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破滅のエトワール  作者: ペペペルチーノ!
破滅の力を担う剣士
2/23

2 迷探偵?

 僕はあれから力をつけた。

 おじいちゃんの言葉を守りつつ、強くなって、そして孤独でない強者になった。田舎である村を離れ、都市で自らを鍛える。

 そして――今、僕は七年ぶりの帰郷をしていた。


「エト、起きてー」


 目を開けば、自分の家の天井が見える。

 僕を呼ぶ声が、かすかに聞こえる。

 だから起きなきゃな、とゆっくり身を起こした。


「ちょっと待ってて、アリア!」


 家の外に待っているであろう幼馴染を待たせないために、僕は素早く身支度を整える。自分の武器を探して、ああそんなものもういらないんだっけか、と苦笑。どうにも昔の癖が抜けていない。テキパキと着替えを終え、扉の前に立つ。開けば彼女が目の前にいる。ささやかな日常風景。そんなものに幸福感を感じ、穏やかに息を吐いた。


 さて、扉を開けるとしよう。


「どーん!」


 そういったのは僕ではない。声と同時に開け放たれる扉。どや顔で仁王立ちの彼女。道場破りでもするかのように元気よく扉を開け放ってきた彼女はこう言った。


「びっくりした?」

「いい目覚ましだったよ」

「へへへ、お寝坊さんにはちょうど良かったかも」


 さ、いこっ、と笑顔で彼女が言う。

 その場でくるりと、反転。その性格を象徴しているかのように飛び跳ねた亜麻色の髪が、甘い匂いを運んでくる。


 ごほん、と僕は咳払い。


「こんな朝早くからデュースさんのところにいくのって迷惑じゃない?」

「いいのいいの。お師匠様はお歳がおじいちゃんだから、早起きしてるって」

「その理論を信じていいの?」


 老魔術師のデュースさんは目の前の彼女の師だ。

 なんでもものすごく魔道に長けていて、もう物凄いのだとか(彼女がそう言っていた)。……実際、僕の目から見ても彼はすごい人だし、年齢のせいもあってか博識だ。とてもおだやかなひとで、そういうところが僕のおじいちゃんと似ていて……結構好きだったりする。


 僕らはおだやかな村の道を歩いていく。

 デュースさんの家は村民から離れた場所にある。魔術師はひとが寄り付かないところに住むものだ、というのが彼の意見だ。


「お、アリアちゃん、また魔術師様のところかい?」


 その道中、声をかけられる。


「あ、おじさん! パンちょうだい!」


 当然のように彼女は手を差し出した。

 へへへ、その言葉を待ってたぜ、とおじさんは晴れやかに言う。彼は火の魔法を使ってパンを作る、パン職人だ。なんでもその火は普通のものとは異質でことなるのだとか。この村はわりと変わった魔法のようなものを使える人が多い。戦闘に使いにくい、特殊な魔法だ。例えば歌うと植物の成長が少し早まっていい実がなる……なんてものは、この村の魔法の代表例だろう。


「おじさんありがとー」

「へへへ、どういたしましてだぜ。今回のは自信作だ! 頭ぶっ飛ぶぐらいうまいぞ!」


 僕は軽く会釈。


「お? エトもうここに慣れたか?」


 とおじさんは笑顔で言ってくる。

 凶悪な面構えだ。目つき悪いし、口元なんて悪魔が獲物を狙う表情のそれだ。パン屋のおじさんは子供が苦手なことで有名だ。理由は顔が怖すぎて、子供によく泣かれるからなんだとか。彼自身は気のよい中年なのだが、たしかにインパクトはある。今の笑顔は印象を変えようと努力した証で、昔はあまり笑わない性格だったようだ。だから、昔と比べると子供に泣かれる頻度は少なくなったらしい。たまに泣かれるぐらいには怖い笑顔ということだ。


「おかげさまで馴染めてます」

「それはいいことだな! そんなラッキーボーイには俺の作ったパンをやろう!」


 もうなにを言ってもパンをくれそうな彼は、僕にはパンをおしつけ、元気よく去っていった。

 パンをほおばりながら僕は言う。


「嵐のような人だったね」

「使う属性は炎だけどね」


 たしかに。


「空が私の心を映しているかのように晴れやかだ!」


 パンをもらえて機嫌がよさそうな彼女。


「この分だと曇るのはずいぶんと先になりそうだね」

「さっき嵐のようなおじさんが来てくれたからねー」

「人生楽しそうでなによりだよ」

「もっと褒めるがよい」


 一定して快晴の心をもつ彼女は、ひとの好意を素直に受け取りやすい気質だ。嬉しいことがあれば嬉しそうにする。そういう反応が見ていて爽快だし、なんとなくこちらも影響されてしまう。心地よく引っ張られるみたいに。


「あ、デュースさんの家が見えたよ」

「見えたね」

「競争だ!」

「え?」


 短くなったパンを口に詰め込み、彼女は突然走り出した。彼女の前世は少年かなにかなのだと思う。僕も彼女を追うためにパンを口に詰め、一気に地を駆ける。すぐに追いつく。並んで目が合う。もぐもぐと食べたあとに飲み込み、口を開く彼女。


「食べながら走っちゃいけないって教わらなかったの!」

「立ち食いはだめって教わったけど、走りながらはだめって特に言われなかったよ!」

「卑怯だ! 解釈の曲解だ!」

「そういう君もね!」


 そんなことをしながらデュースさんの家にたどり着いた。

 先に着いたのは僕だ。二人でふう、と一息をつく。なんで子供みたいに躍起になってこんなに疲れているんだろうと思ったが、それは彼女のせいということにしておこう。


「ふうー、エトもなかなかやるねー。私だって冒険にでれるように体は鍛えたつもりなんだけど」

「都市にいって修行してきた時間は無駄じゃなかったってことさ」

「ずいぶんたくましくなったもんね、雰囲気はいまだにおとなしそうだけど」

「身長も君を追い越したしね」

「なんだと!?」


 文句が来そうな雰囲気を避けるべく、僕は家の扉をたたく。


「あと二、三年で追い越してやる!」と隣で彼女が言っているが、残念ながら十六という歳ではほぼ不可能だと思うし、女の子としてはそのぐらいの身長でちょうどいいので伸びる必要はないと思う。


 扉の向こうから人の気配。

 待っていると、まさに魔術師、といった風貌の白いひげのおじいさんが現れた。デュースさんだ。


「おお、お二人さん朝から早いのお。……なんでだか、疲れてはおらんか?」

「はい、実は――」

「まてまて! 当てて見せよう!」


 額に指をあて、考え込む彼は、さながら探偵のよう。

 しかし、お互い十六にもなる男女が何の目的もなく競争をして走ってきたからという理由はどうにも当てづらそうだ。

 ふむ……そうじゃな、とデュースさんがアリアを見る。


「考えるに、二人はわしのことが大好きだから先についたほうが――」

「はいはい、違うから中はいるねー」


 さー、と彼女はデュースさんの家に入っていく。

 さすがは弟子というべきか、無駄のない身のこなしだった。


「……最近の若者は年寄りをいたわる気持ちが足りんと思うのじゃ」

「五十歩百歩です」

「そうかの?」

「そうですよ」


 計算が間違っていると思うのじゃが、とデュースさんは静かに言う。

 彼がいうに、計算は魔術師の専売特許のようなので、真面目なときはいうことをちゃんと聞いておいたほうがよさそうではある。


 

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