願いを叶える死神 中編
目が覚めるとそこはいつもの自分の部屋だった
なんだか死神が出てくる夢を見ていたきがする・・・。
そんなことより今日は例の計画を実行しなければ。
ピンポーン
だれだ?こんな時に・・・。
寝ぼけ眼で玄関を開けると
俺は驚いて完全に目が覚めてしまった。
「・・・る、泪!?」
「えへへ・・・逃げて来ちゃった。」
俺の失った大親友、黒鳥 泪が目の前にいたのだ。
思わずほっぺをつねる。
夢じゃ・・・ない、痛い、すげー痛い。
「け、警察とかに連絡しなきゃ・・・!」
「あ!待って!電話とかはまずいんだ!・・・それよりちょっとかくまってよ!」
そういえば『逃げてきた』って・・・?
大きな鞄を下ろすと泪は俺に抱きついてきた
「よかった、本当に無事だったんだね!」
「そりゃぁ、こっちの台詞だけど・・・。」
泪曰く、犯人の性格からして本当に俺が無事に帰れたのか心配だったそうだ。
俺が泪を想っていたように、泪も俺を心配してくれていたのか。
とにかく嬉しかった、良かった、本当に。
逃亡生活で飯を食ってないというので、親が家に居ない生活で身につけた手料理を
目一杯振舞うことにした。
「おいしい!勇葉、いい奥さんになるね!」
「だ、旦那さんじゃなくて!?」
「ん?んー・・・どっちにしても美味しいよ!」
天然な所も昔のまんまだ・・・
いや、監禁生活で成長できなかったのかもしれない
それより痛々しいのが・・・。
「やっぱ、片腕じゃ食べにくいか?」
「ううん、斬られたのが左腕でよかったよ、右利きだからねぇ。」
「そ、そうかっ。」
「それより・・・勇葉、なんかかっこいいパンツ履いてるね。」
ニコ、と笑う泪・・・俺、寝起きでパンツ一丁じゃないか!
は、恥ずかしい・・・!
「き、着替えてくる!」
「アハハ、いってらっしゃーい。」
部屋に駆け込むとそこには
夢に出てきた・・・いや、あの時会った
死神の少年が立っていたのだ。
「どう?願いは叶ったでしょ?」
「あ、ありがとう・・・えっとぉ・・・。」
「あ、僕?名前はねぇ、『カイ』って言うんだぁ!よろしくね!」
「ああ、ありがとう、カイ君・・・。」
フフン、と鼻をならすカイ君、その姿はただの少年のようだった。
しかし・・・夢じゃ無かったのかやっぱり。
「本当に死神っているんだな・・・。」
「まぁね!毎日大忙しなのに僕ときたら!偉ぁ~い死神さんですから?他の仕事も掛け持ちしているのです!えっへん!」
「ふぅん・・・掛け持ちって何やってんの?」
「え、えと・・・運命管理局みたいなもん・・・かな?」
死神の仕事と何か違うのだろうか?
そう疑問に思った頃、カイ君はいそいそと動き始めた。
「あの子、こっちに来ちゃうから・・・僕はこの辺で!」
「・・・あ、帰っちゃうのか・・・。」
窓から鎌に乗って飛んでいった
魔女の箒みたいだなあれ・・・。
「ねぇ勇葉・・・あれ?まだパンツ一丁なの?」
「あっ!なっ!今からズボン履くんだよ!」
「それより、ぼくお風呂も入りたいなぁ・・・ずっと、入ってなくって・・・。」
それもそうだろう、久しぶりに風呂も入りたいだろう・・・!
急いで入れてやりたいが、うちの風呂はタイミング悪く故障中で・・・。
「銭湯までわざわざ歩かせて、ごめんな泪・・・。服も俺のじゃ小さいし・・・。」
「え?入れればもうなんでもいいよー!それに勇葉とお風呂なんて久しぶりだし。」
「お、おうっ!そうならいいんだけど・・・。」
とりあえずお金なんて持ってないだろうし、せめて代金は俺が払おう・・・。
帰りにいちご牛乳買ったら喜んでくれるだろうか・・・。
そんなことを考えている間に銭湯についてしまった。
「なんだ、すぐ近くじゃないか。謝るもんだから凄い遠いのかと・・・。」
「はは、悪りぃな・・・。」
話していると泪はモゾモゾして、こちらをチラっと見た
一体なんだろうか?
「ねぇ・・・勇葉・・・脱ぐの手伝ってくれない?」
しまった!なんてこった!
泪は片腕じゃないか!
こんなとこで着替えるのだって大変に決まってるのに・・・!
俺ってなんて気が回らないんだ!
「ごめん!気がつかなくて!」
「あはは・・・でも、逆にノリノリで脱がされてもちょっと怖いしね・・・。」
気が回らない男でよかった!俺!
泪の服を脱がして見ると、あちこちに傷の跡があった
「・・・やっぱり、色々されたんだな・・・。」
「ああ、違うんだ、直接暴力とかはほとんどされなかったよ・・・ちょっと色んな野生動物と戦わされたりしたけど。」
「や、野生動物と?」
「片腕で武器も無しに・・・ワニは強かったなぁ、よく生きてたよ僕・・・。」
片腕で武器も無しに?ワニに・・・って、勝ったの?え?
・・・これは・・・泪には逆らわないほうがいいかもしれない・・・。
「あ、勇葉そこは自分で脱ぐから・・・。」
「・・・え?」
「「あっ・・・。」」
・・・気まずい。
思わず黙々と脱がしていた・・・。
泪の顔は真っ赤だし、俺もしゃがんでたから目の前だし・・・。
本来ならこの気まずさで逃げ帰り、2年は引きこもる所だろうが・・・
今日の俺は違う!しっかりフォローして面倒を見なければ!
これが親友パワーだ!多分!
「い、いやーしかし俺の服が小さいなんて!身長は随分成長しちゃったんだな泪!」
「身長『は』・・・ねぇ?」
や、やらかした・・・。
だってその・・・成長してない部分だってあったほうが
俺としては安心するし・・・いやこれは言っちゃダメだな。
とりあえず片腕じゃ色々大変だろし体なんかも洗ってやろう・・・。
「・・・ありがと、勇葉。」
「お、おう・・・ごめんな?」
「いいもーん・・・あ、そうだ勇葉、『雷の眼』って聞いたことない?」
「いかづちのまなこ?」
「・・・聞いたことないんならいいんだけどさ。」
なんだろう、雷の眼って?
聞いたことないな・・・。
「なぁ・・・泪、誘拐犯についてわかってる事とかってないのか?」
「ん?うーん・・・女の人で名前と喋り方が変わってて・・・。」
「名前わかったのか?」
「黒雷様って呼ばされてさぁ。」
「黒雷・・・。」
「あと、真っ黒なピアス毎日、ずっとつけてたな・・・運命がなんとかってよく言ってたっけ・・・。」
性格的な事しか泪からは出てこないな・・・
これじゃあ警察も上手くは探せないか
外見的にわかっているのは昔俺が証言した事と・・・。
いつも夢に出てくるあの、真っ黒なピアス位・・・。
あれ?あのピアス・・・最近どっかで見たような・・・。
風呂から上がって泪に服を着せてやっていると、大事そうに持っていた
大きな鞄を出してきた。
「勇葉、これも付けるの手伝ってくれない?」
中から出てきたのは・・・機械で出来た、腕のようだった。
言われる通りに取り付けるとびっくり
その腕はまるで本物の人間の腕のようになめらかに、自然に動くのだ。
「それ・・・すごいな。」
「黒雷様が作ってくれたんだ・・・あの人すごいよね、本当にこの世の人間なのかなぁ?」
それを聞いて思い出した・・・最近みた、あの誘拐犯と全く同じ
真っ黒なピアスをつけていた少年の存在を―――