表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

目覚めれば、悪役令嬢。

 目を覚ますと、知らない部屋だった。


「ここ、どこ?」


 ベッドから起きて辺りを見渡すと、質の良い素材を使った家具に豪華な絨毯が敷かれた部屋。

 部屋の広さに相まってとても大きな窓からは、太陽の光が優しく降り注いでいる。


 開かれた窓から温かな春の風が吹いて、自分の髪が舞い上がった。

 風が収まると、目の端に自分の髪が肩から流れ落ちたのが見えた。


「薄紫の……髪?」


 まさか眠っているうちに、勝手に髪が染められているのかと疑ったけど、いくらなんでも目覚めていると思う。


「ということは……カツラ?」


 とりあえず、髪を引っ張ってみたら痛かったから違うと確信した。


「やっぱり地毛?」

 

 扉を叩く音が聞こえたから振り返ると、メイドみたいな格好の人がボールをトレイに乗せて扉を開いて、こちらを見ていた。

 なぜか私の方を見て、驚いたように固まっている。


「お、お嬢様!?目覚められたのですか?!」

「お嬢様って、私そんな年齢じゃあ……」

「もう3日も目覚められずに、心配したのですよ!」

「3日って、私そんなに眠って……あの、貴女誰ですか?」


 いきなり知らない人にお嬢様なんて言われて驚いたけど、それよりも目の前の見知らぬメイドさんだった。

 メイドさんは私の言葉に驚いて、すごく痛ましい者をみるような眼で私を見てくる。


「お嬢様、やはり記憶が混乱しておいでなのですね。すぐにお医者さまを呼んできますのでお待ちください!」


 メイドさんは、慌てて部屋から出て行った。

 部屋にある化粧台を見ると、とても綺麗な少女が映っていた。

 白い肌に薄紅色の唇、長い睫に彩られた


 もしかして幽霊が鏡に映っているのかもしれないと考えてしまい、怖くなった。

 そっと動くと、鏡の向こうの美少女も動いた。

 角度を確認して、手を振ってみると向こうも手を振ってくれた。


「……私?」


 頷いてみると、鏡の向こうの美少女も頷いた。


「あ、私だ………って、なんでどうなってるのよぉーっ?!?!」


 思わず頭を抱えて座り込んで、必死に記憶を手繰り寄せると、最後の記憶を思い出した。


 「たしか仕事帰りに……弟と偶然あって一緒に歩いていたら、女の人が、ぶつかってきて……血が滴っていて……救急車で……」


 驚きすぎて痛みなんて解らなかったけど、強烈な熱さはあった。

 おそらくだけど、女の人に後ろから刺されて救急車に乗せられたんだっけ。

 そこで意識が薄らいで、完全に先の記憶がない。


 がんばって記憶を手繰り寄せていく。

 あの女の人、たしか何か叫んでいた気がする。

 かなり興奮してきて聞き取りにくかったけど、なんかすごい言葉を言っていた気がする。


「……泥棒猫?私の彼を、返せ……?」


 あれ、これって、あれじゃないかな……女たらしが、背後から女に刺される時みたいな。


「ちょっと待って……私、喪女なのに彼氏ってどういうことよ!?」


 自慢じゃないけど、女子高女子大育ちの彼氏居ない歴=年齢の私に、彼氏返せ泥棒猫?!

 これ、完全に勘違いで刺されたってことじゃない!!


「じゃあ、この姿はいったい……それにしても、この女の子、どこかで見覚えがあるような……?」


 とても整った人形のような顔立ちに、とても綺麗な薄紫の髪と、深い青い瞳がとても印象的な美しい少女だった。

 この部屋も着ている服も、かなり上質な物で……まるでどこかの貴族みたい。


 部屋の扉が開いて、さっき出て行ったメイドさんの他に執事っぽい人と、紫色の髪の綺麗な女の人、それに医者みたいな白い服を着た人が部屋に入ってきた。

 紫色の髪の綺麗な女の人は、涙を浮かべながら抱きついてきた。

 柔らかくて、良い匂いがして、なぜかとても落ち着く。


「目覚めたのね、ルミナ!お母さま、とても心配したのよ!!」

「お、かあさま?」


 いきなり母と言われて、反応に困ったけど……それよりも、ルミナエリスという名前に聞き覚えがある。

 どこかだっけと考えていると、お医者さんらしき人が色々な質問をしてきた。

 何を言っているのかさっぱり解らなくて、解らないと答えていると、困っていた。


 最後に名前を聞かれたけど、自分の今の外見を見てしまったせいか、正直に言ってはいけない気がした。

 だから首を傾げていると、お医者さんらしき人は溜息をついた。


「お嬢様は、大変混乱しているようですね。おそらくですが、事故による記憶障害で記憶が失われているかと思われます」

「そんな……では娘、ルミナは、このままなのでしょうか?」


 ふと、ルミナというのは愛称かもしれないと気づいた。

 あれ、似たような名前を聞いた気がする。


「ルミナ……ルミナ…ルミナ、エリス?」


 私が呟くと、母親らしき人は驚いたように目を見開いた後、泣きながら抱きついてきた。


「そうよ、貴女はルミナエリス!お名前、ちゃんとわかるかしら?」


 まさかまさかと思いながら、恐る恐る心当たりのある名前を言ってみた。


「……ル、ルミナエリス……エルミナ・レッドフィール?」


 抱きついている母親らしき人は、何度も頷いた。

 お医者さんらしき人は、どこか安心したような笑みを浮かべ、周りの人たちも喜んでいる。


「名前を思い出せたということは、一時的なもののようですね。時間が経てば、自然と思い出せるでしょう」

「良かったわぁ……もう、ルミナは心配ばかりさせて」


 周りは歓喜の空気だったけど、私はそれどころじゃなかった。

 冷や汗が滝のように流れ、どうしたらいいんだろうと悩んでいた。


 だってこれは、私が最後にした乙女ゲームの悪役令嬢のキャラ名。

 ゲーム中の年齢よりもずっと幼く見えるけど、たしかにこんな外見をしていた。


 でもあのキャラは、ストーリーでは最後に国家反逆罪で首切りの刑になっていたはずで……。


 あれ、ストーリーってことは……それ、運命みたいなものじゃない?

 だってあのキャラが最後に生存してるルートってなかったはず。


 たしか、ゲームヒロインと接触することで闇属性に目覚めて……いわゆる闇落ちした悪役令嬢。


 つまりゲームヒロイン登場で、私は死ぬ確定の運命ということ。


 あ、私終わってる……と思ったと同時に気を失ってしまい、ふらりとベッドに倒れこんでしまった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ