折血の残花
灰歴2022年
街の全景を、見ておきたかった。
高台にかがり火を作り、ツバキは眼前に拡がる景色を眺めている。下ったところの橋を渡れば、街へと入れるようだった。
立ちあがると、火の熱がいくらか遠のく。それだけで、寒さというより、痛さが躰に入りこんでくる。
雪が、降り続けている。
常夜の街。綺麗な月の光に輪郭を縁どられ、そして、不死が住む国。本来、不死は人間と共栄できない。人間の血を得なければ、不死はその命を持続させられないのだ。殺される側の人間は、対抗するべく、つまり不死を殺すべく、試行錯誤を繰り返してきた。恐怖を闘志に塗りかえ、才覚を技術に託し、洗練させてきた。
その研鑽の歴史を笑うかのように、この街はある。単純なもので、取引をしたのだ。少数の人間を渡す対価として、多数を守ってもらう。それほどまでに、不死の力というものは絶大だった。幾度と世代を越え、この街はながらえてきたのだ。
街明かりが見える。ここに住む人々は、それなりに幸せなのだろう。
だからといって、引き返すことはない。命じられたことを、ただするだけだ。
「出てきなよ、こわがり屋さん」
刀を抜き、ツバキは気を放つ。この距離でも、不死ならわかるだろう。殺すというよりは、喧嘩を吹っかけていた。
その喧嘩を買われた、と思った。
街の奥にある、巨大な建造物。聖堂のような趣向だが、実際のところはわからない。
その建物全体を、黒いなにかが包んできていた。それは、蛇のように纏わりついたかと思えば、頂上あたりから翼らしき影が生えてくる。
間違いなく、不死があそこにいる。それも、だいぶ自信家のようだ。ツバキを殺せると、疑っていない。あれだけ巨大なら、それも当然かとツバキは思った。きっと、あの場から動くこともないだろう。
不死を殺す。その覚悟を決めながら、ツバキは橋を見た。
対岸に、不死がいる。彼らが闇とするなら、自分たちのような存在は光なのだろうか。
くだらないことを考えたと、ツバキはかすかに笑う。
寒さは、もう感じなかった。
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イラストは 西藤 様に描いていただきました。
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