3話 大和、己を鍛えるが… の巻
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大和は待望の跡取り男子が産まれたということもあり、一家一同皆喜んだ。
また幼い頃から頭も良く、大地に似て体も大きかった大和は、富士山家の名を更なるものにしてくれると大きな期待が寄せられた。
大和もその期待に応えようと一心不乱に稽古を積み重ねてきた。
だが英雄の子供が全て英雄になれないように、大和もまた父・大地のような英雄足る力をつけることはできなかった。
決して頭が悪いわけではない、むしろ頭脳は明晰であろう。
運動神経も劣ってはいない。
ただ“魔術を扱うセンス”が圧倒的に足りていなかったのだ…
いつまでも魔術の技術が向上しない大和に対し、はじめこそ温かな目で見守っていた皆も次第に落胆の色を露わにしていった。
父・大地でさえもあまりの才の無さに稽古中も必要以上の罵倒を繰り返す日々であった。
だが大和は腐らなかった。
いくら皆に失望されようとも日々の修練を疎かにする事はなく、それどころか父親との修練後も自主練に明け暮れる日々を送り続けた。
『必ず富士山家の当主に相応しい力をつける』
この想いを胸にひたすら努力を続けていた。
そんな大和が9歳の頃、いつもと同じ様に父との稽古の後の自主練に取り組んでいた時、庭の縁側に座りながら兄・大和の修練を見ていた双子の妹の撫子が大和に声をかけた。
「ねぇ兄ぃ、なんで兄ぃは毎日毎日そんなに修行してるの?
兄ぃの同級生は皆もっと遊んでて楽しそうにしてるよ」
撫子の疑問は最もだった。
端から見ても大和の修練は異常である。
友達と遊ばず、学校が終わると真っ直ぐに家に帰り大地との稽古に励む。
その後は今日と同じ様に日が暮れるまでひたすら修練する。
そんな毎日を繰り返す大和は、子供らしい青春は全く過ごさず、ただただ武道に己を捧げている。
そんな兄の生き方を撫子は悲しい思いで見守っていたのだ。
「なぁ撫子…
気付いてると思うけど俺には父さんみたいな才能はないんだ。
皆が影で俺の事を笑っていることも富士山家の将来を嘆いていることも知ってる」
「……兄ぃ」
「でもな、だからといって俺が努力する事をやめてしまったら俺はこれ以上絶対に強くなれないだろ。
俺が弱いままだと将来富士山家の皆も護れない。
だから俺は今より少しでも強くなるために、修練を怠るわけにはいかないんだよ」
「そしたら兄ぃは皆に強さを認めてもらうまで今みたいな生活を続けるの!?」
「…そうかもな」
「そんなの兄ぃだけ辛すぎるよっ!」
「ありがとな、撫子…
そしたら撫子は少しでも早く兄ちゃんが強くなれるように応援してくれよ」
「兄ぃ……」
大和の決意を聞いた撫子は言葉を失い、目に涙を浮かべる。
そして大和に背を向けて足早にその場を立ち去ってしまった。
そんな撫子の後ろ姿を見守りつつ大和は一人つぶやく
「撫子…
撫子には分かんなかったかな、男の生き方って奴は。
よし、早く撫子を安心させれるように強くなるか!」
そして大和は再び修練へと戻るのであった---