪いが、今日は兄と一緒することになってる。」
「………。」
「どうした?」
「僕からアルフレッド様を奪おうとするとは!ご兄弟といえども許すまじ!」
ディーの発言にキャーとうい声も聞こえますが態とです。
「アル、気を付けろよ?さっき言ったように第二の連中の動きがおかしい。」
「分かってる。今度誘ってやるよ。」
「やったー♪絶対だよ♪」
なんとも切り替えが早いことで…僕の知ってたアルフレッドはほんの一面だけだったと…あれ?
…ちょっと待て。
僕の中のアルフレッドの記憶とゲームで知ってるアルフレッドを重ねます。
あれ?これは…。