神殿の書庫。
レヴィアスさま、もとい師匠に案内されて神殿の地下へ行くと、書庫室と書かれた扉の前にたどり着いた。
「ここですね。扉を開けるので、少し待っていてください」
師匠が鍵の束を取り出すと、そこから1つだけ色の違う鍵を選びだした。
扉の鍵穴に鍵を入れて回すと、扉は簡単に開いた。
書庫は地下にあるせいか、部屋の中は光が全くなく暗闇だった。
「うわ、真っ暗……明かりとかあるんですか?ランプとか……」
「本を燃やさないようにするために、火は使いません」
「え、じゃあどうやって本を探すんですか?」
「ここは光の神を奉る神殿ですよ。光魔法を使うんです」
そう言うと師匠は、片手を上げて小さく何か呟いた。
指先に小さな光が現れると、手を軽く振った。
光は分散されて壁際や天井に飛んでいき、辺りを明るく照らした。
「すごいですね!」
「これくらいは、光属性の基本ですよ」
私が両手を合わせて師匠を見上げると、師匠は照れくさそうに微笑んだ。
「そういえば、ルミナは何属性なの?」
「え、私?……そういえば、調べたことなかったわ」
ゲーム中では闇落ちしてたから、闇属性な気がするんだけど……でもあれはゲームヒロインと接触したことで目覚めたようなものだし。
それにゲームの中のルミナエリスは、普通に他の属性魔法を使えてたような……それでゲーム後半で、闇落ちしてたということは……本来は、違う属性?
「属性は、血筋や遺伝によることもあるから……親族に多い属性があるなら、その属性の可能性が高いかも」
「それって、親の属性も影響するの?」
「一説にはそう言われているわ。王族には光属性が多いのも、それが原因だって話を聞いたことがない?」
ルミナエリスの記憶を辿っていくと、王族はみんな金色っぽい色合いの人が、ほとんどが多くて光属性だったような気がする。
「あれ、もしかして外見も影響するってこと?」
「え、ええ」
ふと師匠を見ると、銀色の髪に金色の光……もう外見からして光属性という感じだった。
レミは紅茶色の髪と瞳で、炎っぽい。
「レミは、もしかして火属性?」
「もちろん、あたしは火属性が得意だけど、ルミナは……水?」
レミは私の瞳を見つめ、首を傾げた。
髪色が薄紫色だけど、瞳の色は深い碧色だから水っぽいといわれれば水のような気がしてきた。
そういえばお父様は、白い髪と私と同じ深い碧い瞳だった。
なんだか水っぽい気がするけど……お母様は、紫の髪だけど何属性なんだろう。
「属性の判定って、どうやってするのかしら?」
「だいたいは、練習しているうちに気づくけど……」
「練習しているうちにって……みんなそうなの?」
「一応神殿に、判定の魔方陣の描かれている部屋があって、そこである程度の識別ができるはずだけど……勝手に使えないの」
勝手に使えないということは、許可がいるということ。
ふと、神官長補佐をしている師匠の方を見た。
師匠は察したらしく、了承するように頷いた。
「後で属性判定、してみますか?」
「お願いします」
お世話になるのだから、頭を下げてお願いしておいた。
「わかりました。では、後で神官長に許可を取りますよ」
「ありがとうございます!」
「とりあえず、初心者向きの本が必要ですね」
師匠はだいたいの本の位置を把握しているらしく、迷いなく書庫の奥へ進んでいく。
その後をレミと2人でついていった。
「今のところは、これでいいでしょう」
師匠が本棚から引き出した本を受け取り表紙を見てみると"幼児でもわかる、やさしい魔法の入門書"とタイトルが書かれていた。
ちなみに確認のために捲ってみたら、イラスト付の子供向けっぽい本だった。
この本のタイトル、どこかで見た覚えがある。
どこだったっけと頭の中を探っていると、思い出した。
「これ、道具店においてあったアイテムと同じ名前?」
たしかゲーム中に出てくるアイテムで、基本のパラメーターを上げるのに使用するアイテムだった気がする。
消費アイテムで使用すると消滅してしまうけど、基本のパラメーターが少し上がるのよね。
え、でもこの本がここにあるってことは……ゲームヒロインはアイテムが使えないんじゃあ……。
「道具?たしかに本も道具ですが……」
「え、ああ。ごめんなさい、似たような本を昔見たことがある気がしたんだけど……気のせいかも」
まさか"この本ってたしか道具屋に置いてあった本ですよね"なんて言えくて、適当にごまかした。
「あの、この本ってずっとここに置いてあったんですよね?後で誰かに引き渡す予定とか……」
「神殿の書物は神殿の所有物ですから、簡単には引き渡せません」
「そうですよね」
それならどうして、消費アイテムとして道具屋に置いてあったんだろうと疑問に思った。
そもそもあの道具屋は不定期でお店を開けていて、店内にはランダムで5種類のアイテムが置いてあった。
書物系のアイテムは基本的にパラメーター小アップの消費アイテムで、アクセサリー類も身につけているだけで高感度が上がりやすくなるとかあったはず。
もしかしたら、私もアイテムを使えれば……そこまで考えて、自分はゲームヒロインとは違うという現実に気がついた。
だってゲーム中なら消費アイテムとして使われるけど、渡された本はただの本として存在している。
「ルミナ、どうかしたの?」
「え、ううん。なんでもないの」
「そう。何かあったら言ってね」
「ありがとう、レミ」
私の様子が変なのには気づいているらしいミレは、それ以上は何も言わなかった。
その気遣いが妙にくすぐったいようで嬉しかった。
「その本をよく読んできてください。実践と属性の判定は、その後にしますよ」
「わかりました、師匠」
受け取った本を大事に抱えると、レミと師匠に挨拶をして屋敷に帰った。