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6 ゴートゥ

Go to. 特定のプログラム行にジャンプするコマンド。

 麻里は玄関の扉を開けて、何気ない雰囲気を装い、社宅の周りをぐるりと回る。研究所のほうはまだ明かりがついている部屋も多く、街灯が夜を照らしている。社宅の周りはかなり暗く、目が慣れるまでに時間がかかった。まわりに誰もいないことを確認すると、玄関の扉を開いた。アレックスが中から、おぼつかない足取りで出てくる。

 怪しまれないよう、2人は普段着のままで、ほぼ手ぶらだった。麻里は肩かけカバンに入るだけの荷物を詰め、アレックスは腰にポシェットを巻いた。麻里はともかく、アレックスの郊外への外出は禁じられている。今の時間帯なら、社内の自販機に寄る、くらいしか口実がない。

 タクシーを呼び出した場所まで歩こうとしたとき、前方から声がした。

「どこに行く」

 夜の闇に、人の影が現れた。影、としか言いようがない。長身痩躯の、人ならざる者。

 麻里は思わず声を上げた。いまの状況でなくても、夜にこんな男を見れば誰だって驚く。ナーヴ、とアレックスが緊張もなしにつぶやく。

「どこに行く。今のお前の立場、知らないわけでもないだろう」

 ゆっくりと顔が浮かび上がる。ナーヴは淡々と尋ねるが、ほぼ闇の中から声が漏れてきているようにしか見えない。麻里がどうしようかと焦っていると、アレックスが麻里の腕をつかんだ。

「ちょっと夜の散歩さ。あんたも一緒に来るか?」

 ナーヴは表情を変えずにこちらを見つめていた。雰囲気が読めない。おそらくほとんど変わっていない。

 麻里は一瞬、物理的にナーヴを黙らせるという選択肢も考えたが、それは逃げ出すことよりも無謀のように思えた。片腕を負傷中とはいえ、ナーヴの存在感は恐ろしい。素人の麻里から見て、さっぱり逃げ出せそうもない。

 ナーヴは長い間ふたりを観察していたが、やがてやや視線をずらした。

「遠慮しておく」

 少しだけ緊張がゆるんだように感じる。

「散歩なら仕方がない。早く戻ってこい」

 そう言って、ナーヴは踵を返し、静かに社宅の裏に引っ込んでいく。麻里は緊張を切らさずに、ナーヴのあとを注視した。アレックスにぐいと腕を引っ張られる。

「行くぞ」

「え、なに今の」

「いいんだよたぶん。あいつはきっとここで見張ってるだけだ。それよりセキュリティはそんなに厳しくないけど、夜も働いてる連中が多い。見つからないようにだけはしないと」

 目的の場所に歩いている間、ほとんど無言だった。緊張もあったし、これから何をするかはすでに話し合っていたので、言葉を交わす必要もなかった。ただ早足で歩く。見つかったときに不自然でないように、細心の注意を払いながら。アレックスはだいぶ無理をしているようで、途中から体を引きずりながら歩いていた。麻里が手を貸しても邪魔になるだけだったので、もどかしく感じる。一度、アレックスは地面に思い切り倒れたあと、歯を食いしばって立ち上がり、また黙々と歩いた。いまするべきことは、とにかく進むことだった。

 いつもの待合場所に、呼んでいたタクシーが待機していた。素早く乗り込み、高速道路を一気に走る。あとは運転手にまかせるしかなく、車内であせってもしかたない。麻里は気持ちを抑え、2人は沈黙を保った。アレックスはほぼ眠っている状態だった。


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