表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

折血の残花

作者: 谷影栄一

 灰歴2022年


 街の全景を、見ておきたかった。

 高台にかがり火を作り、ツバキは眼前に拡がる景色を眺めている。下ったところの橋を渡れば、街へと入れるようだった。

 立ちあがると、火の熱がいくらか遠のく。それだけで、寒さというより、痛さが躰に入りこんでくる。

 雪が、降り続けている。

 常夜の街。綺麗な月の光に輪郭を縁どられ、そして、不死が住む国。本来、不死は人間と共栄できない。人間の血を得なければ、不死はその命を持続させられないのだ。殺される側の人間は、対抗するべく、つまり不死を殺すべく、試行錯誤を繰り返してきた。恐怖を闘志に塗りかえ、才覚を技術に託し、洗練させてきた。

 その研鑽の歴史を笑うかのように、この街はある。単純なもので、取引をしたのだ。少数の人間を渡す対価として、多数を守ってもらう。それほどまでに、不死の力というものは絶大だった。幾度と世代を越え、この街はながらえてきたのだ。

 街明かりが見える。ここに住む人々は、それなりに幸せなのだろう。

 だからといって、引き返すことはない。命じられたことを、ただするだけだ。

「出てきなよ、こわがり屋さん」

 刀を抜き、ツバキは気を放つ。この距離でも、不死ならわかるだろう。殺すというよりは、喧嘩を吹っかけていた。

 その喧嘩を買われた、と思った。

 街の奥にある、巨大な建造物。聖堂のような趣向だが、実際のところはわからない。

 その建物全体を、黒いなにかが包んできていた。それは、蛇のように纏わりついたかと思えば、頂上あたりから翼らしき影が生えてくる。

 間違いなく、不死があそこにいる。それも、だいぶ自信家のようだ。ツバキを殺せると、疑っていない。あれだけ巨大なら、それも当然かとツバキは思った。きっと、あの場から動くこともないだろう。

 不死を殺す。その覚悟を決めながら、ツバキは橋を見た。

 対岸に、不死がいる。彼らが闇とするなら、自分たちのような存在は光なのだろうか。

 くだらないことを考えたと、ツバキはかすかに笑う。

 寒さは、もう感じなかった。


挿絵(By みてみん)

―――――――――――――――――――――――――

イラストは 西藤 様に描いていただきました。

https://www.pixiv.net/member.php?id=156421

https://twitter.com/nisihuji

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ