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少年少女のメビウスな日々

作者: ざらめ

「辛すぎる」


割と声はいつも通りだったし、全然辛さが伝わってこないあっけらかんとした口調だった。


だから、たいしてへこたれていないと思っていたのに、読みかけの文庫本から視線をあげたら、幼馴染みが泣いていた。


号泣である。止まらない滝のような流れ。


ちょっとこれは、傍目には俺が泣かしたように見えはしないだろうか?


焦ってハンカチを差し出すも、幼馴染みは人目を憚らず泣いている。声は押し殺しているのだが目立って仕方ない。

仕方ないから涙を拭いてやる。

俺は保護者か。

これってますます俺が泣かしてるっぽくない?


すげー嫌!


幼馴染みの箕輪カナエは、一般的な基準で美人の範疇に入るので、そのカナエが泣いているとなかなか絵になってしまう。


周りの視線をこれ以上集めたくはないなぁ、と、俺はため息をついてカナエと自分の荷物を持って席を立った。


「ほら、帰る」


泣き続けるカナエの肩を叩いた時、見たことがある顔が視界に入った。


綺麗な黒髪を肩で揃えた俺と同じ学校の制服のあの子は。


あー、なんてタイミングなんだ!!


俺は密かに憧れるクラスメイトに、号泣する女の子と一緒にいるところを見られてしまった。


消えたい。涙出そう。


こちらをじっと見ている彼女に俺は気付いていないフリをして、カナエを追い立てるように店を出た。














 やっぱり宇津木君だった。

 相変わらず可愛かった。ふわふわした髪の毛、触りたい。撫でてあげたい。

 似てるな、どころじゃなくて本人だった。それも女の子連れ。しかも相手は号泣していた!

 

 ケンカしたのかな。もしや、別れ話かな…?!別れ話だったら申し訳ないけど嬉しい。


 でも、荷物持ってあげてた。ドアも開けてあげてた。優しい。優しくしてたから、別れ話じゃないんだろう。


 綺麗な女の子だった。しかもあの制服は、この辺でトップ高のS女子だ。頭も良いのね!


 どうしよう、胸が痛い。せっかく学校以外で会えたのに。


 本、今日は何読んでたのかな。最近は書店のカバーをしていて、何を読んでるのか分からなくて悲しい。

 

 カバーつけ始めたの、私のせいかな。


 つい、声かけちゃったからかな。不用意だったな。でも宇津木君が同じ作家を読んでいるのが嬉しかったから。


 宇津木君は、雨の日は昼休みに教室で読書をする。晴れてる日は校庭で男子達と体を動かしてる。


 私は基本、友達と教室で過ごす。そして、私は読書が好き。だから、宇津木君が何か読んでいる時はなんとなくタイトルをチェックしてしまっていて。

 

 宇津木君が読んでる本は、ミステリーであったり、冒険ものであったり、◯◯大賞受賞!みたいなものであったり。つまり、節操がない。


 こだわりのない人なのか、思っていた。


 ただ、ふと気づいてしまった。恋愛小説だけは、いつも同じ作家の本だと言うことに。


 それがまた、私の好きな作家だと言うことに。


 とても切ないお話しを書く作家さん。まさか男の子で読んでいる人がいるとは思わなくて、親近感が湧いた。理知的な顔立ちで人気の宇津木君が、より魅力的に見えてきて。


 あっさり恋に落ちました。


 宇津木君といた綺麗な女の子、一緒にいるのが自然だったな。お付き合い、長いのかもしれない。


 宇津木君。大好きなのに、遠い。口の中に苦味が広がった気がして、私はアイスティーにガムシロップを追加した。










 「別れよう。やっぱ無理。俺とカナエは釣り合わないし」


俺は、意を決して彼女に別れを告げた。


 「え、嫌よ」


唖然とした顔で箕輪カナエが即答した。即答されて、じんと来る。ああ、綺麗なカナエ…大好き。大好きだけど、本当に俺じゃダメだと思う。


「ねえ、これ何回め?私を試してるの?私、あなたに告白した時から気持ちは変わらないよ?」


 焦った顔も綺麗だ。綺麗と可愛いを足して二で割った感じ。好みのドストライクの顔で、そんな彼女を困らせているのは誰なんだ。けしからん。それは他の誰でもない俺だ。辛い。


「俺さ、この前、カナエに勉強教えてもらったじゃん?でもさ、テスト、本当出来なくてさ。赤点あったんだ」


「ごめんね、私の教え方が悪かったかな…次は、もっとわかりやすくするね!でもね、コウ君は出来ないわけじゃないよ!計算とか速いし!」


必死でフォローしてくれるカナエ。本当優しい。俺は頭が良いか悪いかっていうと、悪いんだと思う。カナエはすごい頭が良い女子高に通ってる。


 俺は、その学校に通う子達から相手にされない高校だ。でも、カナエの学校とは近い。だからカナエは登下校で見かけて気になって話してみたくて、と俺に声をかけてくれた。


 通学途中で、雀の雛が落ちていたから、見過ごせなくて拾って。で両手で大事に持って歩いてたところを見てたらしい。


 俺は、バカだから、野鳥の雛を拾っちゃいけないことを知らなくて、可愛そうだから、生物の教師に助けてもらおうと思ったんだ。


 親が雛を探しに来るとか全然頭に浮かばなくて。早く助けなきゃって。


 学校ついて、生物の教師に雛を見せたら、アホって頭を小突かれたけど、ため息つきながらも雛を預かってくれた。


 ちなみにその雀は、無事に成長して、今も生物教師が私物化した生物準備室で可愛がられている。

 

 カナエが初めて俺に声をかけてきた時、俺は自分に話しかけてるとは思わなかった。


 だってなんかすごい可愛いなー、と思って。俺の後ろにイケメンいるのかなって振り返っちゃったしね。あなたです、て言われて、びっくりしたわ。


 S女子の制服だし、罰ゲームなんじゃないかとかわいそうに思ったけど、カナエの真っ赤な顔と目の真剣さに、あれこれ本気?と思って。とりあえず、オトモダチからのお付き合いを初めて3か月。


 間に挟んだ定期テストの結果も踏まえて、箕輪カナエさんはスペック高すぎて、俺には勿体なさすぎて、一緒にいると胸が苦しすぎて、俺はかれこれ10を超える回数の別れを切り出した。


 本当、ダメ人間で申し訳ない。でも、好きすぎて心臓止まりそう。そばにいるとドキドキして苦しすぎて辛い。おかしいでしょ。

 

 オトモダチでいるのが辛いのに、コイビトとか無理。でもカナエはもっと親しくなりたいっていう。


 テスト勉強も、カナエが気になって全然集中出来なくて、カナエがそばにいると良い匂いだなー、とかそんなことばっかりで、珍しくテスト勉強したのに、勉強しない時より悪い成績だった。親にめっちゃ叱られた。


「私は、コウ君が好きだし、そばにいたい。無理って言われるのは悲しいからやめてほしい。私、どうしたら良い?」


真剣に俺を覗き込んでくる目がキラキラしてて、コンタクトのせいかもしれないけど、やばい吸い込まれそう。





「…コウ君?」


 やばい吸い込まれてた。結構、吸い込まれてた。


「本当に、カナエのことが嫌いなわけじゃないんだよ。むしろ逆だよ。でも俺、バカだからカナエとは無理なんだよ。みんながそう言う。俺といるとカナエがかわいそうなんだって。俺はカナエが俺といるからかわいそうなんて周りに思われたら嫌だ」


 俺は、上手くまとまらない気持ちを精一杯伝えた。

それを聞いたカナエは、目を瞬かせてから、そっと目を伏せた。


 しばらく俯いて。


 顔を上げたら、そっと笑った。


「私はコウ君が好き。でも、コウ君を困らせたくない」


あ、これは泣く前の顔だなってわかったけど、俺はここで何も言えないから膝の上でギュッと手を握りしめた。


 終わるんだなって、悲しかった。








 私の彼は、なんであんなに悲観的なんだろう。


 色素の薄い茶色の髪が印象的な、背の高い、細い男の子。初めて見かけた時は、あんなに細いのに力持ちなんだなって驚いた。ジャンケンに負けたとかで、部友達の荷物を持たされていたらしい。


 みんなでゲラゲラ笑いながら、とても楽しそうだった。


 次に見かけた時は、おばあさんの荷物を持ってあげていた。いつも何か持ってあげてるのかなと思った。


 その次に見かけた時は、両手の中に何か大切そうに持っていて。通りすがりにのぞいてしまったら、雀の雛がいた。


 え、その子どうしたの?と思わず凝視してしまったら、私の視線に気づいた彼は、困ったようにヘラッと笑って、自分の学校に走っていった。学校に連れていって良いのかしらと思ったけど、彼の学校は自由な校風で知られているから、平気なのかな。

 

 やっぱりいつも何かを持っている人なんだ、と思った。


 それから、私は通学路で彼をいつも目で追っていた。どんな人か知りたくて話してみたくて。1年近く、見つめ続けて、彼女がいなそう!と判断して、告白をした。


 オトモダチになってください、との私の言葉に、彼は、かなり驚きつつ、信じられない、なんで俺に、と言いながら、頷いてくれたのが嬉しかった。

 

 「で、別れるの?」

コーヒーショップを出て、隣を歩きながら幼馴染の宇津木圭が尋ねてきた。


明日も晴れだね、みたいな言い方するので、ムッとする。幼馴染なんだから、もっと親身になれ。


「でもさ、柴田は悪い奴じゃないのは確かだし、カナエのことを好きなのははっきりしてるじゃん。カナエがめんどくせー、ってなってなければ、別れなくてよくない?」


私もそう思う。なんでお互い好きなのに別れなきゃならないのか。


 コウ君は優しい。優しすぎて、自分より相手を尊重しすぎて、たまに混乱している。今の私達の関係がまさにそれ。他人にどう思われてても良いよっていくら説明してもわからないみたい。


 コウ君、そう言うところは本当におバカさんだと思う。学力的なおバカさんとは違う。コウ君は、自分の目標が定まれば、やれば出来る子だって私はわかっている。


 圭がふわふわの髪をガリガリかきながら、泣かなくて良くない?泣いてスッキリした?と確認してきた。


 コウ君の前で泣いたら困らせてしまうので、まだ泣けない。コウ君の前で泣いたら、コウ君は私の前から永遠に姿を消してしまいかねない。変に行動力があるから。


 幼馴染の宇津木圭の存在は、私にはとてもありがたい。圭に彼女が出来るまでは、頼りにさせてもらいたい。


「俺もそろそろ、頑張りたいので、あんまあてにしないでね?」


圭が軽く睨むようにしていう。


 圭に対するように、いつか自分の全てをコウ君にさらけ出せるだろうか。


 いつも勝手に終わりにして、そしていつもどおりに翌朝、私を迎えにくるダメな人。


 明日は本当にいないかも。もしいなかったら、どうしよう。


「迎えに行きな」


柴田、バカだから。

こともなげに言う圭の言葉に、私は明日は早起きしていつもより少しでも可愛くして登校しよう、と心に決めた。

最後まで目を通して下さりありがとうございました。

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