名もなき世界
「これは愛だ 違う ただの葡萄酒だ」
どこかで言い争う声が聞こえる
彼らの口から出た煙草の煙も 囁いた恋の詩も
地球の裏側からのミサイルに もみ消される
完全体で 限りなく球に近い世界で
死んでもなお 罵られるフレディ・マーキュリー
彼の遺書には
「この先通行止め 神はいない」と添え書きが
「これは憎しみだ 違う 愛を分かちあっているだけだ」
どこからか口論が聞こえてくる
紫紺の窓ガラスを叩く夜風も 歌い上げた恋の唄も
地球の真ん中に落ちるミサイルに かき消される
沈まない太陽が 焼きつける世界で
棺に入り まだ傷つけられるデヴィッド・ボウイ
彼の遺書には
「この先進入禁止 神を見るべからず」とメモが
レリジョンと肉体の狭間で
僕らは踊り 踊らされ
レリジョンと官能の狭間で
僕らは迷い 迷わされ
深い海の底 しのび込む真理の音
深い森の奥 晦ませる神秘の光
深い空の果て とどろき渡る奇跡の音
深い闇の先 輝き続ける太古の光
悪い夢にうなされる 赤子のような世界で
土葬される前に 罵倒されるマドンナ
彼女の遺書には
「この先一本道 選ばれし者は前へ」と走り書きが
レリジョンと欲望の狭間で
僕らは秤にかけられて
レリジョンと真実の狭間で
僕らは苦悩にのたうち
レリジョンと情欲の狭間で
僕らは歓びを見て
レリジョンと愛情の狭間で
僕らはさまよいながら
「何か」を見つけ出そうとしている 名前のない「何か」を
「何か」を探し出そうとしている 名もなき世界の「何か」を