第1王子の襲来。
本も読み終わったし、今日も勉強を早く終わらせて神殿に向かう予定だった。
いつもは家庭教師の午後の勉強を終わらせてから出かけるから、だいたい3時くらいになってしまう。
でも今日は、いつもより早く終わったからお菓子でも作って持っていこうかと考えた。
台所を借りて焼いたミニケーキ用のスポンジを冷ましていると、珍しくメイド長が慌てた様子できた。
「ルミナエリスさま、王子がお見えになっております」
「え、アルブレドさま?ちょっと待って、約束なんてしていないんだけど……」
婚約者同士が会うには事前に約束を取り付けてくるのが、貴族の基本みたいなものなんだけど……王子であるアルブレドさまが知らないはずがない。
「最近のルミナエリスさまは、毎日のようにお出かけになるため少し強引に来たようでして……」
心当たりがありすぎて、何も言えなくなってしまった。
「わかったわ、すぐに向かうから応接室にでも通しておいてくれる?」
「かしこまりました」
とりあえず、焼きあがったミニケーキを二つに切ると、中にフルーツを沢山入れてクリームでコーティングしてフルーツをさらに飾った。
とても美味しそうに出来上がったミニケーキを持ち運びできそうな箱の中に入れて、冷やすために蓋をせずにテーブルの上においておく。
急いで部屋に戻ると、普段着として着ているドレスよりも少し華やかなレース付のドレスに着替えて、髪型を整えると応接室に向かった。
「アルブレドさま、大変お待たせいたしました」
「ああ、やっと来たか……」
久しぶりに見るアルブレドさまは、相変わらず煌びやかな外見をしていて、金色の柔らかな髪と琥珀色の瞳がとても眩しい。
でも機嫌が悪いらしく、いつもよりも鋭い光を琥珀色の瞳から放っていて、少し怖い。
「お久しぶりですね、アルブレドさま……ええっと、前回は母たちのお茶会のとき以来でしたっけ」
「そうだな。先月は私の申し出を断ってくれたから、そうなるな」
すっかり自分の闇落回避のために、婚約者である第1王子のことを忘れていたことが原因で機嫌が悪いみたいだった。
婚約者同士、親睦を深めるために年に数回は会うように母に言われていたけど、それよりも自分の未来の方が大事だったからすっかり放置していた。
「それで、どうして私を避けていた?」
「そ、それはですね。私には信仰心が足りないというか、神という存在を信じたいというか……」
まさか信仰心のパラメーターをあげたくて、神殿に通いつめてましたなんて言えないから、なんて言えばいいんだろうと考えた。
アルブレドさまから呆れたようなため息が零れ、少し視線が柔らかくなった。
「ルミナは、神殿にでも入るつもりか?」
「そ、それはありません!」
慌てて否定すると、アルブレドさまは何かを見極めるように琥珀色の瞳を向けてくる。
神殿に入ってしまえば、レッドフィール家はどうなってしまうのか解っている。
「この婚約は両親が決めたものだが、正式な婚約だ。それをきちんと心得て置くように」
「それは、解っています」
ルミナエリスとしての記憶の中では、この王子とは初めて会った時からそんなに仲が良くなかった。
いつも一方的で、王族らしい先導者タイプ。
だからいつもルミナエリスは引っ張られてばっかりだった。
でも、嫌じゃなかった。
きっとゲーム中のルミナエリスも、いつの間にかそれが恋になって、大切な存在になってしまっていたんだと思う。
「解っているならいいが……」
アルブレドさまは窓の外に視線を移すと、考え込むように空を眺めたいた。
こういう時のアルブレドさまは、きっと何か思いつきの計画を立てているときだったはず。
ゲーム中でも、視線を逸らして黙っているときは、決まって思いついたような話をしてくる。
「あの、アルブレドさま?」
「……外に行くか」
そういえばゲーム中にも思いつきで行動する時があって、そのたびに選択肢が出てきたっけ。
そうそう、それでなぜかどの選択肢を選んでも好感度が上がったんだっけ。
たしか違うのは、CGが発生するかしないかくらいで……。
ストーリーを進めていくうちに解ったんだけど、どうもアルブレドさまの好みのタイプだったらしい。
だから何を選択しても、高感度が上がっていくということだった。
「外に?散歩ということですか?」
「いや、今日は城下で祭りをしていたのを思い出した」
空を見て祭りを思い出すなんて、いったいどういう頭の構造をしているんだろうと思ったけど黙っておいた。
「祭りですか?」
「ああ、今日は豊穣祭の前夜祭らしいが……明日は予定が入っているから無理だ」
なんとなく、了解していないんだけど行くのは決定なんだと思った。
本当はミレと師匠に会いに神殿に行きたいんだけど、今日は無理かもしれない。
まあ、明日あたりミレと師匠を誘って行ってみよう。
今はアルブレドさまの機嫌をこれ以上損ねないように、一緒に豊穣祭の前夜祭に行くことにした。
「わかりました。では、さっそく行きましょうか」
「あ、ああ」
「外に出かけることを母に告げてきますね」
母のところに出向いてアルブレドさまと祭りに行くと告げると、母はとても喜んでいた。
すぐに馬車が用意されて、アルブレドさまと一緒に馬車に乗るために屋敷から出た。