2話 その男子、大和と申す の巻
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「はぁ、はぁ、、、不味いな。
完全に甘く見てた、まさかこれほどとだなんて…」
木々の葉が生い茂る森の中で一人の少年の呟きが響き渡る。
「くそっ、出口はどっちなんだよ…」
歳は15,6歳ぐらいであろうか、まだ幼さも残る顔立ちをしたその少年は、誰も答えてはくれないであろう質問を独りごちる。
長身痩躯のその肉体は引き締まった筋肉で構成されており、傍目から見ても鍛え上げられているのが目にとれた。
だが今はその自慢の肉体も所々に傷を負い、満身創痍といったところである。
そんな状態でそう動き回れるべくもなく、遂に限界がきたのかその少年は近くにある大木にもたれながら座り込んでしまった。
「くそっ…もう歩けねぇ。
血を流しすぎたし足も挫いちまった。
なんとか日が暮れる前にこの森を出ないとまずいってのに…」
少年は少しでも体力を回復させようと目を瞑り呼吸を整える。
目を閉じた瞼の裏には、この森に入る前の今朝の父親とのやり取りが映し出されていた…
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「馬鹿者!!何故こんな簡単な事ができんのだ!!!」
40歳後半と思われる壮年の男性が叱咤する。
背は高く筋骨隆々のその男はまさに鋼のような肉体の持ち主であり、そんな男が憤怒の形相で仁王立ちする姿は万人を平伏せさせるほどの覇気を放っていた。
「相変わらず筋が悪い奴だ、おまえは。
こんな事は妹の撫子はとうの昔にできておったわ」
力尽きているのだろうか、膝をつき、うなだれている少年に向かい更なる“口撃”は続く。
「とっとと立たんか、大和!!
お前みたいな魔術もろくに使えん奴が休むなどおこがましいわ!!!
それでも儂の子か!!」
大和と呼ばれた少年は容赦ない罵倒浴びせられ、反発心が生まれたのであろう、ゆっくりと顔を上げ目の前にいる男を睨みつける。
体は動かずとも、その両目には反骨の光をありありと写し出していた。
「ふんっ!
目だけは一丁前のつもりか!
悔しくばこの父に一撃でもいれてみんかっ!!」
「……くっそ……」
大和は震える膝に活を入れながら立ち上がると、一矢報いんと力を振り絞り父・大地へと組み手を再開する--
--が結局最後まで体に触れることすらできず朝稽古の時間は終了した。
「はぁはぁはぁ…」
稽古の時間は終わったが全ての力を使い切ったのか、大和は体を大の字にして寝転んだまま起き上がることができなかった。
呼吸を整えしばらく体力の回復に努めていた大和だが、不意に人影を感じ目を開けると、そこには既に身仕度を整え終わった大地が大和を見下ろしていた。
~富士山 大地~
富士山家はこの日本大陸のちょうど中心に位置する駿河国の名家である。
大地はその現当主を担っており、日本大陸で知らない者はいないほどの有数の実力者でもある。
大和とその双子の妹である撫子の父である。
~富士山 大和~
大地の息子であり、現在中学3年生。
元次期富士山家の当主という立場であったが、現在は諸事情により妹の撫子にその座は奪われている。