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僕の中に知らない誰かの夢を見る  作者: 天海
第1章 神隠し
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第2話

 僕の名前は、錫久名(すずくな)(あおい)

 ここ鹿女山(かめやま)町に住む高校二年生で、今年の春からはとこ達と共に妖怪退治をしている、少し特殊な家系の末裔だ。


 どの辺りが特殊であるかを具体的に挙げるならば、神や妖怪のみが使える筈の【神通力】が使える一族であること、とある【呪い】をかけられていること。

 何故、僕の一族に神通力が使えるのか、詳しいことは当事者である僕は知らず、以前から戦いに身を置いている姉さん達も知らないらしい。にもかかわらず、妖怪退治なんて危険なことをしているのは、解呪の手掛かりを得るためと、この町で発生しているあらゆる事件に妖怪が関わっているからだった。


 この町で妖怪の仕業と思われる事件が確認されたのは、少なくとも三年ほど前から。そこから妖怪の仕業と目星を付けるまではひと月と掛からなかったが、姉さん達が町に起こるあらゆる事件を解決する一方、三年前から始まった妖怪退治に僕が参加出来なかったのには理由がある。

 ひとつは、当時まだ中学生だったこと。これは、僕が高校生になればすぐに手伝いたいと訴えていたから、半ば了承されていた事柄だった。が、それでも尚、僕の参加が予定より一年遅れてしまったのには、別の要因があった。



「……外で待ってたのか、(ひいろ)

「おかえり、碧!」


 築何年なのかを祖父に聞いても笑ってはぐらかされる古い木造住宅である僕の家は、古いからなのか家系の特殊さが原因しているからかは分からないが、妙に大きい。その大きな家の広い玄関先に佇んでいた弟の姿を見て、真の意味でようやく気を抜くことが出来た。

 (ひいろ)は、僕の双子の弟だ。双子だから髪色、声、背格好は僕とほぼ同じなのだが、僕らは二卵性双生児のため、よく見ると顔つきは少し違うらしい。僕自身も近年、体格に僅かながら差異が生じ始めた事には気付いているとはいえ、大きな差といえば僕が紺碧、緋が緋色の瞳を持つという程度。僕達の名前の由来も瞳の色から来ているものの、それ以外は一般的な兄弟程度の類似点のある双子だと身内からは称されていた。

 その差異や類似点について僕は気にしたこともなかったが、弟は僕と何もかも同じというのは気に入らないのか、高校入学と共に髪型とファッションの方向性を変え始め、一応、今では一目で見分けられる程度には見た目に差異が出来ている(それでも、間違えられる時は間違えられるが)。


 そんな弟と僕は、本来なら一年前の時点で妖怪退治に参加する筈だった。そこから悠真(ゆうま)を迎え入れ、姉さん達と五人で妖怪の殲滅に励む――それが、三年前の時点での僕の構想だったのだ。

 だが、緋は心優しいため人を傷付ける事を嫌うだけでなく、妖怪を手に掛ける事も恐れた。当然だ。実際に何度か戦いに参加している僕だって、妖怪を殺す瞬間はとてもじゃないが良い気分はしない。ただ、緋の場合は想像した時点で震え上がり、体が硬直し何も出来なくなってしまう程だったのだ。


 訳あって僕らの戦闘訓練はこの事件が発生する前から始まっていたが、戦いが目前に迫れば迫るほど緋は怯えてしまい、それに合わせようとした僕の参戦もどんどん遅れてしまう。そんな悪循環の中、いい加減姉さん達だけで戦わせる訳にはいかないからと、今年からは僕一人で戦いに向かうことにしたのだ。


「ただいま。……それ、なに?」

「後でね。それより、怪我はない? 力は消耗し過ぎてない?」

「大丈夫。怪我もないし、力加減もしてきたよ」


 とはいえ、緋は臆病というわけではなく、僕の帰りをわざわざ玄関先で待っているほど心配性だし、僕の弟とは思えないほど優しい奴だ。双子と言っても、僕達は親が見間違えるほど瓜二つというわけでもなければ、やることなす事同じというわけでもない。先述した通り、一般的な兄弟程度の類似性しか持ち合わせていない僕らは、生まれ育った環境に影響されて育つであろう根本的な思想、思考を除けば割と似ていない方だと自負している。

 それに僕はそんな弟の優しさを煩わしく感じたこともなかったし、出来ることなら戦わせたくなかったから、このままでも良いと思っていた。誰だってきっと、大切な家族を危険な目に遭わせるぐらいなら、自分がなんとかしようと考えるんじゃないだろうか。少なくとも僕はそう昔から考えていたから、弟を戦いから遠ざけられた事は願ったり叶ったりというやつだった。当然、本人は僕のその決断を受け入れはしなかったけれど。


「おかえり、碧。無事で良かったわ……先にお風呂に入ってらっしゃい、お夜食も用意してあるからね」

「ありがとう、母さん」


 戦いで付いた汚れを払ってから家の中に入ると、今度は緋と同じぐらい心配性な母が玄関で待ち構えていた。弟の性格は間違いなくこの人の影響だろうな、と密かに納得しながら、促されるまま浴室へ向かった。

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