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破滅のエトワール  作者: ペペペルチーノ!
破滅の力を担う剣士
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「戻ろう」

「うん」


 アリアが万華鏡を机の上に戻す。何も見なかったことにして、僕らは地下室を抜けた。アリアの明かりを頼りに、また来た道を戻る。くぐってきた床の隠し扉を開け、家の中へ。地下室ではそこそこの時間を過ごしたが、まだデュースさんは帰ってきていない。地下室で見た物のせいでか、否が応でも、家の小物小物が気になってくる。アリアと二人で座り、きょろょろと周囲を見渡す。


 ――小さな肖像画。


 写っている男性は、デュースさんの若い頃だろうか? 優しげな目元が似ている気がする。そしてその隣に写っている女のひとは……。

 どん! と扉が開く。

 デュースさんが帰ってきた。


「ヴァルフレアが咲いておったぞ! これで研究が進む! ふははは!」


 全身で喜びを表現するデュースさんも横目に、僕らは盛り上がれないでいる。


「……む? どうした二人とも。あまり元気ではなさそうじゃが?」


 訝しむ様子。もう、思い切って聞いてみることにした。


「デュースさん。あの、僕たち、地下室にこっそり入ったんですが……」


 なんと、と眉間に皺が寄る。


「その、そこで人間の腕を見つけたんです。あれってなんですか?」

「む、あれのことか。あれはわしの腕じゃな」

「デュースさんの?」

「ほれ、わしの腕を触ってみなされ」


 差し出される腕にこわごわと触れる。


「じじいは今セクハラをされておるな」など言ってくるがまったく和まない。アリアも参加した。二人そろってデュースさんの腕をもむ、珍妙な風景。

「わかったかの?」

「これ……義手ですか? そのわりにはずいぶんと本物と違わない」

「わしもそこらの魔術師には負けないと自負しておってな。これは正真正銘義手じゃ。錬金術による技術の結晶じゃな。そして地下にあったのは非常事態に備えてわしの腕に魔力を込めておるものじゃ。別に誰かの腕を奪って解剖しているわけではないぞ?」


 それを聞いてほっとする。人の体の一部が培養液に浮いていると……どうしようもなく、禁忌感を感じてしまうのだ。たぶん、この感覚は一般的なものだと思うし、アリアも似たようなことを思っただろう。


「それはいいとしてじゃ、アリア」

「は、はい」

「地下室は危険なものがあるから入ってはならぬとわしは言ったはずじゃな?」

「ご、ごめんなさい……」


 しゅん、と子供のように頭を垂れるアリア。よくよく考えてみれば僕たちの行動は無礼だったと思う。


「すみませんデュースさん。僕もその……」

「どうせアリアに引っ張られてついていったんじゃろ。まあ、いい。今度からこういうことがなければわしとしてはいいし、おぬしらは無傷で帰ってきたからのう。なにかが起こってからでは遅いのじゃ」


 どこまでも優しい口調に罪悪感を感じる。軽い気持ちで入ってしまったが、想像以上に危険な場所だったらしい。


「それはそうとしてじゃ!」


 パン! とデュースさんが手を叩く。暗い雰囲気は終わりだとでもいうかのように。


「二人は付き合っておるのか?」


 にやにやと好々爺のような表情が飛び出す。いたずらを考えるときの子供みたいな。

 僕とアリアは顔を見合わせる。そしてお互い困ったような顔をした。


「いえ、まったくそんな感じではないです」

「長付き合いの友人って感じだもんね~」


 そんな感じだ。僕らはお互いをもっとも信用にたる人物と認定している。悩み事があれば助け合うし、そんな気の置けない関係だ。……ただ、僕の場合は小さい頃に彼女にたすけてもらったという思いがあるから、親愛の幅が大きいとは思うが。


「本当なのかのう~?」


 嘘なんぞ通じないぞ、とでもいうように笑いながらデュースさんが言ってくる。

 僕らは困った顔をした。


「なんじゃ、くそつまらんの。それでも若い男女か」

「そもそも僕たち、六年間出会ってなくて、つい一週間前に再会したばかりですし」

「一日目から始まる恋もある」

「なんかそういう目で見れなくて……」


 ふん、と鼻息を荒くする。

 くそつまらん! という顔だ。

 そもそも! わしはアリアがエトのことを好きなのかと思って一緒に冒険したらどうなのかと聞いたのに、とんだ空回りじゃったのか、なんてことをくどくどと言った。

 幼馴染のような関係なので仕方がない。仲良しという関係がちょうどいいのだ。もし彼女が男と結婚するようなことがあれば……彼女のお父さんと一緒に泣くとは思うけど。そんなこんなでドタバタは終わる。ふとさっき見た小さな肖像画が気になって、そちらを見やると

「気になるかの?」とデュースさんが聞いてきた。こくり、と僕は頷く。

「これはわしの若いころのやつじゃな」

「じゃあ、こっちの女の人は?」

「わしの妹じゃ。お兄ちゃん大好き! が口癖じゃったな。これは嘘じゃが」

「ははは」

「まあ、かわいい妹じゃったよ」


 じゃあ、今はどこにいるんですか? と聞こうとして、やめた。

あまり、これ以上喋りたくなさそうだった。辛そうな、表情をしていた。たぶん、踏み込むべきではない話題だった。


「そろそろ僕、帰りますね」

「おお、また来るがよい」

「じゃあねー! エトー!」


 僕は、デュースさんの家をあとへ。扉を開いて、ただっぴろい野原を見渡す。そこに、ポツンと赤茶色の人物。少年だった。その赤茶色の少年がゆっくりとこちらまで歩いてくる。なんだろう、と思って声をかけようとしたがなんとなくためらわれる。そしてついにその少年は僕の目の前立った。気の強そうな、目つきをしていた。じっ、とこちらを観察するように見つめてくる。そしてぎらりと目を輝かせ、こう言った。




「――ついに見つけた」


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