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運命管理局『黒の騎士団』  作者: 東雲 紋次郎
王子の追奏曲
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星の王子の育成日記2

本日も晴天、剣の稽古にはもってこいの日だ。

昔と変わらず稽古は怠っていないが

今は昔と少し変わっていた・・・。


俺のとなりには・・・小さな剣士が、一人




「よし、素振り終わり!休憩にしましょう王子!」


「ふぅ、ふぅ・・・剣はいいものだな!スチール!」



あれからというもの、王子になつかれてしまって

嬉しい反面少し鬱陶しくもある。



「ねぇねぇ、スチール。」


「お、王子、私はそろそろ休憩を・・・。」


「なら休憩しながら話相手になってくれ!」



・・・とこのように

俺には休憩時間もなくなってしまったのである・・・。


「僕は、スチールのような強い剣士になるぞ!」


「それは素晴らしい、ですがお勉強も忘れてはいけませんよ?」


「え、ええ・・・クインテットおばさん、厳しいんだもん・・・。」


「おば・・・クインテットさんは王子のためを思って・・・。」



お、おばさん・・・!あのクインテットも王子からみればおばさんなのか!

笑いが耐えられそうにない・・・傑作すぎる・・・!

いやいや!ここで笑ってしまうと王子に悪影響が!

我慢するんだ!スケルツォ=スチール!


そういえば、昔はクインテットとよく言い争ったものだな・・・。

あの時彼女はそれはそれは美しかった、しかし剣士の俺と彼女では・・・おっといけない。

ぼーっとしてしまった。



「・・・スチールさ、休憩の時、時々城下町に行くよな。」


「ああ、お城の仕事は大変ですからね・・・癒しを求めに行くのです。」


「ふぅん・・・大変なんだな。」



主に王子のせいですけどね・・・。

なんなら今すぐにでも城下町に行きたいですよ・・・。

王子に捕まらなくてすみますからね!


「癒しって、何があるんだ?城下町に・・・。」


「そうですね・・・私はいつも歌子の歌を聴きに行きますね。」


「歌子?城にもたくさんいるじゃないか。」


「ああいう、王族の嗜みみたいなのじゃあなくて、所詮庶民が楽しむ様なものでしてね・・・。そういうのも聴きたくなるんですよ。」


「僕も聴いてみたいなぁ。」



・・・ん?

これは、かなり良い考えじゃないか?



「なら・・・こっそり城下町に出かけませんか?」





庶民風の服に王子を着替えさせて

お忍びで城下町に出かけた


この国最強の俺がいるのだ

何が襲って来ても何の問題もないが


「王子、くれぐれもバレないようにお願いしますよ?」


「こ、ここが城下町かっ・・・!」


「はしゃがないで下さい、バレたら怒られちゃいますよ?」



・・・俺が・・・。


「む、それ嫌だな、気をつける!」



王子はなついた人間に対しては意外といい子なのだ

うまくいえば何でも聞いてくれるし

しっかり約束も守る。


いけない思考にたどり着く事もなくはないが

超えてはいけない一線は決して・・・。


いや、たった今超えてるのだが。



「おお!歌子だ!あの子可愛いなぁ!スチール!」


「可愛いですが野郎ですよ。」


「なんだ男か・・・。」



このがっかり顔・・・王子も男なのだな・・・。

王子と同い年位だろうか、あの歌子は俺のお気に入りだ。


声変わりとはまだ無縁の声に、繊細な旋律・・・。

感情を込めた歌声が聴く者を魅了するのだ。



「なぁ、お前うちに来ないか?」


「・・・は、はぁ・・・?」



馬鹿王子・・・何ナンパしてるんだ!

確かに城で聴けるとなると

少し嬉しいけれども!


「僕は感動した!君の歌声は素晴らしい!」


「・・・え、えっと・・・。」


「城で歌ってくれないか!?」


「・・・し、城で・・・!?」


やばい、歌子は客の気を引くのに

このままではバレる・・・。


ここは・・・!


強制的に二人共担いで城に連れて帰る・・・!!

・・・完全に誘拐犯だこれ・・・。





「な、なんなんですかー!もうー!!」


「悪いな・・・歌子君・・・。」


「お前、名前はなんて言うんだ?」


「・・・え、名前なんか無いけど・・・。」


「王子、この少年は家も家族もありません。名前なんかありませんよ。」



・・・おっと、余計なことを言ってしまった。



「おおぉぉー!!じゃあ、この城で暮らせばいいんだ!名前はそうだな・・・カノンなんかどうだ?僕、追奏曲が一番好きなんだ!」


「ちょっと王子・・・!そんなの認められる訳・・・。」


「か、カノン・・・。」


「って!なんか気に入ってるし!」


「ふふ、考えがある!今日の音楽祭にこっそり出演してもらう!」



ダメだ・・・もうだめだ・・・。

俺怒られる、絶対怒られる・・・。

絶対にばれる・・・。


「あの・・・勝手に話を進められても・・・。」


「・・・なぁカノン、僕と家族にならないか?」


「・・・えっ?」


「それで城で歌うようになって、世界中にお前の歌声を聴かせるんだ!」


「・・・それは、とても素晴らしい話ですけど・・・。」


「やってみたくないか?」


「・・・やりたいですけど・・・。」


「じゃあ決まりだ!スチール!カノンを風呂にいれてやってくれ!僕は衣装を用意する!」



・・・もうやるしかないな・・・これ・・・。

どうあがいてもバレるんだ・・・。

うまくいくかは解らないが、王子に付き合おう。







「やだぁ!やめろぉ!服を脱がすなぁ!」


「・・・変な気持ちになるだろ・・・早く脱いで入れ・・・。」


「熱い!水が熱い!」


「これはな、お湯って言うんだ、熱くはないだろ?」


「白いモコモコが気持ち悪いぃぃ!」


「すぐ気持ちよくしてやる。」



全く・・・ホームレスのガキを風呂に入れたら

うるさいのなんかわかってるのにな・・・


侍女たちが外で何かヒソヒソ話している・・・。

ああ、終わった・・・俺色々終わったわ・・・。



「・・・あ・・・なんか、きもちぃ・・・。」



なんか急におとなしくなったな・・・。

そうだよな、ここの風呂って気持ちいいんだよな。

泡もなんかきめ細やかで・・・。





そしてきれいになったカノンに

王家にはいくらでもあるような髪飾りを取り付けて・・・。


「・・・なかなか、様になってるじゃないか・・・。」


「な!いいだろ!スチール!」


「・・・何か照れるよ・・・。」


ここまで準備したらもう、やるしかない。

とはいえ・・・この城の歌子は音楽家のクインテットの人選だ

この子も彼女に気に入られなければこの城ではいられないだろう・・・。


彼女の耳は肥えてるし難しいだろうな・・・。





・・・そうこう考えている間に次はいよいよカノンの歌の番だ


「さっきの人っすげーデブだったなー。」


「なかなか気楽ですねぇ王子、次がカノンの番ですよ。」


「ふぅん・・・まぁ大丈夫だ。」


なにが大丈夫なんだ・・・。

そんな不安を他所にカノンは舞台に立つ


キラキラした目をしやがって・・・そうだ

これが失敗してもうちの養子に迎えよう

そうすれば王子も納得するだろうし


・・・なによりこれ。

この歌声が毎日聴けるのだ・・・ああ。

このままこの旋律に飲まれて音楽の一部になりそうだ・・・。


「なんて素晴らしい歌声なのかしら・・・!あの子の名前は!?」


「カノンという少年です!僕が連れてきました!!」


・・・雑音ノイズがうるさいな・・・全く迷惑な・・・。

クインテットめ、黙って聴いていられないのか・・・?ん?


「彼を正式に城に迎え入れましょう!詳細を教えて頂戴!」


「えっとね!スチールが・・・!」



・・・悪いことはするものじゃないなと

今回ばかりは心底思ったよ。


こうしておれはたっぷり怒られ

減給2ヶ月となり・・・


「す、スチール・・・『といれ』ってどうやってつかうの・・・?」


王子と一緒にカノンの面倒も見ることになった・・・。

どうやら神様は、俺に平穏を与えてくれるつもりはないらしい。


だけど、今俺は幸せだ。

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