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僕の中に知らない誰かの夢を見る  作者: 天海
第1章 神隠し
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第7話

「でもなんで、急に掃除当番を代わったりしたんだ? そっちの学校って、結構しっかり当番決められてんだよな?」


 そして、もうひとつの気になることというのが、(ひいろ)の急な掃除当番の変更だ。

 悠真の言う通り、僕と緋の通う学校は委員会や掃除当番という活動に対しては妙に厳粛で、すっぽかすなんてことがあればそれなりに面倒なペナルティがある(その分、活動というジャンルの中では最も面倒な部活への入部は強制されていないのだが)。ある程度不真面目ぶっている生徒でも、一度でもサボるとペナルティの方が厄介と気付くらしく、余程のひねくれ者か、やむを得ない事情がなければ当番を全うする人間の方がはるかに多い。そして、不真面目とはいえ二年生ともなれば一度はそのペナルティを経験しているだろうに、何故緋が掃除当番を替わるという状況に至ったりしたのかという疑問が湧くわけだ。

 ただ、こっちについては、確信はないものの僕にも心当たりがある。


「今日の掃除当番だった子が、急に停学になっちゃってね」

「停学? なんでまた」

「数日前、他校の生徒相手に暴力事件を起こしちゃったんだってさ。たしかに喧嘩っ早い子だったけど、事件までいくなんてビックリだよ」


 今朝のホームルームでの話だ。同学年の生徒が他校生と衝突し、怪我をさせてしまったという話が担任から伝えられたのだ。まさかとは思ったが、その生徒が緋のクラスメイトならこの状況も納得である。それに、こいつのことだから、自主的に空いた当番を引き受けたのだろう。


「……お前、また自分から進んで代わったな?」

「だって、みんな掃除嫌がってたし……」

(ひー)くんは、お人好し過ぎるぜ……あんまそういうコトしてっと、貧乏くじ引くぞ」

「あはは、気を付けるよ」


 年下の悠真(ゆうま)にまで指摘されているというのに、緋はあっけらかんと笑い反省する様子はないため、つい睨んでしまう。

 とはいえ、したこと自体はなにも悪くはないし褒めるべきなのだが、今後もその調子ではこちらが困るのだ。なにせ、僕達が最も忙しくなるのは、日が落ちた後なのだから。


「これからは、そういう事は控えなよ。放課後は夜の準備で忙しくなるんだから」

「あ……うん! ちゃんと一緒に帰るよ」

「……やけに素直じゃん?」

「今のあいつの頑固は、別の方面に向いてるからね」


 訝しげに僕に問いかけてきた悠真に対し、僕が零した「別の方向」とは、勿論、妖怪退治に関する事柄だ。今の緋は妖怪退治の参戦に関する話題に対しては過剰に反応し、こちらが拒否でもしようものなら手がつけられなくなるだろうが、その反面他の事柄に対する執着は弱まっている。だからこそ、僕が参戦を認め準備を促した、今回のような注意方法なら素直に聞いたというわけなのだ。

 それを理解した悠真は、苦笑を浮かべながら機嫌の良い緋を眺め、なるほど、と呟いた。



「そういえば、今夜はいつもの所で集合でいいんだっけ?」

「うん、姉さん達からはそう連絡が来てる……って、お前のところにも来てるだろ?」


 それから十分ほど進んだ辺りで、携帯を脇目で見ながらも危なげなく歩いていた悠真は、ふと今夜の予定について口にする。妙な質問内容に呆れたものの、そいつが脇目で見ていた携帯の画面には姉さんからのメッセージではなく、どこかのファストフード店のメニューが表示されていたのだ。自分から口にしておいて、本来の主題を完全に上の空で零した弟分の考えが、僕には分からない。


「いや~ ポテトのこと考えたら抜けちゃってさ」

「呑気だな……」

「でも、そのぐらいドンと構えられるのは凄いよね。俺、一昨日から緊張しっぱなしだよ」


 へらへらと笑いながら頭を掻き、緋に奢らせようとしているものの画像を見せてきた悠真の様子に思わず脱力したが、奢る側の緋は本気で感心しているらしい。

 たしかに、参戦が許された二日前の夜から緋は落ち着きなく戦いに向けて復習をしていた。ただ、今の悠真は日中は戦いから離れ緊張する必要がないだけであり、常日頃からリラックスしているわけではない筈だ。実際、僕の目からも遊び感覚で戦っているようには見えないのだから。


「そりゃ、緊張するっしょ。ま、ちょっとぐらい緊張してないと危ないって言われたし、そんなもんでいいんじゃねーの? 碧兄(あおにい)とか、見ただけじゃ緊張してるかも分かんないし」

「悠真よりは緊張してるさ」


 肩の凝りをほぐすかのように腕を伸ばした悠真に急に話の矛先を向けられ、思わず眉を潜めてしまった。

 人のことを何なんだと思っているのか随分な物言いをされたが、僕だって緊張のひとつやふたつぐらいする。というより、初めて戦いに出た日は姉さん達の指示に従うだけで精一杯だったし、入浴するまで怪我をしていたことに気付かなかったのだ。これだけで、仮に僕のことを知らなくても、どれだけ緊張していたかは分かるだろう。

 もっとも、エピソードとしてはあまりに情けないため、わざわざ弟達に教えはしないが。


「緊張の方向性が違うかもしんねーけど……」

「……それは俺も思ってる」

「失礼だな……」


 こそこそと失礼極まりない発言を繰り返す二人を睨み上げながら、ため息を漏らさずにはいられなかった。

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