表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/30

インクルード

7歳のマリの家にやってきたヒューマノイドロボットは、白い肌と金色の髪の男だった

 その男は見たこともない、白い顔をしていた。見たこともない金色の髪で、目は不気味に青白く、真っ白な身体から放たれる雰囲気がどこかおかしかった。背はすらっと高く、自宅のリビングが急に狭く感じられた。あとから考えればそれは単純な、初めて欧米人を見たときの日本人の感想で、麻里(まり)は当時7歳だった。

 麻里の祖父である信太郎(しんたろう)が、外かその白い顔の男をつれてくる。リビングの中に入ってきた男を見て、麻里は遠慮なく目を見開いた。世の中にこんな人間がいるということが信じられなかった。白衣を着た信太郎は横でニコニコと笑っている。

「麻里、このまえ話したじゃろ。今日から一緒に住むアレックスじゃ」

 麻里はふたりを見上げた。アレックスという白い男は麻里を見つめ、すっと笑顔になった。男は手を差し出してきたが、麻里は恐ろしかったのでとりあえず頭を下げておいた。

 信太郎とアレックスは麻里の様子を見ると、早々に家の奥へと入っていった。ぼんやりとその背中を見つめる。7歳の麻里には、まだ状況がよくつかめていない。

 麻里の隣で、ぶん、とプロジェクタが起動する音が聞こえた。突然、隣の壁に女性の姿が映し出される。

〈変な男ねえ〉

 壁の女性は眉をひそめてぼやいた。麻里も同じことを思っていたので少し安堵する。

「だれ、あれ?」

〈あなたのおじいちゃんの知り合いよ。これから一緒に住むんですって。日本には初めて来たらしいわ〉

 女性が頬をふくらませる。確かに彼と一緒に住むのは色々と大変そうだ。

〈あれでもロボットなのよねえ。驚きだわ〉

 ロボット? と麻里がオウム返しにつぶやく。ロボットと言えば、コロコロした犬型のおもちゃとか、道案内をする、人間とは似つかない置き物のことではないのか。

〈そうよ、ロボット。私も一応、ロボットの仲間だけど、わかるわよね?〉

 壁に映った女性が首を傾げる。彼女――リーブラの姿はプロジェクタによって壁に映されていた。音声も天井のスピーカから届いている。麻里は彼女と、さっきの男の共通点を探そうとした。彼女はエプロンを来た長いブラウンの髪で、アレックスという男はTシャツにジーンズという出で立ちだった。性別はもちろん、姿かたちのあり方から違っている。麻里は手をぱんと叩いた。

「ロボットって、外国の人ってこと?」

 リーブラが〈そういうわけじゃないんだけど〉と眉をひそめる。彼女とはずっと一緒に暮らしているが、リーブラがロボット、という事実はピンと来ない。

 麻里は単純に考えた。アレックスという男もロボットなら、リーブラと同じく良い人のはずである。リーブラは口うるさいし、時々ものすごい剣幕で怒ってきたりするが、それ意外は優しいお姉さんといった感じだ。リーブラがロボット、リーブラは良い人。つまりロボットイコール良い人だろう。麻里の頭の中ではすっかり等式ができあがっていた。

 しばらくして、家の奥で案内をしていた2人が戻ってきた。アレックスの表情は幾分やわらかくなっているようだ。しかし再び彼の顔を見ると、それはそれで気持ちが悪い気もした。祖父の信太郎が麻里に手招きをする。

「麻里、これからアレックスが買い物に行くんじゃ。スーパーまでおまえが案内しなさい」

 買い物は麻里のお手伝いのひとつだったので、望むところだった。ただこのアレックスという男とコミュニケーションがとれるかは怪しいところだった。

 アレックスはこちらに目を向けた。また手を伸ばしてくる。

「じゃあよろしく、マリちゃん」

 その時の彼の表情を、麻里はそのあとどう頑張っても思い出せなかった。おそらく彼の顔を全然見ていなかったのだと思う。長いあいだ麻里の記憶にこびりついたのは、男の妙に大きくて白い手だけだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ