4話 大和、困惑する の巻
-
--
それから1年後の大和が10歳の時、それは唐突に起こった。
「「「あけましておめでとうございます」」」
富士山家一同が集まる正月、恒例の挨拶を終えおせち料理に箸を伸ばしかけた大和の動きを止めたのは妹の撫子の発言であった。
「お父さん、突然で悪いんだけど私と組み手して下さい」
「……何故だ、撫子?」
「組み手をしていただければ分かります」
そう言い撫子は大地の目を真っ直ぐに見つめる。
「…………よかろう、すぐ準備しなさい」
「ー!?
ちょっ、父さん、無茶だ!
撫子は武術を何も学んでいないんだよ!!」
「そんなことは分かっておる!
それでも尚撫子から申し出ているんだ、何か意図でもあるのだろう。
撫子!準備ができたらいつもの修練場へ来なさい。
私は先に行って待っておるぞ」
そう言うと大地は足早にその場を立ち去る。
「そんなっ……
撫子!なんで急にそんなこと言い出すんだ!!
稽古といえど父さんは本気でやる…
大怪我するかもしれないんだぞっ!!」
大和は妹の肩を掴み、考え直すよう説得しようとするが返ってきたのは見たこともない穏やかな微笑みであった。
「…兄ぃ、心配してくれてありがと。
でも大丈夫、兄ぃの心配しているようなことはきっと起こらないから…」
そう大和に宣言し、いつも大地と大和が稽古している庭園へと移動し始める。
「---もうあんな辛い生活をおくらなくていいからね---」
その妹の呟きは大和に届くことはなかった…