星の王子の育成日記1
―――ダイヤモンド王国、そこは4つの国でも最弱であった
だが、たった一人の剣士により戦争では決して不利にはならず
同等に近い戦いを繰り広げていた。―――
そんな時代も今は昔
戦争はなくなり、平和な世となっていた。
城下町では歌子が歌い。踊り子達も踊りだす。
4つの国の人々は自由に国を行き来した。
そんな世で、ダイヤモンド王国の最強剣士は
国王に呼び出されていた・・・。
「スケルツォ=スチール、入りたまえ。」
「はっ!」
戦争がなくなってからというもの
戦う場所は無くなってしまった
戦わない戦士などただの役たたずだ。
「やぁ、よく来たねスチール。」
「お呼び頂き光栄です、国王。」
今日呼ばれたのは何故だろうか。
解雇だろうか。やはり解雇だろうか。
戦しか脳のない私は既にこの国に必要なものではないのだろうか。
「・・・なにをビクビクしてるんだい?スチール?」
「・・・国王が言いたいことはわかっています・・・!すぐに荷物をまとめます!」
「違うからね!?出てけとかじゃあないからねぇ!?」
「・・・え?」
なんと慈悲深きお方だろうか
やはり国王には一生ついていこう。
「実は、僕の息子について欲しいんだよ。」
「ええぇ!?今あなたに一生ついていくと誓ったばかりです!」
「そ、それはすまないけど・・・。」
「しかし国王の願いとあらば!何でも申してください!」
「い、今言ったじゃん・・・。」
そうだった、これ以上国王の手間になる訳にはいかない・・・。
しかし王子か、実はお会いしたことがない。
「スチールには戦でもお世話になったけど・・・僕、ひ弱だからさ?息子には強くなって欲しいんだ。」
「そんな!国王の政治は素晴らしいものです!」
「でも、息子にはたくましく育って欲しいからさ。息子の面倒、見てくれないかな・・・?」
「もちろん!喜んで!」
そんな感じで俺、スケルツォ=スチールは
この国の王子の、お世話係に任命されたのである。
このスチール、命に変えても王子の立派な国王に・・・!
「ねー、入ってくるなら入ってきなよ。」
「は、はい!」
王子に気づかれてしまった・・・!
とうとう入るのか、王子の部屋・・・!
「し、失礼します!」
「んー。」
王子はまだベットの上だ。
「この度王子のお世話係をさせて頂く!スケルツォ=スチールという者でございます!」
「あー、きいてるきいてる。」
「王子!宜しくお願いいたします!!」
「・・・いいよ、そういうの。」
「は・・・ですが王子!私はあなたを立派な国王にっ!」
下げていた頭をあげようとしたら
足で頭を踏まれてしまった。
「いらないって言ってんだろ。お前なんか・・・重いよ。」
「・・・も、申し訳ありません・・・。」
「後、僕『王子』じゃなくて、『ダイヤモンド=スター=クリスタ4世』って名前もあるから!」
なんていうか・・・。
・・・長くて覚えにくいんだよな・・・。
この国の王族の名前って・・・。
「今、お前イラっとしただろ?こんな子供に踏まれたからなー?嫌なら帰っていいんだそ?」
「め、滅相もございません・・・。」
「本当に?じゃあさー。もっといっぱい踏んでやるよー!」
キャッキャと笑いながら
・・・俺の頭を永遠とグリグリと踏みにじる王子に
俺は永遠と耐え続けるのだった・・・。
「・・・ったく!あのアホ王子!ガキの分際で人を馬鹿にしやがって・・・!」
その日の晩、俺は酒場に来ていた。
飲み友達であり、戦争時代では敵として
剣を振るいあった、トロイメライ=ファンタジアという男と一緒だ。
「・・・スチール、お前飲みすぎだぞ・・・。」
「うるせー!あんな餓鬼の面倒なんて!見てられっか!」
「まぁ、気持ちは分かるよ・・・うちの王子もわがままだしなー。」
「・・・クローバー=マーチ王子は、おとなしくて良いお方じゃないか・・・。」
「まぁ君んとこのクソガキ王子よりはいい子だよ。」
実は、ファンタジアもクローバー王国で王子のお世話をしているのだ。
戦士から王子のお世話へ、同じ境遇になった彼に
少しでもアドバイスをと思って来たのだが・・・。
「おとなしいうちの王子もさー、気に入らないことがあったらすぐ号泣だぜ。」
「王族ってぇのは皆甘やかされすぎなんだよ・・・。」
ただの愚痴大会になってしまった・・・。
少し飲みすぎたな・・・。
「・・・ちょっと酔いを覚ますか・・・。」
「それがいいよ、店員さんホットミルクを。」
「・・・ん?ホットミルク・・・?水とかじゃないのか?」
「お待たせしま「ちょっとまてぇい!そんなんでホットミルクなんて呼べるかぁ!」
なんかしらんが変な少年が乱入してきた
すごい勢いでホットミルクを強奪し
入れ直し始めたのだ・・・。
え、なにこれ・・・。
やたらうまいホットミルクを出された俺は
完全に酔いが覚めてしまった。
「・・・なぁ、ファンタジア・・・。王子とわかり合うには・・・どうすればいいだろうか・・。」
「やっぱり最終的にはそれを聞いてくると思ってたよ。お前真面目だもんなぁ。」
くっくっく、とファンタジアは笑う
やはり初めからわかっていたか
どうやら俺はわかりやすい性格らしいからな・・・。
「ガキなんかさぁ、機嫌とってりゃ一発だよ。」
「機嫌か・・・。」
「よぉーし!ここは俺も人肌脱いでやるよ!せっかくお前と酒が飲める位、平和な世になったんだからな!」
「助かるよ、ファンタジア。」
「じゃあ明日、王子達の交流会をしよう。」
「・・・ん?明日?」
「今晩中に話つけろよ。」
・・・なんて無茶苦茶な!
でも、これはやるしかない!
その晩、俺は徹夜で交流会の用意をしたのであった・・・。
―――そして次の日―――
「クローバー=マーチ王子とトロイメライ=ファンタジア伯爵が到着しました!」
「扉を開けろ!!」
・・・本当に間に合った、我ながら無茶をしたものだ
というかアイツ伯爵になったのか
少し羨ましい。
「今日は来てくれてありがとう、マーチ王子にトロイメライくん。」
「こちらこそ、お招き頂きありがとうございます、国王。」
アイツ敬語なんか使えたのか・・・。
いや当然といえば当然なのだが・・・。
「なぁ、スチール!」
「は、はい王子なんでしょう。」
すこしぼーっとしてた
危ない危ない
「マーチ、呼んでくれたのスチールなんでしょ!?えへへ、ありがとな!」
顔を少し赤くしてニカッと笑う王子・・・。
・・・。
な、なんだ、可愛いじゃないか。
とてとてとマーチ王子の元へ走っていき、二人で楽しそうに遊んでいる。
こうしてると、普通の子供なんだな。
そっか、そうだよな・・・普通に子供だもんな。
「くっくく!ほら見ろ、さっそく名前で呼んで貰えたじゃないか、スチール?」
「・・・あ、ほんとだ・・・。」
下品に笑いながらファンタジアがやってきた。
こんな奴だが、今回は本当に助かった。
「それにな、スチール、子供同士で遊んでて貰うと面倒係はスゲー楽なんだぜ?」
「成程、それは確かに・・・。」
「おい!スチール!」
びっくりした、王子が服の裾を引っ張って来た
そういうことをされると本当に可愛らしく見える
位置的に上目遣いなのも子供っぽさを感じさせる
・・・これは父性本能というやつだろうか。
「今日はお前のおかげでとっても楽しいからな!特別にお前も一緒に遊んでいいぞ!」
「・・・はい?」
「くく・・・よかったじゃないかスチール、王子と仲良くなりたかったんだろ?」
「そうなの?スチール?」
「・・・・あ、ああ!そうですよ王子・・・。」
「じゃあさ!鬼ごっこしよ!」
ニヤニヤと笑うファンタジア・・・。
お前・・・子供二人の面倒を俺ひとりに丸投げするつもりだな・・・。
しかしここで拒否してしまっては
せっかく心を開いてくれた王子に申し訳ない・・・。
結局、俺は日がくれるまで王子達の遊びに付き合ったのだった・・・。
戦争は終わったというのに・・・。
俺の平穏はいつ訪れるのだろうか・・・。